「雨ニモマケズ」

一条真也です。

東日本大震災で、岩手県は甚大な被害を受けました。
偉大な童話作家であり、詩人でもあった宮沢賢治は、岩手県の出身です。
彼の「雨ニモマケズ」が、いま、被災者へのメッセージ・ポエムとして注目されています。


ブログ「kizuna311」でも紹介しましたが、俳優の渡辺謙さんが朗読する「雨ニモマケズ」がYouTubeで公開されています。
現在、66万回を超える多くのアクセスを集めています。
渡辺さんの朗読によって、初めてこの詩の素晴らしさに気づいた若い人もいるでしょう。
そして、現在、驚くほど多くの人々が「雨ニモマケズ」を朗読しています。
ACの大量広告で宮澤章二の「行為の意味」という詩がブームになっています。
「だれにも『こころ』は見えないけれども、『こころづかい』は見える。『思い』は見えないけれども、『思いやり』はだれにでも見える」という例の詩ですね。
でも、「ミヤザワ」は「ミヤザワ」でも、やっぱり元祖といえるのは宮沢賢治
賢治は章二にマケズ(笑)、その代表作である「雨ニモマケズ」が注目されているのです。


いっぽう、賢治の詩には東北弁が似合うと主張する人たちもいます。
今野東さんによる東北弁の「雨ニモマケズ」朗読も高い人気を誇っています。聴いてみると、やっぱり標準語よりも東北弁のほうが賢治作品には合うように思いました。
今野東さんは1947年生まれで、アナウンサー出身の政治家です。
宮城県塩竈市の出身で、宮城県農業高等学校から明治学院大学社会学部を卒業し、東北放送の関連会社でアナウンス業務を務めました。
その後はフリーアナウンサーに転向し、東日本放送の「トーホク独立TV」や仙台放送の「CATCH」といった番組のキャスターを務めました。
また、1997年には「東方落語民話寄席」を発足させ、家元として活動しているそうです。
2000年6月25日の「第42回衆議院議員総選挙」において、民主党公認で宮城1区に出馬し、元環境庁長官愛知和男氏を破って初当選を果たしています。いわゆる「1区現象」として話題になりました。その後、2回の衆議院議員を経て、現在の今野さんは参議院議員となっています。2009年10月には民主党副幹事長にも就任しました。
今野さんは、外国人の参政権運動および北朝鮮との対話友好の推進者だとか。
そんな方が東北弁で朗読する「雨ニモマケズ」であります。
政治的な立場は置いておいて、なかなか心に沁みる朗読だと思いました。


そして、ぜひご紹介したいのが、「雨ニモマケズ」に曲をつけて歌にしたものです。
YouTubeで見つけたのですが、宇佐元恭一さんの作品が素晴らしかったです。
宇佐元さんは福岡県出身のシンガーソングライターで、福岡県立修猷館高校、九州大学経済学部を卒業しています。
5歳の時に始めたクラシックピアノをきっかけに音楽と出会ったそうです。
現在は自身の歌手活動のかたわら、石井明美今井美樹織田裕二小堺一機酒井法子酒井美紀、CHAGE、前田愛前田亜季時任三郎和田アキ子など多くの歌手に楽曲を提供してきました。この「雨ニモマケズ」にメロディをつけてレパートリーとしたことが縁になって、岩手県でライヴも行ったそうです。
宇佐元さんの「雨ニモマケズ」は非常に力強くて、生きる勇気が湧いてくる歌です。


宇佐元さんが力強い「雨ニモマケズ」なら、癒し系の「雨ニモマケズ」もあります。
千葉県出身のソングライターで、DTMクリエイターの伊藤龍太さんの作品です。
伊藤さんのお父さんは岩手県の出身で、幼い時から賢治文学に親しんできたとか。
じつは、「雨ニモマケズ」には、宇佐元さんや伊藤さん以外にも複数のミュージシャンが曲を付けています。その中で伊藤さんは、「雨ニモマケズ」は散文詩なので、有¬節歌曲(1番、2番という型)に押し込んではいけないと思って作ったそうです。
ゆったりとしたメロディーに乗った賢治の詩を聴いていると、ほのぼのしてきます。
そして、ぬるめの温泉に浸かっているかのように、じんわりと体の中にエネルギーが溜まってゆくような気がしますね。被災地の方々にも聴いていただきたい一曲です。



最後に、「雨ニモマケズ」という詩には「東に病気の子供あれば 行って看病してやり」「西に疲れた母あれば 行ってその稲の束を負い」「南に死にそうな人あれば 行ってこわがらなくてもいいといい」「北に喧嘩や訴訟があれば つまらないからやめろといい」と書かれています。これはまさに隣人の精神に他なりません。
別に自著の宣伝をするわけではありませんが、『隣人の時代』(三五館)には、「隣人の時代」の先駆者として社会運動家で作家の賀川豊彦が登場します。
その賀川と同時代人の宮沢賢治も、「隣人の時代」を先取りしていた人でした。
大震災を契機として、賢治が訴えた隣人の精神が世に広まりますように・・・・・。


2011年4月10日 一条真也