今やるべきこと

一条真也です。

明日で、東日本大震災から1カ月になります。
今朝の「朝日新聞」には、「死者の過半数 高齢者」「ほとんど津波の犠牲」という見出しがトップに出ていました。予想されていたことですが、やはり心が痛みます。


                  「朝日新聞」4月10日朝刊


死亡が確認された約13000人のうち年齢がわかった7935人を朝日が調べたところ、65歳以上の高齢者が55・4%を占めることがわかったそうです。
阪神淡路大震災では、死亡者のうち65歳以上が占める割合は49・6%(兵庫県調べ)で、家屋倒壊による圧死がほとんどでした。
しかし、東日本大震災の死亡者はほとんど水死か、瓦礫とともに流されたことによる多発性外傷が原因で亡くなっているそうです。
朝日の記事には、「三陸地方の沿岸は漁村や小さな集落が多く、過疎、高齢化が進む。逃げる途中で津波に巻き込まれたり、付き添いがおらず逃げることもできなかったりした人が多かったとみられる」と書かれています。



これを読んで、わたしは、3月11日に東京で地震に遭った父の話を思い出しました。
父は、地震が発生した頃、丸の内の日本商工会議所で会議をしていました。
6階の会議室で会議をしていたところ建物が大きく揺れたので、即座に屋外に避難することになりました。みんなで階段を下りることになったのですが、中に数人の高齢者の方が椅子に座ったまま平然としているのに父が気づきました。
「どうして、逃げられないのですか?」と聞くと、「1階まで階段で降りる自信がありません。途中で動けなくなって困るよりも、ここでじっとしていたほうがいい。何かあったら、その時はその時です」と言われたそうです。
その方々は観光・旅館業界の重鎮でしたが、いずれも80代の高齢でした。
70代半ばの父は階段で1階まで下り、そこから5時間以上をかけて赤坂見附のホテルまで戻りました。父は、「そのときの、あの人たちの顔は非常に穏やかで、達観しているようだった」と語っていました。いろいろと考えさせられる話です。



さて、高齢者が多いのは東日本大震災で亡くなった犠牲者だけではありません。
なんとか津波から逃げて生き延びた方々の中にも高齢者が多いです。
その方々の住まいを確保するために、これから多くの仮設住宅が建設されます。
そのために、5000億円を超える予算も用意されているようです。
しかし、わたしは思うのです。仮設住宅というのは、あくまでも仮設。いずれは壊してしまう建物です。もったいない気がするのは間違っているでしょうか。
その方々に本当に必要なのは「仮の棲家」ではなく「終の棲家」ではないでしょうか。
そこで、思い浮かぶのが高齢者専用賃貸住宅高専賃)です。
介護イノベーター」こと(株)エヌ・ビー・ラボ代表の清原晃さんは、山口県において日本で最も安価な高専賃の開発に成功されました。そして、なんと年金の範囲内ですべてを賄える施設さえ構想されています。その年金の範囲内ですべてが足りる高齢者施設を被災者用に大量に作ればいいと思います。
もちろん、法律や行政や土地の問題とか、いろいろとハードルはあるのでしょうが、何よりも被災者の生活と幸福を第一に置くならば、一考すべきテーマであると確信します。
いま、清原さんと伊藤忠商事とわが社の三者で、日本中の高齢者が安心して暮らしていける住まいづくりのプロジェクトが着々と進行しています。
明日から東京に行きますが、そのための打ち合わせも伊藤忠の本社で行う予定です。



また、住まいだけでなく、被災者の方々には仕事も必要です。
じつは、北九州市に多くの東北の被災者の方々に移住していただき、生活支援とともに仕事を提供する計画が進行しています。「絆プロジェクト北九州」というのですが、発案者はNPO法人・北九州ホームレス支援機構の理事長である奥田知志さんです。
奥田さんのことは、ブログ「ホームレス支援」にも書きました。
北橋建治・北九州市長も賛同し、北九州市商工会議所も協力することになりました。
このプロジェクトは中央でも注目され、官邸のホームページにも取り上げられています。
北九州市は「ハートフル」を売り物にしています。
ホームレスの支援も日本一なら、隣人祭りの開催回数も日本一です。
その北九州市の多くの東北の方々が移ってこられれば素晴らしいことです。
また今度の場合は、生活支援や仕事支援とあわせて、精神支援が求められます。
すなわち、地震津波で家族などを失った方への心のサポートです。
阪神淡路の後には避難所で孤独死が多発したそうですが、今度は自殺が多発しないかと、じつはわたしは心配しています。
それぐらい、このたびの大災害のトラウマは大きいと思うからです。
そんな愛する人を亡くした人たちに北九州に来ていただければ、わたしどものグリーフケア・スタッフがお世話をさせていただくことができます。
とりあえずは、15日に奥田さんをはじめホームレス支援機構の方々とお会いします。
そして、「絆プロジェクト北九州」について意見交換をする予定です。


                  「朝日新聞」4月10日朝刊


さて、今朝の「朝日新聞」には、「対日改善 隣国に機運」という記事も出ていました。
東日本大震災は、日本が置かれた国際環境にも、構造的な変化をもたらした。被災した日本人への連帯の思いや、粘り強い対応への尊敬の念は、複雑な対日感情を持つ諸国の人々をも動かした。この兆しを礎に、よりよい関係を築いて行けるのか――。」とリードに書かれ、中国・韓国・ロシアの日本への対応がまとめられています。
中でも、わたしが特に期待したいのはロシアです。
今回、ロシアは最大規模となる161人の救助隊や物資を日本に送りました。
また、電力不安を抱える日本へのエネルギー支援策も打ち出しました。
さらに、「北方領土を日本に返すべきではないか」という議論が出ていることに注目したいと思います。大震災の発生から1週間後、ロシアの大衆紙「モスコフスキー・コムソモレツ」がコラムで、「北方領土は日本に返さなければならない。今すぐ無条件で、思いやりの贈り物として」と主張したのです。
ブログ「日本とロシア」に紹介したように、ロシア語で「思いやり」のことを「グマナスティ」といいます。ぜひ、未曾有の国難にある日本にロシア人はグマナスティを発揮してもらいたいものです。もちろん大衆紙のコラムで国は動かないでしょうが、こんな主張がオープンで発せられたのも初めてのことです。



そして、中国と韓国です。今回、この両国は日本に対して、よく支援してくれています。
ただ韓国は、日本の放射能対策のまずさを厳しく批判しています。
特に、日本が放射能汚染水を放出したことに怒りを感じているようです。
韓国紙は「隣国への通告なしに無断放出された」と大きく取り上げ、韓国中に汚染への不安が広がりました。7日に全土で雨が降りましたが、そのときは首都圏の幼稚園や学校100校以上が休校したそうです。
せっかく、韓国赤十字社分だけでも約363億ウォン(約28億円)と史上最高額の義援金を日本復興のために寄せてくれている韓国の人々に大きな不安と失望感を与えたのは、かえすがえすも残念なことでした。
わたしは、国にとっての放射能事故は、個人にとっての火事に似ていると思いました。
日本では昔から「火事を出したら7代祟られる」と言われます。
火事には自分の家だけでなく、近隣の住人の家屋や財産を奪う危険があります。
火事を出して人様の家を焼けば、はるか後世の子孫にまで恨まれるという意味です。
中国から日本に流れてくる黄砂も迷惑ですが、放射能はもっと深刻な問題です。
放射能をばらまいてしまったら、隣国から恨まれることは必至でしょう。



隣人の時代』(三五館)で、わたしは先の戦争で日本が多大な迷惑をかけた中国や韓国の人々と「隣国祭り」を開催することを提案しました。
わたしは北陸大学の未来創造学部の客員教授として、「孔子研究」、つまり儒教の講義を担当しています。全部で300名近い教え子の中には、中国や韓国からの留学生もたくさんいるのです。彼らと接していると、日本人も中国人も韓国人もない、みんな孔子の思想を学ぶ者であり、わたしの可愛い教え子たちです。
ぜひ、彼らを中心に、まずは金沢の地で「隣国祭り」を開催し、そのムーブメントを3つの国全体に拡げていければと願っています。
国と国とが仲良くする「隣国祭り」は平和の祭りに他なりません。
世界的に見て、隣国ほど仲が悪く戦争を起こしやすいものですが、それだけに「隣国祭り」の重要性は測り知れません。考えてみれば、地球レベルでの「隣国祭り」こそ、万国博覧会やオリンピックやサッカーのワールドカップかもしれませんね。
13日、わたしは東京から金沢に飛び、北陸大学で新入生向けの講演を行います。
ブログ「北陸大学フレッシュマンセミナー」に、昨年の講演の様子が紹介されています。
論語』の話を中心に読書の楽しさ、素晴らしさを話すつもりですが、少しでも日本・中国・韓国の大学生の「こころ」が交流してくれることを願って講演します。



講演といえば、16日には小倉で、「故郷で死ぬということ」をテーマに講演します。
ブログ「西日本新聞講演のご案内」で紹介したセミナーです。
その講演は14時から15時半ですが、その後、松柏園ホテルに移動します。
18時から、司法修習生の方々に向けて「礼と法について」をテーマに講演するのです。
弁護士の辰巳和正先生が司法修習生のために開いておられる勉強会である「辰巳塾」での講演で、毎年この時期にやらせていただいています。
これからの法曹界を担う若い方々に「礼」の重要性を訴えることも「天下布礼」には欠かせないと思っています。ちなみに、宮沢賢治は「北に喧嘩や訴訟があれば つまらないからやめろといい」と、「雨ニモマケズ」に書きいています。




わたしには、今やるべきことが多くあります。
そして、今週やるべきことも多くあります。
11日(月)は、互助会の全国団体である全互連の理事会が東京で開催されるので出席。副会長として、被災地の人的支援、物的支援の最終調整をします。その後、伊藤忠商事執行役員の方と高齢者住宅事業について打ち合わせします。
12日(火)は、伊藤忠商事の本社で会議。清原晃氏も交えて、今後の事業展開について意見交換します。その後、「平和インテリジェンス」こと藤和彦氏にお会いして、福島での隣人祭り開催について打ち合わせをします。
13日(水)は、金沢に入って、北陸大学へ。フレッシュマンセミナーの講演を行います。その後、石川県野々市市に建設中の「野々市紫雲閣」を視察します。
14日(木)は、北九州に戻って被災地への人的支援スタッフと面談。彼らに任命状を渡し、その後、多くの社員が参加して壮行会を開きます。
15日(金)は、北九州ホームレス支援機構の奥田知志理事長と面談。北九州市への被災者受け入れの「絆プロジェクト北九州」について意見を交換します。
16日(土)は、早朝から月次祭と平成心学塾の開催。午後からは西日本新聞社主催セミナーで、北九州市民のみなさんに「故郷で死ぬということ」をテーマに講演します。その後、夕方から司法修習生の方々に「礼と法について」を講演します。
以上が、わたしの今週の主な予定です。この他、『隣人の時代』についての取材依頼がたくさん来ていますので、可能ならば随時お引き受けしていく予定です。



今週やるべきことをやる。今日やるべきことをやる。今やるべきことをやる。
わたしがこの社会に、いや宇宙に生かしていただいているということは、わたしに与えられた使命を果たすということです。ちょっと風邪気味ではありますが、気力を振り絞って、この1週間を乗り切っていく覚悟です。
最後に、今朝の「朝日新聞」1面には、『隣人の時代』の書籍広告も出ていました。


                  「朝日新聞」4月10日朝刊


2011年4月10日 一条真也