ファーカンダ

一条真也です。

今日は、「敬老の日」ですね。
朝日新聞」の朝刊には、「65歳以上最多23.1%」「80歳以上800万人を超す」との見出しで、記事が載っていました。


               9月20日付「朝日新聞」朝刊より


総務省の発表によれば、65歳以上の推計人口は2944万人、総人口に占める割合は23.1%で、人口、割合ともに過去最多でした。80歳以上の人口は826万人で、前年より38万人も増え、初めて800万人を超えました。
ここ最近の「消えた高齢者」問題を考えると、これらの数値にも影響を与えるのではないかと思う人も多いでしょうが、それはないそうです。
推計人口というのは、2005年に行われた国勢調査をベースに、毎月まとまる人口動態統計の出生・死亡者、出入国統計の出国・入国者のデータを用いてはじき出されたものです。あくまで推計値なので、実際の高齢者の人口増減や高齢者の所在不明問題などには直接関係しないわけです。


               9月20日付「朝日新聞」朝刊より


同じ朝日新聞の「時時刻々」には、「高齢者見守り 見えぬ答え」として、さまざまな高齢者にまつわる問題が紹介されていました。
たとえば、「助けを必要としていても、手を挙げない」というボランティア・スタッフなどの訪問を希望する高齢者が伸び悩んでいる問題。たとえば、「倒れても、入院した病院を教えてくれない」という行き過ぎた個人情報管理の問題。
これらの問題を解決するために、東大教授の白波瀬佐和子氏は「行政は民生委員など既存の枠組みに頼るだけでなく、高齢者に対してより積極的に介入していく必要があるのではないか」と述べています。



さらに、同じ朝日の「天声人語」には、「子ども」のことが書かれていました。
絵本作家の永田萠さんの「ウソ泣き」という詩を紹介しています。
「ウソ泣きしてたら/きみがトコトコやってきて/「ぼくがいるからだいじょうぶ」って言うものだから/かあさん/ウソ泣きが本泣きになっちゃった」
また、同じく永田さんの「たまごの時代」という詩も紹介しています。
「おとなになるちょっと前に/おとこの子も/おんなの子も/固いカラのたまごの中に閉じこもる」という出だしで、どんな姿で出て来るのか気長に待つほかないので、「ここらで親もひとやすみ」と結ばれます。
天声人語」の書き手は、この2つの詩を紹介した後、「母のうそ泣きにかけ寄るのも、殻に閉じこもるのも同じ子である。人生の折々に見せる違った顔は成長の証にほかならない」と書いています。わが子を虐待する親が絶えない中、心を打つ一文でした。



わたしは、この国の老人と子どもの未来について思いを馳せました。
ブログ「老人とは何か」およびブログ「子どもとは何か」にも書きましたが、老人と子どもをつなぐ「魂のエコロジー」という視点が必要だと思います。
そして、そのことは先祖と子孫の問題にまで発展します。
新刊『ご先祖さまとのつきあい方』(双葉新書)のテーマでもあります。
ありがたいことに、同書は刊行直後にアマゾン「マナーのベストセラー」ランキングで早々に1位になるなど、好評をいただいております。
今日の14時現在では、『ご先祖さまとのつきあい方』が1位で、『葬式は必要!』が3位と、2位の島田裕巳著『葬式は、要らない』をサンドイッチ・プレスしていました。



昨日、コンセプト・ワーク・ショップ(CWS)代表である佐藤修さんのホームページでも、『ご先祖さまとのつきあい方』を紹介していただきました。
自殺や孤独死などを防止する社会運動にも積極的に取り組んでおられる佐藤さんは、同書に登場する、老人と子どもをつなぐ沖縄の「ファーカンダ」という言葉(概念)に注目しています。このあたりに今の日本の社会の仕組みを変えていくヒントがふんだんに含まれていると見ているのです。
「ファーカンダ」とは、沖縄の人々が「孫」と「祖父母」をセットでとらえる呼称です。
これは、親子、兄弟という密接な人間関係を表わすものと同様、子どもとお年寄りの密接度の重要性を唱えているものと考えられます。
超高齢社会に向けて、増え続けるお年寄りたち。逆に減り続け、街から姿が消えつつある子どもたち。その両者を「ファーカンダ」という言葉がつなげているのです。
「ファーカンダ」は、「ファー(葉)」と「カンダ(蔓)」の合成語とされますが、それは、葉と蔓との関係のように、切っても切れない生命の連続性を示しています。
それは、生命にとって一連の出来事であり事態なのです。
わたしは過去に子どもであり、未来には老人となります。
そして、先祖は子孫となり、子孫は先祖となる。
そんな「魂のエコロジー」を象徴するキーワードこそ、「ファーカンダ」だと言えるでしょう。


                  老人と子どもをつなぐ思想とは


2010年9月20日 一条真也