新党のネーミング

一条真也です。

みなさんは、もうお気づきかもしれませんが、わたしは政治の話をあまりしません。
まあ冠婚葬祭業ということで、あらゆる政治的立場の方々とお付き合いがあるということも理由の一つです。
それと、別にわたしが政治の話をしなくとも、他に政治に詳しい方がいくらでもいるというのも理由の一つですね。
でも、今日は、政治というよりもネーミング、つまり文化の問題として、ぜひ新党の名前を話題にしたいと思います。
そうです、「たちあがれ日本」のことです!


                  新党名を各新聞はどう見たか


いやあ、なかなかインパクトのある党名ですよね。
今朝の「読売新聞」には、「党名、ガンダムから?」という記事が掲載されていました。
人気アニメ「機動戦士ガンダム」や、スーパー戦隊シリーズの主題歌で「たちあがれ」というフレーズが使われているそうです。
そこから、「若者うけを狙った」と冷やかす意見がネット上などで飛び交ったそうです。
若者には受けても、「たちあがれ日本」に参加するメンバーは平均70歳近いですね。
わたしは「人は老いるほど豊かになる」と考えている人間ですので、平均年齢の高さは別に問題にならないと思います。
そういえば、「みんなの党」の渡辺喜美代表が記者会見で、「立ち枯れ日本?」と聞き間違えたフリをしていましたね。
フジテレビ「とくダネ!」では、小倉智弘アナが「たそがれ日本」なんて言ってましたね。
うふふ、みなさん、口が悪いですねぇ。
でも、「みんなの党」だって、桑田佳祐の「みんなのうた」みたいですよねぇ。(笑)



それはともかく、読売によれば、「たちあがれ日本」のように、かけ声をそのまま党名にしたケースは珍しいそうです。
海外では、イタリアでベルルスコーニ首相が発足させた「フォルツァ(がんばれ)・イタリア」の例があります。
この「たちあがれ日本」という党名の名づけ親は、なんと石原慎太郎都知事だとか!
石原都知事は、『太陽の季節』で芥川賞そのものをメジャーにした大作家でもあります。
つまり、ネーミングというか言葉のプロですよね。



いくら大作家がつけたとはいえ、それでも違和感の残る新党名・・・・・。
たちあがれ日本・・・」とつぶやきながら、いま読書中の本を手に取りました。
澁澤龍彦 書評集成』(河出文庫)という本です。
ここ数日、澁澤龍彦の良さを再確認まして、未読の作品を読んでいるのです。
ちょうど開いたページに、なんと石原慎太郎著『行為と死』の書評が出ていました。
おお、シンクロニシティ
『あらゆる本が面白く読める方法』(三五館)にも書きましたが、わたしは読書でシンクロニシティを経験したことは無数にあります。
それが、今日も起こったわけです。
それにしても、石原文学をあのシブサワがどう評するのか。
ワクワクしながら読むと、大江健三郎の『日常生活の冒険』と対比させながら、石原文学をじつに深く読み込んでいました。
澁澤龍彦は次のように書いています。
「家父長制思想の代表者、石原慎太郎は、みずから『十九世紀的人間』と称する通り、モラルの解放者ではなくて、秩序の味方である。性に対する見解が、大江健三郎と真っ向から対立するのも、故なしとしない。」



「家父長制思想の代表者」とか「十九世紀的人間」とか「秩序の味方」とか、一人の人間の本質を短い言葉でスパッと表現できるものですね。
さすがは、澁澤龍彦です。
彼は、『行為と死』の書評の最後にこう記していました。
「『行為と死』には、ファナティックな民族主義に対する露骨な嫌悪が示されているが、それでも随所に、『日本人ここにあり』といった気概が穏見するのは否めないだろう。」

おお、「日本人ここにあり」!
なんだか、「たちあがれ日本」に似ていませんか?
いやあ、面白いですねぇ。それにしても、先日のブログにも書いたように、名前とは世界最小の文芸作品ということを改めて感じた次第です。


              『澁澤龍彦 書評集成』(河出文庫)より


2010年4月8日 一条真也