UFOについて

一条真也です。

5月8日に東京・新宿にUFOの大群が出現したそうです。
ネットを中心に大変な話題になっています。その画像がYouTubeに早速アップされましたが、12日正午現在で115万件近くのアクセスを集めています。


「ueq2004」という名の投稿者は、以下のように書いています。
「東京新宿の上空でUFOの大群が出ましたので、撮影しました。2011年5月8日の15時頃(訂正:16時頃だったかも)、目撃&撮影場所は北新宿3丁目です。20名を超える人数で目撃しました。最初目撃時は100機くらいいるんじゃないか!?という大群でしたが、段々移動しながら減り、撮影時には20機くらいに減りました。映像でも数機編隊になっているのが映っています」
映像では、中年婦人らしき人が「朝日新聞に電話して! UFOだよ〜。ほら、UFO! 読売新聞! 日本がたいへんですよ〜! ちょっと、マジで来てんだから! ほら、やばい! あたし、生まれて初めて見た〜」と叫んでおり、異常な臨場感があります。
しかし、こんな非常時に名前が出る「朝日新聞」と「読売新聞」はさすがですね。
ただ、撮影者と思しき女性が、「見えな〜い! どこ〜?」と叫んでいますが、これだけ明確に撮影されている物体が見えないというほうが興味深いかも・・・・・。
霊と同じく、UFOも見える人と見えない人がいるのでしょうか?
また、撮影時は見えなかった人でも、撮影された映像ではUFOが判別できるのでしょうか。いろいろと興味は尽きません。



「未確認飛行物体」としてのUFOの正体については、最もポピュラーな異星人の宇宙船説、秘密軍事兵器説、タイムマシン説、未知の空中生物説など、色々あります。
ちなみに、心理学者のユングは著書『空飛ぶ円盤』(ちくま学芸文庫)で、幽霊もUFOも無意識の投影であると述べています。
そういえば、宗教哲学者の鎌田東二先生も、伊豆の弓ヶ浜でUFOの大群を見たことがあるそうです。50機くらいの編成だったそうですが、鎌田先生の友人の方は猫と一緒に3メートルくらいまでUFOと接近遭遇されたとか。


さて、3月16日には福島県上空でも新宿と似たような映像が撮影されたそうです。
福島第一原発放射能と関係があるとか、欧州フリーメーソンから入手した映像だとか、いろいろと騒がれているようです。「放射能とUFO」とくれば、やはり「不安」を核にした集合的無意識の投影といったイメージがあるのですが・・・・・。
この福島UFOと新宿UFOが続いたことから、「いよいよ世界終末戦争か!?」と不安視するブログなども見られます。



これらの映像の真偽については、わたしはノーコメントです。ただ、未曾有の国難にある日本でUFO騒動が起きたことには何らかの意味があるように思います。
UFOが最も頻繁に目撃されたのは冷戦時代のアメリカです。
冷戦時代に対立したアメリカとソ連の両大国は絶対に正面衝突できませんでした。
なぜなら、両大国は大量の核兵器を所有していたからです。そのために両者が戦争すれば、人類社会いや地球そのものの存続が危機に瀕するからです。
そこで、第二次大戦後には、米ソ共通の外敵が必要とされました。
その必要が、UFOや異星人(エイリアン)の神話を生んだのではないかと思います。
いわゆる「空飛ぶ円盤」神話が誕生したのは、アメリカの実業家ケネス・アーノルドが謎の飛行物体を目撃した1947年です。第二次大戦から2年を経過し、3月には事実上の冷戦の宣戦布告であるトルーマン・ドクトリンが打ち出されています。
東西冷戦がまさに始まったその年に、最初のUFOがアメリカ上空に出現したのです。
かつて米ソ共通の最大の敵といえばナチス・ドイツでしたが、その後任として、宇宙からの侵略者に白羽の矢が立てられたとは言えないでしょうか。
「UFOはナチスが開発していた」とか「ヒトラーは地球の裏側で生きていた」などというオカルティックな俗説が流行するのは、新旧の悪役が合体したイメージに他なりません。



また、「なぜUFO神話はアメリカ合衆国で誕生したのか」という問題について、現代アメリカ文化の研究者である木原善彦氏が注目すべき説を発表しています。
木原氏は、著書『UFOとポストモダン』(平凡社新書)の中で、最も重要な点は、第二次世界大戦後にはアメリカがヨーロッパをしのいで近代の最先端を走ってきたことだと述べています。つまり、アメリカはさまざまな面で他の国に近未来図を提供していたわけですが、当のアメリカ自身には近未来図を提供してくれる存在が欠けていました。
もちろん、科学技術に裏づけられた近代のプロジェクトが描く青写真はあったのですが、そこに描かれた未来と現在との間に微妙なひびが入っていたのです。
そのひびから偶然垣間見えたのがUFOという天空の光点でした。
それは、「核に代表される新しい超科学技術と疑似科学的超科学技術とのはざまに見えた光」と木原氏は表現しています。


ブログ「ビンラディン殺害に思う」にも書きましたが、アメリカは世界最大のキリスト教国家でもあります。拙著『ユダヤ教vsキリスト教vsイスラム教』(だいわ文庫)に書いたように、キリスト教諸国はイスラム教諸国を目標に発展してきた時期がありました。
かつて、イスラム社会がヨーロッパに提供し、ヨーロッパがアメリカに提供し、アメリカが日本に提供してきたものこそ「近未来図」だったのです。
先を走るランナーのいなくなったアメリカは、その幻影を天空に見たのでしょうか。
そう考えると、UFO神話が、現在に至るまで最も広く浸透したのはアメリカであることの説明がつきます。また、イスラム諸国の上空にはまったくと言ってよいほどUFOが出現しなかったことも納得できるでしょう。
アメリカは、「新たな敵」としてのイスラムにも、エイリアンにも、憧憬を裏返したような屈折したコンプレックスと強い恐怖心を抱いていたのです。
そして、冷戦時代の「新たな敵」としてのエイリアンと、冷戦後の「新たな敵」としてのイスラム教徒は、あの9・11以降、アメリカ大衆のイメージ上において融合したようです。 
その顕著な例を、「未知との遭遇」や「E.T.」のスティーブン・スピルバーグが、H.G.ウェルズの古典的SFを再映画化した「宇宙戦争」に見ることができます。
度外れた破壊力でアメリカ人を殲滅しようとする外敵のイメージは火星人というよりは、オサマ・ビンラディン率いるテロ組織アルカイダに限りなく近いものでした。
2005年に公開された「宇宙戦争」には9・11アメリカのトラウマが色濃く出ていますが、その9・11以降のアメリカではほとんどUFOの目撃談を耳にしなくなりました。
その9・11の首謀者とされたビンラディンアメリカによって殺害された直後、放射能問題に揺れる日本でUFO騒動が起きたというのは単なる偶然でしょうか?


2011年5月12日 一条真也