出版界の丹下段平

一条真也です。

久々に四谷の三五館を訪問し、星山佳須也社長にお会いしました。
星山社長は、わたしの最も尊敬する出版人です。
人呼んで、「出版界の名伯楽」です。
なにしろ古巣の情報センター出版局時代に、椎名誠『さらば国分寺書店のオババ』、村松友視『私、プロレスの味方です』、藤原新也メメント・モリ』など、数多くのベストセラーを手がけられ、売れっ子作家を生み出してきた出版界の生ける伝説なのであります。


                  三五館の星山佳須也社長

  
また、自ら三五館を立ち上げられてからも、青山圭秀『理性の揺らぎ』をはじめとした話題の書を世に送り続けられてきました。
特筆すべきは、あの社会現象にまでなった『千の風になって』も、星山社長のプロデュースによるものだということです。
千の風になって」は、「私のお墓の前で泣かないでください」というフレーズではじまることからもわかるように、死者から生者へのメッセージ・ソングですが、作者不明の、わずか12行の英語の詩でした。
原題を「I am a thousand winds」といいます。
欧米では以前からかなり有名だったようです。
1977年、アメリカの映画監督ハワード・ホークスの葬儀では、映画俳優のジョン・ウェインがこの詩を朗読したそうです。また、1987年、マリリン・モンローの25回忌のとき、ワシントンで行なわれた追悼式の席上でも朗読されました。
この詩の存在を週刊誌で知った星山佳社長は、大きな感銘を受けられ、1995年にこの詩を『1000の風〜あとに残された人へ』(南風椎訳)として出版しました。
詩に美しい写真が添えられた本当に素晴らしい本です。
わたしの新刊『また会えるから』(現代書林)は、この本に強い影響を受けています。



ともあれ作者不明の詩は、『1000の風』として初めて日本語に訳されたのです。
そして出版されるや、多くの人々の心をとらえました。
作家の新井満氏もその一人でした。
新井氏は同書を一読して、心底からおどろいたそうです。
なぜかというと、その詩は「生者」ではなく、「死者」が書いた詩だったからです。
新井氏は、この不思議な力をもつ詩に曲をつけてみたいと思い立ち、自身による新訳にメロディーをつけました。それが、「千の風になって」です。CD化やDVD化もされて大ヒットし、現実の葬儀でも、この曲を流してほしいというリクエストが多いです。
喪失の悲しみを癒す「死者からのメッセージ」として絶大な支持を受けているわけです。
その大ブームの原点は、星山社長の先見性にあったのです。
メメント・モリ』と『1000の風』という「死」に関連する2冊の本を世に生み出されたことは星山社長の偉業ですが、わたしも「幸福な死」といういうものを考え続けている人間ですので、本当に素晴らしいことだと感服しています。


             サンレー40周年祝賀会で挨拶される星山社長


さらに、わたしは、星山社長にひとかたならぬ恩義があります。
まず、『ハートフル・ソサエティ』にはじまり、『孔子とドラッカー』、『龍馬とカエサル』、『法則の法則』、『あらゆる本が面白く読める方法』、『涙は世界で一番小さな海』、『むすびびと』と、わたしの著書をたくさん出版して下さいました。
本名の佐久間庸和でも『ハートフル・カンパニー』を出していただきました。
同書は、わが社の40周年記念出版だったのですが、星山社長には記念祝賀会にもお越しいただきました。
そこで御挨拶をお願いしたところ、マイクを持たれて、「わたしは、この人が会社の社長でありながら、なぜ本を書こうとするのだろうと、ずっと不思議に思っていました」と言われました。ちょっとドキッとする出だしでした。
それから、星山社長は次のように言われたのです。
「今日やっと、その理由がわかりました。この人は、ただ社会を良くしたいために会社を経営し、本を書いているだけなのだとわかりました」と。
わたしは、本当に涙が出るくらい感動しました。
祝賀会の参加者や社員のみなさんも、星山社長のお言葉によって、わたしの真意を理解下さるようになりました。
星山社長には心の底から感謝しております。



わたしは、星山社長にお会いするたびに、「丹下段平みたいな人だなあ」と思います。
丹下段平は、「あしたのジョー」に登場するボクシングのトレーナーで、一人の不良少年にすぎなかった矢吹丈を一流のプロボクサーに育て上げます。
その姿が、多くの一流作家を育て上げた星山社長に重なるのです。
これだけお世話になっていながら、まだ一条真也は三五館さんからベストセラーを出しておらず、星山社長の恩義に報いておりません。
丹下段平の「立て、立て、立つんだ、ジョ〜!」という叫び声のように、星山社長の「出せ、出せ、出すんだ、イチジョ〜!」という声が聞こえてくるような気がします。


              出版界の丹下段平と、あしたの(イチ)ジョー


昨日は、曙橋の韓国料理店でランチを御馳走になりました。
プルコギ、チヂミ、キムチ、そして、石焼ビビンバ大盛り・・・非常に美味でした!
そこで、「隣人」をテーマとした次回作の打ち合わせもしました。
星山社長いわく、今度の本こそは大ベストセラーとなり、かつ小生の代表作となる予感がされるとか。出版界の名伯楽にそこまで言っていただけて光栄です。
この一条真也、不撓不屈の精神で頑張らせていただきます。
星山社長、たいへん御馳走さまでした。
そして、今後とも、よろしくお願いいたします!


2010年4月28日 一条真也