孔子からのメッセージ

一条真也です。

金沢に来ています。
今日は、朝から北陸大学で講演がありました。
未来創造学部の3年生が対象で、テーマは「孔子からのメッセージ」です。


               孔子からのメッセージを伝えました


思えば、2年以上前、彼らが1年生のときに初めて「孔子研究」の授業がスタートし、わたしも新米の客員教授として教壇に立ったのでした。
つまり、今日の講演に集まった彼らの多くは、わたしの最初の教え子たちなのです。
とても懐かしく、また彼らに再会するのが楽しみでした。
彼ら以外にも、3年生から編入で入ってきた学生たちもいて、総勢300名ぐらいまで膨れ上がり、大教室がいっぱいになりました。


                    大教室がいっぱいに!


最初に、わたしは「無縁社会」の話から始めました。
年間に3万2000人が無縁死し、3万人が自殺する社会に日本がなってしまった大きな原因は、血縁と地縁が弱まったことです。
そして、その結果、あらゆる人間関係が希薄化しました。
わたしたちが生きる社会において、最大のキーワードは「人間関係」だと思います。
社会とは、つまるところ人間の集まりです。
そこでは「人間」よりも「人間関係」が重要な問題になってきます。
そもそも「人間」という字が、人は一人では生きてゆけない存在だということを示しています。人と人との間にあるから「人間」なのです。
だからこそ、人間関係の問題は一生つきまといます。  
わたしは、人類が生んだあらゆる人物の中で孔子をもっとも尊敬しています。
孔子こそは、人間が社会の中でどう生きるかを考え抜いた最大の「人間通」であると確信しています。
その孔子が開いた儒教とは、ある意味で壮大な「人間関係学」なのです。
孔子は「仁」「義」「礼」「智」といった人間の心にまつわるコンセプト群の偉大な編集者でした。彼の言行録である『論語』は千数百年にわたって、わたしたちの先祖に読みつがれてきました。意識するしないにかかわらず、これほど日本人の心に大きな影響を与えてきた書物は存在しません。
特に江戸時代になって徳川幕府儒学を奨励するようになると、必読文献として教養の中心となり、武士階級のみならず、庶民の間にも普及したのです。
そして江戸時代の日本において、『論語』で孔子が述べた思想をエンターテインメントとして見事に表現した小説が誕生しました。
滝沢馬琴が書いた『南総里見八犬伝』です。江戸の大ベストセラーになりました。
その中に登場する八犬士が持っていた玉には、それぞれ「仁」「義」「礼」「智」「忠」「信」「孝」「悌」の文字が浮かび上がりました。
この八つの文字こそ、孔子儒教思想のエッセンスとしてまとめたコンセプト群であり、わたしたち日本人が最も大切にした「人の道」のキーワードでした。
今日の講演では、わたしなりに解釈した21世紀版「仁」「義」「礼」「智」「忠」「信」「孝」「悌」についての話をしました。


                  教え子たちが幸せになりますように



2年前に授業で話したことと重なる部分も多かったのですが、大切なことは何度も話すべきだと思いました。
また、同じ話でも2年前とは受け取り方も変わるようです。
なぜなら、その間に、さまざまな経験をして、人間として成長しているからです。
3年生たちは、この秋から就職活動をスタートするそうです。
今日の講演も、彼らの就活や面接において、何かのヒントになれば嬉しいです。
講演の最後に、「今日は皆さんに久ぶりに会えて、本当に嬉しかったです。ありがとうございました!」と言ったら、みんな拍手をしてくれました。
大勢の元教え子を前にして、なんだかセンチメンタルな気分になりました。
彼らが全員、これから幸せな人生を歩んでくれることを心より願っています。
なお、明日は、未来創造学部の1年生に通常の「孔子研究」の授業を行います。


2010年6月22日 一条真也