「グスコーブドリの伝記」

一条真也です。

ブログ「水と人類」に書いたように、人類の命運を握っているのは「火」と「水」です。
「火」のシンボル・火山が登場するアニメ映画「グスゴーブドリの伝記」を観ました。
宮沢賢治の童話が原作ですが、この映画では擬人化した猫たちが登場します。
以前も賢治原作の「銀河鉄道の夜」を映画化した杉井ギサブロー監督と、キャラクター原案担当のますむら・ひろしのコンビが復活しました。


主人公ブドリの声を小栗旬、妹ネリの声を忽那汐里が務めています。
イーハトーヴの森で家族と暮らしていたグスコーブドリは、森を直撃した冷害のせいで両親と妹を一度に亡くしてしまいます。たった1人で残された彼は懸命に働き、長じて火山局で働き始めます。しかし、またしても大規模な冷害が発生します。
かつての惨事を二度と繰り返さないようにするため、グスコーブドリは自分の身を呈して冷害の被害を防ごうとするのでした。
詳しい〈あらすじ〉を知りたい方は、こちらをクリックして下さい



ただ、この映画では原作が至るところで改変されており、意味不明になっています。
多くのレヴュアーも指摘していますが、非常に「わかりにくい」です。特に、アニメ映画ということで映画館に足を運んだ子どもたちには退屈きわまりなかったでしょう。
ますむらひろしの猫キャラを使う必然性も、今回はまったく感じませんでした。
わたしは、ブログ「銀河鉄道の夜」で紹介した映画も、ブログ「KENjIの春」で紹介した映画も大好きです。どちらも素晴らしい傑作だと思っていますが、今回だけは猫でないほうが良かった。猫の「人さらい」、いや「猫さらい」なんて絶対におかしいでしょう。


この物語は「自己犠牲」がテーマとなっていますが、これは「銀河鉄道の夜」の「さそりの火」、「よだかの星」、さらには遺稿「雨ニモマケズ」にも色濃く触れられています。
2011年3月11日に東北で発生した東日本大震災では、「自己犠牲」が実際に多発しました。それを実践したのは、わが子を最後まで守ろうとした母親、殉職した警察官や消防団員、そして福島原発の現場で事故処理に当たった「FUKUSHIMA50」といった人々でした。彼らの姿が、火山の噴火を触発することによって冷害を温暖化しようとする主人公ブドリに重なります。原発は地球の温暖化を阻止するために推進されてきたわけですので、火山の噴火によって温暖化を図るというのは痛烈な皮肉ですが。


ただし、アニメの完成度は非常に高かったと思います。
猫キャラの人物描写には最後まで違和感がありましたが、風景描写は素晴らしかったですね。作品に登場するお化けが「千と千尋の神隠し」を彷彿とさせるのですが、建物や背景もジブリの影響を強く感じました。
街の景観は、なんだか「東京ディズニーシー」みたいでしたね。
個人的には、イーハトーヴが美しく描かれていたので嬉しかったです。


ドリームランドとしての日本岩手県



イーハトーヴとは、賢治が「ドリームランドとしての日本岩手県」として描いた幻想世界です。イーハトーヴに限らず、わたしはファンタジー作品に登場する幻想世界に昔から魅せられてきました。『よくわかる伝説の「聖地・幻想世界」事典』(廣済堂文庫)という監修書を刊行して、多くの幻想世界を紹介したこともあるほどです。


前代未聞! 幻想世界のカタログ



賢治が幻視した「イーハトーヴ」をはじめ、『不思議の国のアリス』の「ワンダーランド」、『ガリバー旅行記』の「ラピュータ」、『ピーターパンとウェンディ』の「ネヴァーランド」、『オズの魔法使い』の「オズの国」、『ナルニア国ものがたり』の「ナルニア国」、『指輪物語』の「ミドルアース」、『ゲド戦記』の「アースシー」、『はてしない物語』の「ファンタージェン」、そして『ハリー・ポッター』シリーズの「ホグワーツ」・・・・・。
これほど、さまざまな幻想の舞台を集めた本は珍しいと思います。
幻想世界が好きな方は、ぜひ、ご一読下さい。


2012年7月15日 一条真也

星の言葉、月の音楽

一条真也です。

ブログ「グスコーブドリの伝記」で紹介したアニメ映画は少々、物足りませんでした。
こころが消化不良のまま映画館を出たわたしは、同じ商業施設に入っている書店に向かいました。そこで何気なく雑誌コーナーを眺めていたわたしの目に、衝撃的な表紙の雑誌が2冊同時に飛び込んできました。桑田佳祐を表紙にした「SWITCH」7月号、そして矢沢永吉を表紙にした「Rolling Stone」8月号です。
わたしは、迷わずその2冊を手に取ってレジへと向かいました。


表紙買いした2冊の雑誌



このブログを読んで下さっているみなさんならおわかりのように、わたしにとって桑田佳祐矢沢永吉は最も敬愛するロックスターです。カラオケに行っても、この2人の歌ばかり歌っています。わたしは来年50歳になりますが、理想の50代の姿をクワタに、理想の60代の姿を永ちゃんに見ているのかもしれません。
2冊の雑誌には、2人のスーパースターの言葉で満たされていました。



「SWITCH」7月号は、「桑田佳祐クロニカル〜愛と刹那の25年史」と題する特集が掲載され、冒頭には次のようなリード文が書かれています。
桑田佳祐スペシャルベストアルバム『I LOVE YOU−now&foever−』をリリースする。ソロの代表曲がほぼ時系列で収録された本作を聴くと、“流転”という言葉がふと頭を過る。1978年にサザンオールスターズの一員としてデビューした彼は、まずポップスターとミュージシャンシップの狭間で夢を見続けることで最初のディケイドへと向かった。そして1987年、ソロアーティストとして二度目のデビューを飾ると、今度は“サザンの桑田”と“桑田佳祐”の往復を始めたのだった。
ポップとロック。カウンターカルチャーサブカルチャー。集団と個。そして大衆と孤独・・・・・。合わせ鏡のような往来の中で、彼が見つけてきたものとは何だったのか?
“桑田が桑田佳祐の25年間を徹底的に語り下ろす”。それは懐かしくも新鮮な、希代のポップスターが次の未来を夢見るためのベンチマークとなっていった」


特集の中では、さまざまな桑田佳祐の名言が紹介されています。
特に、「月」という曲についてのコメントが目立ちました。たとえば、次のような発言です。
「(『月』は)たまたま寝ててパッと起きた時にできたんですよ。
カッコいいでしょ? なんだか『イエスタディ』みたいな話で」
「『月』に関して言うと、自分のオリジナル曲の中で一番好きな曲なんです。
きっとこれからもあれほどの曲は作れないと、半分諦めているくらいです」



わたしは、この発言を読んで、けっこう驚きました。
あれほど多くの名曲を生み出している桑田佳祐本人が「自分のオリジナル曲の中で一番好きな曲」と認め、さらには「きっとこれからもあれほどの曲は作れないと、半分諦めている」と告白しているからです。ここまで特定の曲に思い入れがあるとは!
改めて、「月」を聴き直してみると、たしかに心に沁みるバラードです。
コメントの中に「イエスタディ」が登場していますが、ブログ『ナミヤ雑貨店の奇跡』でも紹介したように、やはり「月」を歌った桑田佳祐の「月光の聖者達〜ミスター・ムーンライト」はザ・ビートルズの「ミスター・ムーンライト」のオマージュとして知られています。
ビートルズといえば、特集には「僕らの世代のビートルズファンは、ポール派はニューミュージックで、ジョン派はロックンローラーになっちゃうんです。多分僕はその真ん中で両派の言い分にいつも首を傾けていたんですね」というコメントも紹介されています。
この発言は、桑田佳祐の音楽の本質を言い表しているような気がします。



さて、次は矢沢永吉を表紙にした「Rolling Stone」8月号です。
「自分のケツ、拭けてるか?」と題する巻頭1万字インタヴューです。
その冒頭のリード文は、以下のように書かれています。
「日本のロック界のBOSS=矢沢永吉。今年はデビュー40周年のアニバーサリーイヤーだ。そんな年に発売されるニュー・アルバムのタイトルは『Last Song』。ドキリとしたファンも多いと思う。このタイトルが意味するものは何か? あるいは、原発のこと、政治のこと、そしてわれわれ国民自身のこと。ヤザワは、正面から堂々と語ってくれた。『Last Song』、その先にあるもの、そして日本の問題点。恒例の1万字インタヴューはキング・オブ・ロック! E.YAZAWAが吠える!」



永ちゃんの発言のすべてがカッコいいのですが、以下に名言を並べます。
「50歳の時の『お前だけを』は“矢沢永吉”を思ったんだね。そしたら歌えなかった」
「62歳のオジサンが炎天下で30曲。
そのカツカツ感の中に、なんとも言えないセクシーを出せたらいいな」
「マスコミが作る“時代”に合わせるか、『こういうことをしたいからこうする』って生き方か。僕は、後者のほうがひとつの生き物として最高だと思う」
「中小企業の経営者が、いちばんまじめに生きてるんじゃないか。大企業や国家が今いちばんヤバいのは、誰もケツを拭いていないってところ」
いやあ、いいこと言いますねぇ! 特に、最後の発言が最高です。
永ちゃん自身が、かつてはスタッフの裏切りにあって50億円もの借金を背負いました。
でも、誰にも頼らずに自分だけの力で借金を完済したのです。
永ちゃんの言葉は、自分でケツを拭いてきた男だけしか言えないセリフなのです。


桑田の「月」のように、永ちゃんにも「月」を歌ったバラードの名曲があります。
コンサートの最後によく歌う「A DAY」という曲です。
ブログ「今頃、永ちゃんに夢中!」に書いたように、じつは、わたしは永ちゃんのファンになってから日が浅いです。なので、「A DAY」の存在も知りませんでした。
しかし、「東京の止まり木」こと「DAN」のマスターが教えてくれました。
わたしが「時間よ止まれ」「チャイナタウン」「ひき潮」「YES MY LOVE」などを熱唱していると、マスターが「どれも最高に上手いですけど、この曲をぜひ憶えたらいいですよ」と言って自らスタンドマイクで歌ってくれたのです。
「くらい闇のはてに 青い月の光♪」ではじまる「A DAY」を聴いたとたん、わたしは一発で気に入りました。最後が「月に抱かれて♪」で終わるところもいいですね。



矢沢永吉桑田佳祐。どちらも日本ロック界の至宝です。
わたしは、この2人に「国民栄誉賞」を与えるべきだと思います。
2つの星の言葉と月の音楽は、わたしの心の一番深い場所に刻まれました。
明日の17日(火)、熱海で全互協の全国総会が開催されます。ブログ「ロック対決」でわたしと歌合戦を繰り広げた小泉博久さんと現地で合流する予定です。
2冊の雑誌を熱海まで持っていって小泉さんにプレゼントしようかな?


2012年7月16日 一条真也