原田芳雄さん、逝く

一条真也です。

19日、俳優の原田芳雄さんがお亡くなりになりました。71歳でした。
大腸がんで闘病中に肺炎にかかり、東京都内の病院で死去されたそうです。
先日、タレントの宮尾すすむさんが亡くなられたばかりです。
東日本大震災以来、芸能界の大物の訃報が相次いでいますね。


                  「スポーツ報知」7月20日号


原田さんは、東京生まれ。1971年(昭46)、劇団俳優座を退団後、「君よ、憤怒の河を渡れ」「どついたるねん」など、多くの話題作に出演されました。
特に、「美しい夏キリシマ」「父と暮せば」「祭りの準備」「浪人街」といった黒木和雄監督作品に多く出演し、存在感を示しました。


中でも最大の話題作が1974年の「竜馬暗殺」でした。
このとき、原田さんが演じた坂本龍馬は、まさに100%イメージ通り!
これまで多くの俳優が龍馬を演じてきました。
映画では、尾上松之助阪東妻三郎月形龍之介市川右太衛門石原裕次郎萬屋錦之介武田鉄矢根津甚八渡瀬恒彦渡辺謙トータス松本。テレビでは、北大路欣也真田広之浜田雅功上川隆也市川染五郎(7代目)、そして福山雅治
しかし、原田芳雄こそは史上最高の龍馬俳優だったと確信しています。


黒木和雄監督といえば、岩波映画出身でドキュメンタリー映画も得意としました。
1978年には「原子力戦争」というメッセージ色の強い作品をATGで作っています。
原作は、なんとジャーナリストの田原総一郎氏です。
さらに驚くべきは、この映画は福島原発でアポなし撮影しているのです!
いま、この映画を観ると非常に考えさせられます。
往時の福島原発の様子を知る上でも貴重な映像と言えるでしょう。
そして、この「原子力戦争」にも原田さんは主演しているのです。


黒木監督作品以外では、かの寺山修司が監督した「田園に死す」も名作でした。
そして、ブログ「48歳差の再婚」に書いた鈴木清順監督の「ツィゴイネルワイゼン」「陽炎座」「夢二」の三部作での名演技が思い起こされます。いずれも幻想的な雰囲気の作品でしたが、原田さんの出演によって幻想性が強調される気がしました。
本当にスクリーンに出ているだけで不思議な存在感を示す個性派俳優でしたね。


映画「大鹿村騒動記」(阪本順治監督)が、今月16日から公開されています。
この映画に思い入れが深かった原田さんは、長野県の村歌舞伎をテーマに選びました。そして、自ら主演されています。
11日、東京都内の映画館で完成披露試写会が行われました。
すでに病床にあった原田さんは、最後の力を振り絞って試写会に姿を見せました。
そのとき、共演者やスタッフ、そして観客のみなさんと最後の別れを告げたわけです。
このフィナーレは、映画人として理想の終わり方ではなかったかと思います。
自身の集大成としての遺作「大鹿村騒動記」は原田さんの墓であり、その完成披露試写会とは生前葬ではなかったかと思います。



わたしは、原田芳雄という俳優が大好きでした。
原田さんの通夜や告別式は未定だそうです。
ぜひ、稀代の名俳優らしい人生の卒業式を行っていただきたいと思います。
原田さん、永い間、お疲れ様でした。わたしは今夜、あなたの代表作である「竜馬暗殺」と「ツィゴイネルワイゼン」のDVDを観るつもりです。合掌。


2011年7月19日 一条真也