悪のうた♪

一条真也です。

貴志祐介ピカレスク・ロマン『悪の教典』には、徹底した「悪」が描かれていました。
その後半は、すさまじい殺戮シーンの連続です。
変な表現ですが、気前良く次々に人間が死んでいきました。
読みながら、わたしの心の中には、ある懐かしい歌が流れていました。
少年時代に夢中になった特撮ドラマ「愛の戦士レインボーマン」に出てくる悪の組織である〈死ね死ね団〉のテーマ曲「死ね死ね団のうた」です。


「死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死んじまえ〜」で始まる、トンデモない歌です。
「金で心を汚してしまえ」とか「黄色い猿めをやっつけろ」などの危険な歌詞もあります。
「ニッポン人は邪魔っけだ」「黄色いニッポン、ぶっつぶせ」という、凄まじい反日ぶり。
ついには、「世界の地図から消しちまえ」「地球の外に放り出せ」と歌われる始末です。
とにかく、数百回は「死ね」を連呼しているのではないでしょうか。
この世紀の怪曲を作詞したのは、森進一の「おふくろさん」を作詞した、あの川内康範
ちなみに、「愛の戦士レインボーマン」そのものの原作者も川内康範です。
彼は、日本における特撮ドラマの草分けである「月光仮面」や「七色仮面」の原作者でもありました。いわば、この道の第一人者だったのですね。
ちなみに、かの名曲「月光仮面は誰でしょう」も彼の作詞によるものです。
また、「七色仮面」が「レインボーマン」の原型となっていることは明らかでしょう。



死ね死ね団〉ですが、後に一連の「オウム真理教事件」が起こったとき、〈オウム真理教〉とイメージが酷似していると騒がれました。
レインボーマン」は、ヨガの聖人ダイバ・ダッタによる修行で七つの化身(月、火、水、木、金、土、太陽)に変身できる能力を得るというストーリーで、非常にニューエージ色の濃い不思議なドラマでした。案外、麻原彰晃をはじめ、オウム幹部たちは「レインボーマン」のファンで、その影響を受けていたのかもしれません。
それにしても、「死ね」という言葉ほど下品な言葉はないですね。喧嘩の場面でも、教養がなくボキャブラリーのない人間ほど「死ね」という言葉を吐きます。これはネットの世界でも同じですが、ネットの場合は「氏ね」という誤植を見ることがあります。
「氏ね」という誤植には、下品を通り越して、なにやら救いなき悲哀がありますね。
「死ね」と言ったり、「氏ね」と書き込んだりするたびに、その人は相手ではなく自分の「こころ」を殺しています。そう、「こころの自殺」をしているのです。



死ね死ね団〉のような悪の組織は、多くの特撮ドラマに登場しました。
中でも、その代表格と言えるのが〈ショッカー〉です。
名作「仮面ライダー」に登場した、世界征服を企む悪の秘密結社です。
およそショッカーほど、悪の秘密結社のイメージにふさわしい組織はないでしょう。
そして、その原型は、明らかにかのヒトラー率いる〈ナチス〉にありました。
ゾル大佐、死神博士地獄大使といったショッカーの大幹部たちもキャラが立っており、良い味を出していました。
そして、ショッカーといえば、あの戦闘員が忘れられません。とにかく異常に弱くて、仮面ライダーがちょっと触れるたびに自分から吹っ飛んでいました。(笑)
彼らが発する、何と言っているのかよくわからない奇声も印象的でしたね。


ショッカーが暗躍する「仮面ライダー」の原作は、石ノ森章太郎のマンガです。
わたしが小学生の頃、石ノ森章太郎が生み出した数多くのキャラクターたち、サイボーグ007、仮面ライダーキカイダーイナズマンロボット刑事Kに夢中になりました。
それらはサイボーグ、アンドロイド、ミュータントなど厳密には異なる存在であるけれども、人間を超えた存在としてのパワーと悲しみが十分に表現されていました。
中でも、石ノ森が最も得意としたSFマンガの最高傑作として並び称せられるのが「仮面ライダー」と「人造人間キカイダー」です。
いずれも特撮ドラマ化されましたが、どちらかというと特撮ドラマの王道的な「仮面ライダー」に比べ、「キカイダー」には奇妙な味わいがありました。
ギターを背にしてサイドカーに乗ったジローが、プロフェッサー・ギルの吹く笛の音に苦しむ場面などが、わたしの心に鮮やかに甦ります。
この「キカイダー」には、ハカイダーという悪役が登場しました。
これが、メチャクチャかっこ良かった! わたしは、ハカイダーの大ファンでした。
漂うニヒリズムと、徹底したクールさ、そして、たまらない哀愁・・・・・。
悪役の魅力というやつを、わたしはハカイダーによって知ったような気がします。
ハカイダーのうた」には、「潰せ、壊せ、破壊せよ」とか「キカイダーを破壊せよ、破壊せよ」といったフレーズが出てきて、「悪」の匂いがプンプンしていました。はい。


人造人間キカイダー」は、登場するヒーローの造形という点でもユニークでした。
主人公のキカイダーは透明で内部の機械が透けて見えます。
ハカイダーに至っては、頭部が透明で中の脳が透けて見えるのです!
いわゆる「スケルトン」ですが、なんという前衛的なデザインでしょうか! 
異形のハカイダーに、わたしはすっかりシビれたものです。



そういえば当時、玩具メーカーのタカラが透明なボディの人形「サイボーグ1号」を発売しました。中が透けて機械が見えるところは、キカイダーをヒントにしたのかも。
このサイボーグ1号、着せ替えで仮面ライダーウルトラマン、その他の特撮ヒーローにも変身できるというスグレモノでした。いわば、男版「リカちゃん人形」ですな。
そしてサイボーグ1号には、ライバルの悪役がいました。
その名も、キングワルダー1世! うひゃ〜、もう、たまりゃ〜ん(笑)という感じですね。
でも、このネーミング・センスは、皮肉でも何でもなく素晴らしいと思います。
このキングワルダー1世も透明ボディで、なんと内臓が丸見えでした。脳が見えるハカイダーをさらに進化させたデザインです。
今から考えれば悪趣味なのでしょうが、当時は斬新で、すっかりシビれたものです。
わたしは、もちろん、サイボーグ1号とキングワルダー1世を親に買ってもらい、いつも遊んでいました。何度も何度も、飽きずに両者を闘わせました。
毎日が「善」と「悪」との最終戦争で、わたしは「神」の心境でした。
柔道、空手、キック、ボクシング、プロレス・・・・・あらゆる格闘技をやらせました。
関節が自由に動くようになっていたので、いろんな技を掛け合いました。
今から思えば、あのオモチャは、わたしのヒーロー願望だけでなく、格闘技趣味をも満たしてくれていたようです。いやあ、なつかしいなあ! 


2010年10月10日 一条真也