アレクサンダー像

一条真也です。

今日は朝から一日中ずっとサンレー本社で会議でした。
午前中は役員会、午後からは人事委員会でした。
会議を終えて社長室に戻ると、アレクサンダー大王の像がわたしを迎えてくれました。
最近、ある方からトルコ旅行のお土産に頂いたものです。
その方は、拙著『龍馬とカエサル』(三五館)の熱心な愛読者なのですが、同書の中にはアレクサンダーが登場しています。
そこで、わたしのために重い像をわざわざ買って来て下さったのです。
わたしはアレクサンダーを非常にリスペクトしているので、ものすごく嬉しかったです。
早速、自分でローマで求めたカエサル像や土佐の桂浜で求めた坂本龍馬像と一緒に、アレクサンダー像も社長室に飾ることにしました。


                   アレクサンダー像(手前)


龍馬とカエサル』は、「ハートフル・リーダーシップの研究」というサブタイトルからもわかるように、「リーダーシップ」についての本です。
その中に、アレクサンダーは「火」や「水」といったキーワードとともに登場します。



火といえば、わたしはアレクサンダーのエピソードを思い浮かべます。
彼はアフガニスタン入りの前に荷車に火をつけ、焼いたのです。
彼は必需品を除き、荷物を荷車に載せるよう兵士たちに命じました。
余分な荷物が満載されて一ヵ所に集められると、ラバと馬を放すように命じました。
そして、松明に火を灯し、アレクサンダー自身の荷物を載せた荷車に火をつけました。
そして残りの荷車にも火をつけるように命じたのです。
マケドニア兵は余分な荷物と、遠征中に集めた戦利品のすべてが煙となって立ちのぼるのを眺めました。
なすすべもなく、反対の声も上がりませんでした。
駆け寄って荷物を救おうとする者もいませんでした。
彼らはただ燃えさしと炎を見つめるばかりだったのです。
失望はしましたが、何年間も遠征を続けてきた彼らは、よく知られた自制心と規律を失うことはありませんでした。彼らはむしろ荷が軽くなったことを喜び、とりわけ数週間後にはそのことを感謝することになります。
アレクサンダーの示した模範に倣った将軍は多く、かのナポレオンもその一人でした。
ナポレオンは、モスクワから不運にも撤退したとき、アレクサンダーと同じことを実行しています。
アレクサンダーの行なったことは「必要でないものは携行しない」ということに焦点が当てられ、現在ではロジスティクスの問題とされていますが、わたしはそうは思いません。

これは完全に心の問題です。アレクサンダーは荷車に火をつけ荷物を燃やすことによって、兵士の心に火をつけ情熱の炎を燃やしました。
これまで故郷マケドニアに帰ることばかり考えていた兵士たちは、その後、遠征に対する覚悟を決め、世界帝国建設というアレクサンダーの夢を共にしたのです。



また、水といえば、わたしはアレクサンダーのエピソードを思い浮かべます。
1812年7月にナポレオンの大陸軍がモスクワに向けて進軍し、11月に撤退したあの悲劇の遠征まで、アレクサンダーが1600キロに近いゲドロシア砂漠を越えるのに費やした60日間ほど軍隊が恐ろしい苦難に直面したことはありませんでした。

暑い10月の太陽に照らされながら、兵士と将兵が砂漠を進むにつれて、ひどい惨劇が繰り広げられました。
蹉跌のない馬などの動物の多くは、餌も水もないまま砂漠に倒れました。
兵士は死んだ動物を切り刻んで食べました。
落伍者はさらに困難な事態に直面しました。
本隊の兵士が食料を手にしたころ、彼らのために残されたものは、あっても僅かでしかなかったからです。
しかし、この困難な旅のなかでも、アレクサンダーは兵士たちの心をつかみました。
何人かの兵士がなけなしの水を兜に入れて、喉をうるおすようにとアレクサンダーのところに持ってきました。
兵士たちは、アレクサンダーが楽をするどころか、軍勢の先頭に立って馬にも乗らずに砂地を徒歩で進んでいることを知っていました。
しかし、その貴重なもらった水をアレクサンダーは砂漠に撒いたのです。そして、「君たちのおかげで喉の渇きは癒えた」と言いました。
兵士たちが飲めないのであれば、彼は自分だけ水を飲むつもりはなかったのです。
その後、軍全体がすっかり元気を取り戻し、彼が捨てた水がすべての人の喉の渇きを癒したと思われるほどだったといいます。
いくらリーダーとはいえ、極限状態で水を捨てるなど、とてもできることではありません。やはり、アレクサンダーは「王の中の王」でした。


                  最強のリーダーシップを学ぶ


アレクサンダーのリーダーシップについて学ぶなら、『アレキサンダー 最強の帝王学』ランス・カーク著、青井倫一訳(三笠書房)、『アレクサンドロス大王〜その戦略と戦術』パーサ・ボース著、鈴木主悦・東郷えりか訳(集英社)が参考になります。
また、2004年に製作されたオリヴァー・ストーン監督のアメリカ映画「アレキサンダー」のDVDを観れば、その偉大な生涯の全貌を簡単に知ることができます。


アレクサンダーの偉大な業績の中でも、わたしが最も尊敬しているのは、彼が敵の将軍や兵士たちの弔いも行なったことです。
これは、なかなかできることではありません。
彼の「世界統一」は単なる征服者の野望ではなく、「人類を一つに」という高い志の現れだったのでしょう。それは、ペルシャ人との合同結婚式を実現した思想でもありました。
わたしは、かつて「こころざし抱いて歩む人の道 敵も弔ふアレクサンダー」という短歌を詠んだことがあります。
究極のリーダーであるアレクサンダーの像に見つめられ、オッチョコチョイ社長にもなんだか緊張感が出てくるのであります。はい。


2010年6月19日 一条真也