現代日本の怪人

一条真也です。

昨夜、母から電話がかかってきて、しばらく話しました。
横浜で一人暮しをしている長女の近況、次女が明日行われる小学校の運動会でチアリーダーを務める話題などに触れた後、ロック歌手の内田裕也容疑者の話になりました。
母は、「あの妖怪みたいな人が逮捕されたね」と言っていました。


71歳の内田容疑者が、交際していた50歳の女性との別れ話のもつれから相手を脅し、強要未遂と住居侵入の疑いで警視庁原宿署に逮捕されました。
そのニュースを知ったときは驚きました。
女性に脅迫めいた手紙を出したり、女性宅の鍵を無断で換えて入るなど、まさに「ストーカー」行為を繰り返していたというのです。
内田容疑者は、「ロックンローラー」にこだわり破天荒な行動で知られています。
最近では菅政権に苦言を呈し、事業仕分けの会場にも視察に訪れていました。
関係者によると、その際には、この被害女性を同伴して現れていたそうです。
東日本大震災の発生後も、内田容疑者の対応は早かったです。
すばやく被災地に飛び、「ロッケンロール!」と叫びながら、物資などを配っていました。
今回の逮捕で、「ロック」そのもののイメージがダウンするかもしれませんね。



わたしは、これまで内田容疑者のことを「とにかく面白いオッサン」と思っていました。
なんでも「ロッケンロール!」と叫びながら奇行を繰り返していましたが、その最たるものは20年前に東京都知事選に出馬したときの政見放送でしょう。
延々と歌を歌いまくり、都知事選の政見放送なのに何故か英語で話す。
そして、きわめつけは「俺の周りはピエロばかり」とうそぶく。
もともと政見放送とは、いろんな意味で「過剰な」人々が登場し、ある意味でエンターテインメントの巣窟です。しかし、このときの内田裕也は本当にすごかった! 
日本の政権放送の歴史に残るパフォーマンスだったと思います。まあ、しかし、いくら政治的に立派なメッセージを述べても、女性に暴力をふるうような男は最低ですが。


母はまた、「あんな爺さんがいたら、孫がかわいそうねぇ」とも言っていました。
内田容疑者には、2人の男の子の孫がいます。娘婿は、俳優の本木雅弘さんです。
そして、妻は女優の樹木希林さんです。この夫妻は長らく別居生活を続けていますが、最近、結婚情報誌「ゼクシイ」のCMで初共演しました。
妻が「結婚って何ですかねぇ?」と訊ねると、夫が「ロッケンロール!」と答える。それを聞いた妻が「そればっかり・・・」とつぶやく。この夫妻を見事に表現したCMだったと思いますが、今回の逮捕劇には「ゼクシイ」の関係者も驚いたことでしょう。
夫が逮捕され、樹木さんは13日、自宅兼事務所で緊急会見を行いました。
同じような女性トラブルが他にもあったことを明かした上で、樹木さんは「逮捕されてありがたい。生き方を変えて、区切りをつけてほしい」と淡々と述べたそうです。
樹木さん自身も、1973年の結婚以来、ずっと内田容疑者の暴力には悩んでいたとか。
その暴力が原因で長年別居しているわけですが、離婚については否定したそうです。



また樹木さんは、今回の逮捕で夫の仕事が激減する可能性を指摘しました。
そして、しっかりと社会的制裁を受けて、「何かを感じ取ってほしい」と話しました。
わたしは、このコメントを聞いて、非常にに感動しました。
樹木さんは、いろいろあっても心の底では夫を深く愛しているのでしょう。
そして冷たく突き放したようでも、最後の最後は「世界でたった一人の味方」になってやろうと思っているのではないでしょうか。
以前、樹木さんはTBSのドラマ「ムー」や「ムー一族」に出演していましたが、どちらかの番組で、巨大な菩薩に扮したことがありました。今回の記者会見でのコメントを知って、「やっぱり、樹木希林は菩薩だったんだ!」と思ってしまいました。



また、樹木さんは片目を失明されていますが、そのときの「目はひとつあれば、じゅうぶんです」というコメントにも何か悟りのようなものが感じられ、感動しました。
少し前の「日本アカデミー賞」の授賞式では、樹木希林さんと本木雅弘さんが壇上に並びました。そのとき、大病を患ったばかりの樹木さんは「自分はいつまで生きられるか、わかりません。でも、わが家には“おくりびと”がいるから安心です」と娘婿である本木さんを指差し、会場は笑いに包まれました。
そのとき、「おくりびと」という言葉が樹木希林の口から発せられると、こんなにも温かく感じられるのかと思ったものです。その本木さんは、今回の義父の逮捕について、自分の出演CMなどについて「どのような責任でも取る」と語ったそうです。
わたしは、樹木希林本木雅弘も、世界に誇るべき素晴らしい日本人だと思います。
それにしても、「家庭人」としては0点の内田容疑者が100点満点の「家族」に恵まれているというのも皮肉ですね。「だからこそ人生は面白い!」とも思いますが・・・・・。


わたしは内田裕也という人の人生に、一種の「アナーキズム」を感じてなりません。
彼の「ロッケンロール!」という言葉は「革命を起こせ!」という意味だったと思います。
革命といえば、わたしは観たばかりの日本映画を思い出します。
そうです、ブログ「太陽を盗んだ男」で紹介した、あの映画です。沢田研二が演じる物理教師は、たった一人で原爆を作り、この退屈な社会を変えようとしました。
このときの沢田研二は神々しいまでに美しく、キラキラと輝いていました。
天下のカルト・ムービー「太陽を盗んだ男」が製作されたのは1979年ですが、なんとこの年、内田裕也沢田研二日本武道館のステージで共演しています。
2人は「きめてやる今夜」を熱唱したのですが、もうカッコよすぎるパフォーマンスでした。
その30年後の2009年にも、2人は一緒に「きめてやる今夜」を歌っています。
この歌は本当に名曲です。いつか機会があれば、わたしもカラオケで歌ってみたい!
それにしても、当時の沢田研二のカッコよさはハンパではありませんね。
やはりTBSドラマの「寺内貫太郎一家」で、樹木希林さん扮する老婆が沢田研二のポスターを見ながら「ジュリ〜ィィィィィ〜」と絶叫していたことを思い出します。



内田裕也にとって、あの夜に「きめてやる」と思ったこととは何だったのでしょうか?
今回の逮捕劇で、わたしは多くのことを考えました。「恋愛とは何か」、「結婚とは何か」、「家族とは何か」、「革命とは何か」、そして、「日本人とは何か」・・・・・。
それらの問いへの答えは簡単には出てきませんが、一つだけ言えることがあります。
それは、内田裕也という異形の日本人は間違いなく「怪人」だということです。
内田容疑者のことを母は「妖怪」といいましたが、わたしは「怪人」だと思います。
わたしは、『よくわかる「世界の怪人」事典』(廣済堂文庫)という本を監修しました。
わたしとしては最高にロッケンロールな(笑)仕事でしたが、この本では鼠小僧次郎吉南方熊楠竹内巨麿酒井勝軍甘粕正彦といった実在した日本人も紹介しています。
わたしは、『怪人事典』の監修者として、内田裕也を「現代日本の怪人」に認定します。
最後に、東京都知事選に出馬する人には「怪人」が多いような気がしてなりません。


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2011年5月14日 一条真也