コピーキャット

一条真也です。

嫌な事件が起きましたね。
22日朝、広島のマツダの本社工場で11名の人が車に轢かれました。
そして、間もなく1歳になる娘を持つ男性が亡くなりました。
42歳の引寺利明容疑者は、自ら警察に連絡しました。
そのとき、「やったのは、わしじゃ」と言ったそうです。


なにより、衝撃的だったのは、容疑者が「秋葉原無差別殺傷事件」のような事件を起こしたいと思っていたと発言したことです。昨日、「孔子からのメッセージ」という講演で、秋葉原事件について話したばかりだったので、非常に驚きました。
2008年6月8日、東京はJR秋葉原駅近くの交差点で、2トントラックが歩行者天国に突っ込み、歩行者数人をはねました。そればかりか、さらにトラックから降りてきた男がサバイバルナイフで歩行者らを次々に刺したのです。
前代未聞の二重殺人行為で、7人が死亡、10人が重軽傷を負いました。
加藤智大容疑者は調べに対し、「人を殺すために秋葉原に来た」「世の中が嫌になり、誰でもよかった」と供述しました。
事件当日には携帯電話サイト掲示板に「秋葉原で人を殺します。車でつっこんで、車が使えなくなったらナイフを使います」などと書き込んでいました。
そんな事件をモデルにする者が現れたのです。
わたしは、もともと秋葉原事件には通常の無差別殺人とは違う大きな危険性を感じていました。あえて邪悪なヒントを世間に広めてはいけないと思い、文章などにも書くことを控えていました。でも、今回の事件によって、もう多くの人々はそのヒントについて知ってしまったことでしょう。
秋葉原事件が秘めていた邪悪なヒントとは何か。
それは、ずばり自動車さえあれば、いつでも無差別大量殺人が可能であることです。
苦労して銃やサリンを調達しなくても、自動車1台あれば、多くの人間が殺せる。
まさに、加藤容疑者はこのアイデアを世間に提供してしまったのです。
しかも、車を降りてからのナイフによる凶行のおまけつきで。
昨日の広島の事件の容疑者も、車で轢いた後はナイフで殺そうと考えていたそうです。



犯罪大国のアメリカでは、犯罪者がヒーローになることも珍しくなく、その犯行手口を模倣する「コピーキャット」という犯罪者もいます。
それどころか、自分の犯した犯罪は過去のどの有名事件をモデルにしたかを大衆に推理させることに快感を覚える輩も多いとか。
まるで和歌の「本歌取り」のように、どの犯罪を素材としたかを問題にするのです。明らかに、異常な世界ですね。
昨日の事件は、明らかに秋葉原事件コピーキャットです。
ネット空間などでは、酒鬼薔薇聖斗や加藤智大、さらには松本千津夫を英雄視する者も実在します。もっとも、そういう人物は匿名ブロガーと相場が決まっていますが。
わたしが、いま、一番怖れているのは、映画「告白」の青少年に与える影響です。
現在、興行成績が1位の大ヒット作ですが、人間の「悪」の部分を露骨に描いています。
だからこそ、衝撃的な問題作になったわけですが、作中で描かれている「悪」のインアパクトが非常に大きいので、それに感化される人間が出てこないかと思うのです。
ちなみに、アメリカのコピーキャットの世界で最大のヒーローは、エド・ゲインという連続殺人鬼です。彼は、「サイコ」「悪魔のいけにえ」「羊たちの沈黙」といった一連のダーク・ムービーの主人公のモデルになりました。
それらの映画は、さらなるコピーキャットを生み出しました。
1995年には、「コピーキャット」という映画そのものも公開されています。
映画とは、コピーキャットを誕生させ、また増殖させる力を持ったメディアである。
映画は人々を善に導く「白魔術」にも、悪に導く「黒魔術」にもなりうるのです。


2010年6月23日 一条真也