京都の美学者

一条真也です。
京都に来ています。ブライダル関係の衣装展示会が京都の各所で開かれており、その視察のためです。京都といえば、鎌田東二さんにお会いしたかったです。
しかし、あいにく北海道に行かれており、京都にはいらっしゃいませんでした。


秋丸知貴さん


でも、京都在住の若き知識人と会いました。秋丸知貴さんです。このブログを読んで下さっている方には馴染み深い名前だと思います。ブログ「こころの維新」にも書いたように、秋丸さんには、わたしが共同研究員を務めていた「京都大学こころの未来研究センター」の研究発表会で初めてお会いしました。その後、活発にメールの交換をするようになりました。秋丸さんは、このブログも毎日読んでくれているそうです。



秋丸さんの専攻は美学・美術史です。主に、近代技術による心性の変容という観点から近代西洋美術における抽象主義の問題を考察しているそうです。
しかし秋丸さんの本当の関心は、「どうすれば人間は幸福になれるのか」という問題だとか。そしてそれに深く関わる問題として、「近代」のプラス面とマイナス面は何かという問題を追求しています。この「近代」という問題こそ、人間の幸福に直結する重要なテーマだというのです。
 


彼の論文には、抽象絵画に関するものが目立ちます。
抽象絵画研究は、そこに「近代」の本質の一つが直感的・具体的に現れているのではないかというスタンスで取り組んでいるそうです。また、同様の関心から、秋丸さんはグリーフケアにも関心を持っています。


最近、秋丸さんの「近代文明の光と影――思想史的考察」という論文を読みました。主に科学史家の伊東俊太郎氏の研究を秋丸さんなりに咀嚼したものです。
この中で、彼は、多少キリスト教を悪玉にしていますが、決してキリスト教を否定しているのではなく、「イエス・キリスト自体には、強く尊敬する部分もある」と述べています。ただ、キリスト教の自然観には、自覚すべき重要な問題点があるのではないかというのが、その主旨です。非常に示唆に富み、新しい「知性」の可能性を感じました。


今夜は二人で酒を飲みながら、さまざまな問題について語り合いました。秋丸さんは、まるでマシンガンのように次から次へと言葉を繰り出します。
聞くと、多摩美大が母校で、もともと芸術家をめざしていたとか。出身地は宮崎県で、えびの市の市役所に勤務していました。その後、本格的に学問をこころざし、2006年に京都に出てこられたそうです。
鎌田東二さんから、秋丸さんのお祖父さんのことは少し伺っていました。彼のお祖父さんは、太平洋戦争前に「秋丸機関」として有名だった調査機関のリーダーだったとか。そのお話も色々と聞きましたが、あまりにも興味深い内容でした。ご関心のある方は、ぜひ「秋丸機関の全貌」をクリックしてみて下さい。


わたしは、「おじいさんのことを本に書いてみたら?」と秋丸さんにアドバイスしたのですが、「最初に書く著書は、自分の専門テーマにしたいんですよ」と言っていました。具体的には、『セザンヌと蒸気鉄道』という本が書きたいそうです。なんだか、すごく面白そうな本ですよね。
また、秋丸さんは拙著『ロマンティック・デス』(幻冬舎文庫)と『ハートフル・ソサエティ』(三五館)を愛読されているとのことで、今日も持ってこられてサインを求められました。わたしの最も思い入れの深い2冊だったので、嬉しかったです。
さらに、秋丸さんは「葬式は必要!」ムーヴメントから火がつき、将来的にはより大きな「隣人祭り」ムーヴメントが必ず起こると予言してくれました。


ホテルのスカイラウンジに河岸を変えて、二人で美学やテクノロジーや大学や死生学やニューエイジや小さいおじさんの話などを縦横無尽にしました。
ちょっぴり知的に、京都の夜は更けてゆくのでした。
まことに楽しく、かつ有意義な一夜となりました。
秋丸さん、『セザンヌと蒸気鉄道』の出版、心から楽しみにしていますよ。応援していますからね。
がんばってください!


2010年8月4日 一条真也