『なぜ人は宗教にハマるのか』

一条真也です。

島田裕巳氏の新刊『なぜ人は宗教にハマるのか』(河出書房新社)を読みました。
河出の「14歳の世渡り術」シリーズの1冊です。
この手の児童向けシリーズは、例の山折哲雄先生が書かれた『わたしが死について語るなら』の「未来のおとなへ語る」シリーズ(ポプラ社)などもありますが、もともとは理論社の「よりみちパン!セ」シリーズが元祖です。
各分野の第一線の著者に専門テーマで中学生向け入門書を書かせるシリーズですが、大人が読んでも為になる好著が多いですね。
わたしも、「よりみちパン!セ」シリーズはほぼ全作品を読んでいます。
さて、ご存知『葬式は、要らない』(幻冬舎新書)の著者でもある島田氏が14歳向けに「宗教」を語るというので興味津々で読みました。


                   14歳に宗教を語る


感想は、「ちょっと14歳には難しいのでは?」とも思いましたが、出来うる限り平易に「宗教」について解説しています。
一般的に見て、良い宗教入門書であると思います。
若い頃にヤマギシ会に入り、また一時はオウム真理教とも関わりのあった著者だけあって、「宗教」の魅力と危険性を述べる筆致には強い説得力がありました。
特に、以下のような記述には、文筆家としても非凡なものを感じさせてくれます。
「宗教を信じている人たちは、あらゆる人たちが同じ一つの宗教を信じるようになりさえすれば、対立は消え、平和な世界が訪れると考える。だからこそ、自分たちの宗教をさまざまな人たちに伝えようとするのだが、そうした行為がかえって対立を激しいものにしていくことがある。それほど、宗教の問題は難しいのだ」
著者は、信仰の難しさを短い文章で見事に表現しています。
「おわりに」の最後の文章も力強いです。
「けっきょくのところ、宗教にハマり、またそこを出てきて、現実の社会に復帰していくまでの過程全体が一つのイニシエーションになっていると言える。信仰を捨てたことからくる苦しい状態を試練として乗り越えることができれば、それは貴重な体験になる。試練である以上、それは相当に大変ことかもしれない。でも、試練に立ち向かわなければ、何も解決しないし、先に進むことはできないのだ」



わたしが、本書で最も共感した文章が二つありました。
一つは、「はじめに」に出てくる次の文章です。
「宗教は、人類にとってかかすことのできないものである。ましてそれを無視することはできない。人間について考えるということは、宗教について考えるということでもある。人間には宗教があるが、動物にはそれがない。宗教は、人間が人間であることの証でもある」
もう一つは、第1章「君はもう信者だ!」に出てくる次の文章です。
「人類の社会が誕生してから、私たちはつねに宗教とかかわってきた。宗教が存在しない国などないし、宗教のない民族もない。それは、私たちが生活していく上で、宗教が必要不可欠なものだからだ。私たちは、宗教なしに生活していくことができないとも言える」
この二つの文章には、まったく同感です!
そして、この二つの文章に出てくる「宗教」という言葉を「葬式」に置き換えても意味はそのまま通ると思うのですが・・・・・。
いかがでしょうか、島田サン?


2010年5月3日 一条真也