「月の砂漠」

一条真也です。

今夜は満月ですね。
アポロの宇宙飛行士たちは、月が砂漠であることを知りました。
日本の童謡には「月の砂漠」という歌があります。わたしが大好きな歌です。
たとえば、安田シスターズ(安田祥子由紀さおり)が歌う「月の砂漠」を聴くと、とても落ち着きます。彼女たちの歌い方は幻想的で、わたしを夢の世界へと誘ってくれます。


「月の砂漠」は、安田シスターズの他にも、小林旭フランク永井、芹洋子、井上陽水など多くの歌手が歌っています。
でも、この歌の一番の歌い手は、昨年亡くなった森繁久弥とされていたことをご存知ですか。わたしは、故・久世光彦の『ベスト・オブ・マイ・ラスト・ソング』(文春文庫)でその事実を知りました。
森繁は、聴衆を見つめて、一人づつ指さしながら丁寧にこの歌を歌ったそうです。
特に70歳を過ぎてからの森繁の「月の砂漠」は絶品だったようです。
なんでも、それを聴いた人間は必ず泣いたとか。
「あの人にじっと見つめられて、囁くように『月の砂漠』を歌われて・・・泣かない人がいたら、お目にかかりたいものである」と、久世光彦は述べています。
わたしも、i-Pod に入れて、ときどき寝るときに聴いています。
すると、聴いているうちに本当に涙が出てきて、よく枕を濡らします。


砂漠といえば、一昨年に訪れたドバイの砂漠でラクダに乗りました。
後に妙齢の謎の美女(?)を乗せて、夜の砂漠を行きました。
まさに「月の砂漠」の王子さまの心境でした。
王子さまといえば、サン=テグジュぺリの名作『星の王子さま』の舞台も砂漠でしたね。
いつの日か、『月の王子さま』という童話を書いてみたいです。いや、本当に。


                ラクダに乗って、月の砂漠を行く


最後に、砂漠の話を少々。
ドバイの砂漠をながめていて思ったのですが、砂漠というのは人を思索的にしますね。
砂漠を見ていると、いろんなことを考えてしまうのです。
星の王子さま』の主人公は、作者自身がモデルとされるパイロットでした。
サン=テグジュぺリはサハラ砂漠に墜落し、水もない状態で何日も砂漠をさまようという極限状態を経験しています。
そこから、水が生命の源であることを悟り、「水は心にもいいものかもしれないな」という名言を『星の王子さま』に登場させたのです。
また同書には、「砂漠が美しいのは、どこかに井戸を隠しているからだよ」という王子さまのセリフが出てきます。
心の奥底に「思いやり」という水にあふれた井戸をもつ人は美しいのです。
もっと深読みをするならば、王子さまが降り立ったサハラ砂漠の地下1000メートルには、太古に形成された巨大な帯水層が存在するといわれているそうです。
砂漠に封印されたこの「水の化石」の面積は、50万平方キロメートルにもおよぶとか。
もしかすると、サン=テグジュぺリはこのサハラが隠している太古の水のことを知っていて、王子さまに謎めいたセリフをはかせたのかもしれません。



わたしたちは、大切な人との再会の日までこの砂漠のような社会で生きてゆかなくてはなりません。砂漠とは、心なき社会、ハートレス・ソサエティのことなのです。ならば、砂漠に水をやり、心ゆたかな社会、ハートフル・ソサエティをつくろうではありませんか!
水がなくても心配しなくて大丈夫です。
砂漠には、必ず井戸が隠されています。
思いやりという水をふんだんにたたえた井戸が隠されています。
つまり、わたしたちの社会は心なき社会のように見えるけれども、必ず心ある人々が存在しているのです。
わたしは、そんなことを考えました。
なぜかアラビアのロレンスのような格好をして、砂漠に沈む夕日をながめながら。


            夕日の砂漠で「ハートフル・ソサエティ」を夢想する


2010年4月29日 一条真也