魔女狩りの教会

一条真也です。

ライフスタイル・プロデューサーの浜野安宏さんのブログに興味深い記事がありました。
私の家から真夜中でも魔女狩りのチャーチが見える。」という6月4日の記事です。
わたしは一読して、「さすがは、浜野さん!」と、思わず膝を打ちました。
もちろん、骨折していないほうの足の膝ですが(笑)。


                  浜野安宏さんのブログより


浜野安宏さんは、日本を代表するプロデューサーのお1人です。
株式会社浜野商品研究所を設立し、フロムファースト東急ハンズ、神戸ポートアイランド、横浜みなとみらい21ポートサイド地区・・・・・数多くの空間をプロデュース。
1981年、神戸ポートピア81とAXISのプロデュースにより毎日デザイン賞受賞。
92年、自ら創業した会社を退社後、新たに浜野総合研究所と改名して新設。
そして、世界のクリエーター組織である「チーム・ハマノ」を結成されました。
渋谷のシンボルとなっている「QFRONT」も浜野さんのプロデュースです。
また、今や世界的建築家となった安藤忠雄氏を最初に発見した方でもあります。
『人があつまる』をはじめ、『遊びジネス宣言』『リゾート感覚』『ネイチャー感覚』など著書も多く刊行されており、「出版寅さん」こと内海準二さんが編集されています。
わたしは、浜野さんとは東急エージェンシー時代に初めてお会いしました。
もう20年以上も前ですが、その後、内海さんとの御縁で何度かお会いしています。


浜野さんは現在、東京の青山にお住まいなのですが、数年前、すぐ近くに某ブライダル企業の教会型結婚式場が建ちました。
そのデザインが、中世ヨーロッパのゴシック様式なのです。
ゴシックとは、もともと「野蛮な」という語源を持つ言葉です。カトリックが「異端審問」や「魔女狩り」などを行っていた暗黒時代のモニュメントでもあります。
高く聳える尖塔や過剰な装飾をはじめ、人間の心に強いストレスを与えるデザインと見る人も多く、心理学者のユングなどはゴシック教会の中に入ると悪寒がしたそうです。



さて、浜野さんはブログで次のように綴られています。
「煌煌と光っている
皆が自粛している時にこの結婚式用の過剰な教会が
電力を消費し続けることが許せない。
この醜さが許せない。
こんな商業主義の固まりで結婚する人々の無神経さが許せない。
ここは青山の真中です。
ゴシック様式の建築はヨーロッパでは魔女狩りのシンボルである。
こんなハリボテの教会をありがたがる人々の無神経さ、
平気で電飾をつけっぱなしにする管理の悪さは
悪質なる商業資本の自動作用そのものである。
これ以上やり続けるなら、近隣住民も覚悟がある。
1度だけ係の人が訪ねて来て自粛すると言っていたが、
平気で建物を建て、無神経に電飾をつけ続ける。
住宅街に刺さり込んだ、悪趣味な教会模型、この過剰許せない。
ジョー!カジョー!カジョーン・・・」



今は亡き谷啓は「ガチョーン」でしたが、浜野さんは「カジョーン」と叫びます。
わたしはブライダル業界に身を置く者の1人ですが、浜野さんにまったく同感です。
青山の真中だろうが、九州の地方都市だろうが、はっきり言って、ゴシック教会は日本の景観に合いません。立派な環境破壊だと思います。
数年前から、日本各地でゴシック教会の威容(異様)が目につくようになっています。
ゴシックの語源である「野蛮」性が日本では特に際立ち、趣味の悪さが目立ちました。
地元の住人たちの中には、それらを「悪魔教会」などと呼んだ人もいました。
おそらく、その威圧的な外観に邪悪なものを感じたのかもしれません。


                 「建築雑誌」2009年2月号より


そのことを日本建築学界発行の雑誌である「建築雑誌」2009年2月号に書いたこともあります。「宗教建築は終わったのか」という特集号でした。編集長である東北大学准教授の五十嵐太郎氏から依頼があったのですが、わたしは本名の佐久間庸和として、「これからの冠婚葬祭空間」というタイトルで寄稿しました。かなり反響がありました。
現在では、結婚式場のデザインのトレンドも「モダン」に以降しています。
しかし、一時はゴシック様式と古典様式のオンパレードでした。V・S・O・P!
本来はクリスチャンでない日本人が教会で結婚式を挙げること自体が考えるべき問題なのに、カトリックの絶対権力を示すゴシック教会を建てることは、日本人の「こころ」に良くない影響を与えるのではないかと、わたしは心配していました。
ゴシック教会型の結婚式場が増えてゆくにつれ、日本人の離婚件数も増加の一途をたどるし、また考えられないような猟奇的な殺人事件なども増えた気がします。
わたしは、そこに「悪魔化するニッポン」を見た思いでした。



これも浜野さんの言葉だったと思いますが、「建築の作法」、そして「都市の作法」というものがあるのです。過剰なデザインで、周囲の景観を破壊してはなりません。
「こんなハリボテの教会をありがたがる人々の無神経さ、平気で電飾をつけっぱなしにする管理の悪さは悪質なる商業資本の自動作用そのものである」という言葉は、すべてのブライダル業界関係者が傾聴すべきでしょう。
醜悪なオカルト教会で結婚式など挙げていたら、日本のブライダルは経営側も顧客側も幼稚だと言われ、世界中から馬鹿にされても仕方ありません。ハリボテのゴシック教会が「日本の恥」であることを同業者のみなさんも早く理解してほしいです。
現在、わが社は3ヵ所ほど新規の結婚式場を建設する計画を進めていますが、周囲の景観に合った、また日本人の「こころ」に合ったデザインにするつもりです。


それからデザインに関係なく、今後は過剰なライトアップを自粛する必要があります。
日本が国難にある今、「都市の作法」、「企業の作法」として当然だと思います。
浜野さんのブログを読んで、いろんなことを考えました。
それにしても、浜野さんのブログは今日たまたま開いたのです。
本当に3年ぶりぐらいに偶然に開いて最初に目に飛び込んできた記事が、なんと「魔女狩りのチャーチ」だったのです。まさに、今のわたしにジャストフィットした話題!
非常に驚くとともに不思議な御縁を感じました。これも、「虫の知らせ」でしょうか?
わたしの足が治って上京したら、一度、浜野さんをお訪ねしてみたいと思います。
それでは、また・・・・・。カジョー!カジョー!カジョーン・・・


2011年6月17日 一条真也