一条真也です。
金沢に来ています。
昨夜、福岡空港から松葉杖とともにANKに乗り込み、小松空港に到着。
今日は、午後から北陸大学で「孔子研究」の講義がありました。
約250名の学生たちも、わたしの松葉杖姿に驚いたようでした。
いつもは黒板をフルに使って板書するのですが、足がまだ完治していなくて満足に立てないため、今回はパワーポイントを使い、椅子に座ったままで講義しました。
今日のテーマは、「孔子の思想」です。
最初に、わたしは「無縁社会」の話から始めました。
年間に3万2000人が無縁死し、3万人が自殺する社会に日本がなってしまった大きな原因は、血縁と地縁が弱まったことです。
そして、その結果、あらゆる人間関係が希薄化しました。
わたしたちが生きる社会において、最大のキーワードは「人間関係」だと思います。
社会とは、つまるところ人間の集まりです。
そこでは「人間」よりも「人間関係」が重要な問題になってきます。
孔子を学ぶ理由
そもそも「人間」という字が、人は一人では生きてゆけない存在だということを示しています。人と人との間にあるから「人間」なのです。
だからこそ、人間関係の問題は一生つきまといます。
わたしは、人類が生んだあらゆる人物の中で孔子をもっとも尊敬しています。
孔子こそは、人間が社会の中でどう生きるかを考え抜いた最大の「人間通」です。
その孔子が開いた儒教とは、ある意味で壮大な「人間関係学」なのです。
孔子は「仁」「義」「礼」「智」「信」といった人間の心にまつわるコンセプト群の偉大な編集者でした。彼の言行録である『論語』は千数百年にわたって、わたしたち日本人の先祖に読みつがれてきました。意識するしないにかかわらず、これほど日本人の心に大きな影響を与えてきた書物は存在しません。
特に江戸時代になって徳川幕府が儒学を奨励するようになると、必読文献として教養の中心となり、武士階級のみならず、庶民の間にも普及したのです。
そして江戸時代の日本において、『論語』で孔子が述べた思想をエンターテインメントとして見事に表現した小説が誕生しました。
滝沢馬琴が書いた『南総里見八犬伝』です。江戸の大ベストセラーになりました。
その中に登場する八犬士が持っていた玉には、それぞれ「仁」「義」「礼」「智」「忠」「信」「孝」「悌」の文字が浮かび上がりました。
この八つの文字こそ、孔子が儒教思想のエッセンスとしてまとめたコンセプト群であり、わたしたち日本人が最も大切にした「人の道」のキーワードでした。
今日の講義では、わたしなりに解釈した21世紀版「仁」「義」「礼」「智」「忠」「信」「孝」「悌」についての話をしました。いま、『世界一わかりやすい「論語」の授業』(PHP文庫)という本を書いていますが、今日の授業はそのリアル版です。2500年前の孔子からのメッセージを、学生たちが少しでも理解してくれれば嬉しいのですが・・・・・。
2010年6月22日 一条真也拝