北九州へ!

一条真也です。

今朝の「朝日新聞」全国版に、「県外避難 官民で支援」という記事が出ていました。
大見出しの横には、「受け入れ進める北九州市」とあります。
東日本大震災の被災者に対する北九州市の取り組みが大きく紹介されています。


                  「朝日新聞」7月3日朝刊


東日本大震災の特徴の1つとして、多くの県外避難者が全国に散らばっていることがあります。岩手、宮城、福島の3県で、じつに約4万4000人に上るそうです。
慣れない土地では、どうしても孤立しがちになりますが、そんな被災者たちをどう支えるかが受入れる自治体の共通の課題となっています。
このブログでも何度か紹介しましたように、北九州市では「絆プロジェクト北九州」という試みが始動しています。北九州ホームレス支援機構の奥田知志理事長の呼びかけに北橋健治市長が応え、住まいの提供から生活相談、就業支援まで官民協働のネットワークで被災者を支えることを目指しているのです。
商工会議所は就業支援、民生・児童委員やNPO法人が伴走型支援を担うといった形で、それぞれの団体が得意分野で活動しています。



現在、北九州市は「ハートフル北九州」を謳っています。
その名に恥じない、思いやりにあふれた都市づくりを目指しています。
そして、わたしは、このような被災者の受け入れ支援などは北九州市の得意技ではないかと考えています。全国の政令指定都市で最も高齢化の進む北九州市には、「助け合い」や「支え合い」の文化があるように思います。
奥田理事長らが長年取り組んでこられた「ホームレス支援」活動は日本一の実績を残しておられます。また、わが社が開催をサポートさせていただいている「隣人祭り」が開かれる回数も日本で最も多いのではないでしょうか。


                  「朝日新聞」7月3日朝刊


北橋市長や奥田理事長とともに、わたしも朝日の取材を受けました。
わたしは「雇用に前向きな冠婚葬祭会社の社長」として紹介されています。
そして、「地域の絆で受け入れる趣旨に賛同した。震災で受け入れる側の地域力も試されている」という発言が掲載されています。もうすぐ、被災者の方々の採用面接を行いますが、1人でも多くの方々が入社いただけることを楽しみにしています。
けっして、「当社の人員は間に合っているのだけど、困った時はお互い様だから採用しましょう」ではありません。わたしは、大震災の被災者だからこそ採用したいのです。
というのは、地震津波放射能で極限の体験をされた方々にとって、その体験は「強み」となりうると思っているのです。極限の体験をされたからこそ、他人の痛みがわかる方が多いのではないかと期待しています。
冠婚葬祭の業務ももちろんですが、今後ますます重要になっていくグリーフケア・サポートのスタッフなどは、日々、愛する人を亡くした人々に接します。
そのとき、自分自身が経験してきた「悲しみ」や「苦しみ」が、他人への共感となって、「思いやり」となり、さらには「癒し」になるように思うのです。



被災者の方々のみならず、日本中の高齢者も北九州市に来ていただきたいです。
現在、全国には約470万人もの独居老人が分散しています。
それらの方々の中には、孤独死をする危険性が高い方も多いです。
そういった方々に北九州に参集していただき、余生を過ごしていただきたいのです。
高齢化先進都市である北九州市は、高齢者が多いことを「強み」として、日本一、高齢者が安心して楽しく生活できる街づくりを目指すべきだと思います。
そこで、大事なポイントは「孤独死をしない」ということです。
隣人祭りをはじめとした多種多様なノウハウを駆使して、孤独死を徹底的に防止するシステムを構築することが必要です。そうなれば、「北九州にさえ行けば、仲間もできて、孤独死しなくて済む」というふうになるのではないでしょうか。
全国の独居老人には、どんどん北九州に移住していただきたいと真剣に願っています。


                  サンレーグランドホテル   


もともと、わたしは北九州市を「高齢者福祉特区」にするべきだと訴えてきました。
そして「人は老いるほど豊かになる」というコンセプトに基づく「老福都市」をイメージし、そのモデルとして高齢者複合施設である「サンレーグランドホテル」を北九州市の八幡西区に作りました。いわゆるセレモニーホールと高齢者用のカルチャーセンターなどが合体した前代未聞の施設として大きな話題になりました。
それは、ものすごく深い問題と関わったプロジェクトだと思っています。というのは、この試みは「人類の幸福」とダイレクトに関わっているのです。
わたしは「幸福」というものに関心が深く、かつて「幸福」に関するジャンルの本を読みあさったことがあります。そこで、どうしても気になったのが、日本では、人が亡くなったときに「不幸があった」と人々が言い合うことでした。
わたしたちは「死」を未来として生きている存在です。もし死が不幸な出来事だとしたら、死ぬための存在である私たちの人生そのものも、不幸ということになります。
わたしは、不幸な人生など送りたくありません。幸福な人生を送りたいと思っています。最初から「不幸」という結末の見えている負け戦になど参加したくないのです。
死が不幸なら、それに近づく過程に他ならない「老い」も不幸ということになります。
ですから、人が亡くなって「不幸があった」などといっているあいだは、日本人の幸福などはじめからありえません。



近代工業社会はひたすら「若さ」と「生」を謳歌し、讃美してきました。
しかし、高齢化社会では「老い」と「死」を直視して、前向きにとらえていかなければなりません。今こそ幸福な「老い」と「死」のデザインが求められているのだと考えています。
日本は世界でもっとも高齢化が進行している国ですが、その中でも北九州市はもっとも高齢化が進行している政令指定都市です。つまり人口百万人以上の都市でいえば、北九州市は世界一の超高齢化都市であるといえます。その多くの高齢者が生活する北九州市において「老い」が不幸だとしたらどうなるでしょうか?
北九州市は不幸な人間がもっとも多くいる世界一不幸な街になります。しかし逆に、「老い」が幸福だとしたら、世界一幸福な街になるのです。
世界一幸福な街と世界一不幸な街。まさに、天国か地獄かです。「老い」のとらえかたひとつでこんなにも変わるのであれば、わたしたちは天国を選ぶしか道はありません。
ですから、「老い」と「死」に価値を置く施設であるサンレーグランドホテル北九州市に誕生したことは多くの方々から評価されました。なぜなら、高齢化が進む日本の諸都市、世界各国の都市にとって北九州市とは自らの未来の姿そのものだからです。
こういった考え方そのものが、ドラッカーの「強みを生かす」という思想をベースにしていていることがおわかりいただけるかと思います。

 

わたしは、北九州市は「老福都市」を、「助け合い都市」を、そして「隣人愛都市」を目指すべきだと確信します。平たく言えば、それは「社会福祉都市」ということになるかもしれません。そんな都市が日本にできるなんて素敵じゃないですか!
また、ここは非常に大事なポイントなのですが、震災の被災者の方々には地震が起こる危険性が低いことも北九州の大きな魅力の1つだと思います。
地震が起きると最も困る施設とは何でしょうか。
今でこそ原発が代表格ですが、昔は製鉄所でした。
なぜなら、製鉄所内には燃えさかる溶鉱炉があり、それが地震で倒壊したりすると大惨事になるからです。1901年に官営の製鉄所を日本に初めて建造するとき、大日本帝国は「最も地震が起きにくい場所」を徹底的に調査しました。
その結果、選ばれた場所こそ北九州の八幡だったのです。
すなわち、八幡製鉄所は災害に対する「安心」のシンボルなのです。
ぜひ、被災者の方々は安心して北九州に来られて下さい。
また被災者のみならず、独居老人でも、どんな方でも結構です。
日本のどこかで困っておられる方、これからの人生に不安を抱いている方がおられたら、ぜひ北九州へ来ていただきたいです。わたしたちが心より歓迎いたします。


2011年7月3日 一条真也