宇宙よ!

一条真也です。

日本では、16日の未明に皆既月食が発生します。
ここ10年ほどで最も長く、そして最も暗く満月が翳ることになるそうです。
北九州では先ほどから雨が降り始めたので、おそらく見られないでしょうが・・・・・。
それはともかく、皆既月食皆既日食というのは壮大な天体ショーですね。
そして今さらながら、宇宙は大いなる神秘の宝庫だと思います。


今世紀、ついに宇宙の年齢がわかってしまいました。
2003年2月、米国NASAの打ち上げた人工衛星WMAPは、生まれてまだ38万年しか経っていない頃の宇宙の地図を描き出しました。
人類がいま、描くことのできる最も昔の姿であり、それを解析することによって、宇宙論研究の究極の課題だった宇宙の年齢が137億年(誤差2億年)と求められたのです。
20世紀末に「宇宙の年齢は何歳ですか」と専門家にたずねても、「まあ、100億年か200億年ですかね」という答しか返ってきませんでした。
実に、有効数字が1桁もないような状況だったのです。それが、いまや「137億年です」という3桁の数字で答えられるようになったわけですから、本当にすごいことです。



宇宙を1冊の古文書として見るならば、その解読作業は劇的に進行しています。
それというのも、20世紀初頭に生まれた量子論と相対論という、現代物理学を支えている2本の柱が作られたからです。さらにこの2つの物理学の根幹をなす法則を駆使することによって、ビッグバンモデルと呼ばれる、宇宙の始まりの瞬間から現在にいたる宇宙進化の物語が読み取られてきました。
宇宙はまず、量子論的に「有」と「無」の間をゆらいでいるような状態からポロッと生まれてきました。これは「無からの宇宙創生論」といわれているものです。そうして生まれた宇宙は、ただちにインフレーションを起こして急膨張し、インフレーションが終わると超高温、超高密度の火の玉宇宙になり、その後はゆるやかに膨張を続けました。
その間に、インフレーション中に仕込まれた量子ゆらぎが成長して、星や銀河が生まれ、太陽系ができて、地球ができて、その上に人類が生まれるという、非常にエレガントな一大叙事詩というか宇宙詩とでもいうべきシナリオができ上がってきたわけです。


YouTubeに、いろんな星の大きさを比較していく動画があります。
初めて観たときは、言葉にならないほどの大きな衝撃を受けました。
地球の衛星である月よりも水星や火星や金星は大きく、さらに地球は大きい。
その地球よりも土星は大きく、それよりも木星ははるかに大きい。
その木星も太陽に比べれば小さなものですが、その太陽がゴマ粒に感じられるぐらい大きな星が宇宙にはゴロゴロしているのです。
アルクトゥルスうしかい座)は太陽よりもはるかに大きく、ベテルギウス(オリオン座)とアンタレス(さそり座)はさらに大きい。
観測された銀河系の恒星のうち、最も明るい超巨星がピストル星です。
「ガーネットスター」とも呼ばれるVVCepheiは有名な赤色超巨星です。
そして現在までに人類が確認した中で最も大きい星は、おおいぬ座のVYです。
その直系は推定25億から30億kmで、太陽の約2000倍、地球の約29万倍の大きさというから凄いですね。なんだか、仏教の空間論をイメージしてしまいます。
たとえば、地獄の最下層である阿鼻地獄は「無間地獄」とも呼ばれます。わたしたちの住むこの世界からそこまで落ちるのは自由落下で、なんと2000年もかかる距離です。秒速を9.8/mとして計算すると、約6.1億kmになります。まさに想像を絶するスケールですね。ちょうど今、わたしは『ブッダの考え方』(中経の文庫)という本を書いているのですが、本当に仏教的世界観のスケールの巨大さには圧倒されます。


宇宙と人間との関係について考えると興味は尽きません。
よく知られている宇宙論に、いわゆる「人間原理宇宙論」というものがあります。
現在、わたしたち人類がこの宇宙のなかに存在しているわけですが、物理的考察をすると、人類が宇宙の中に存在しうる確率は、ほとんどありえないという考え方です。
つまり、あたかも神によって「人類が存在できる宇宙」が必然的に選ばれたかのごとくに、さまざまな事柄が調節されて、初めて人類が宇宙のなかで誕生し、存在することが可能である、いや、そうとしか考えられない。
そのように宇宙をとらえる考え方が、「人間原理宇宙論」です。
宇宙のなかにある物質の量とか、宇宙の曲率とか、あるいは原子核同士が核融合反応を起こすときの核反応率とか、その他もろもろのあらゆる物理的諸条件の値が少しでも違っていたら、太陽も地球も誕生せず、炭素もできません。ということは、炭素型の生命体であるわたしたちの存在もなかったわけです。
このように、現在の宇宙の様子をいろいろと調べると、わたしたち人間が存在するためには、きわめて計画的に、ものすごい微調整をしなければなりません。
偶然にこうした条件が揃うようなことは、まず、ありえないでしょう。
ですから、人類のような高度な情報処理のできる生命が存在しているという事実を説明するときに、「これはもう、人類がこの宇宙に生まれるように設計した神が存在したに違いない」という発想が必然的に出てくるわけですね。

 
                   わが書斎の宇宙書コーナー


最近の人類で最も「宇宙の謎」に迫った人物として、スティーヴン・ホーキングの名が浮かびます。ホーキングは、著書『ホーキング、未来を語る』(佐藤勝彦訳、アーティストハウス)において、きわめて興味深い最新の話題を紹介しています。
それによると、わたしたちの住んでいるこの世界は十次元空間に浮かんでいる3次元の膜、いわゆる「ブレーン」と呼ばれるものであるといいます。
「ブレーン」という言葉は、英語で「膜」を意味する「メンブレーン」を省略したものです。
この考えはホーキングのような宇宙物理学者のオリジナルではなく、素粒子の間に働く「力の統一理論」を研究している素粒子物理学者たちが、「スーパーストリング理論」という最新理論で考えると、すべてがうまく、統一理論ができるということで考えられてきたものです。「超ひも理論」と訳される「スーパーストリング理論」とは、物質を構成する極小の単位は点状の微粒子ではなく、ひも状のものだという理論ですね。
いずれにしても、10次元の空間とはとてつもない概念です。
量子論と相対論との幸福な結婚をめざす理論物理学というサイエンスは、宇宙や時間の究極の姿までをも描き出そうとしています。
かつて「来世」とか「四次元」といった概念が私たち人類の心にいかに影響を与え、人類がその想像力を哲学・芸術・宗教とあらゆる方面に広げていったかを思い起こせば、マルチバース多世界解釈、そして10次元空間といった考え方が、今後、わたしたちのイマジネーションをどれだけ豊かにするのか、今は想像もつきません。
もっと詳しく知りたい方は、『ハートフル・ソサエティ』(三五館)の「神化するサイエンス」をお読み下さい。宇宙に対する、わたしの考え方が述べてあります。


                    神化するサイエンス


2011年6月16日 一条真也