小松左京氏、逝く

一条真也です。

いや、驚きました。SF作家の小松左京氏が亡くなられたのです。
今月8日に体調を崩し、大阪府箕面市の病院に入院されていました。
26日午後4時36分、肺炎のために死去されたそうです。80歳でした。
いつものことながら、「Yahoo!Japanニュース」で知りました。


                  「Yahoo!Japanニュース」より


言うまでもなく、小松氏は日本SF界最大の巨匠でした。
31歳でデビューするや、矢継ぎ早に『復活の日』『果てしなき流れの果てに』『継ぐのは誰か?』といった大作を発表し、『日本沈没』で大ベストセラー作家となりました。
プロデューサーとしての手腕も発揮され、70年の大阪万博や85年の国際科学技術博覧会(つくば博)、90年の「国際花と緑の博覧会」などに関わられました。



東日本大震災以来、わたしは小松左京氏に異常なほどの関心を抱いていました。
ブログ『SF魂』ブログ『宇宙にとって人間とは何か』ブログ『小松左京自伝』などにも、そのことを書きました。コラムを連載している新聞や雑誌などにも「いま、小松左京が読まれるべきだと思う」と書いています。
地震に大津波、最悪のレベル7となった原発事故...未曾有の国難に遭って、状況はわたしたちの想像力を完全に追い越してしまいました。
想像力のチャンピオンといえば、なんといってもSF作家です。古くはヴェルヌやウェルズにはじまり、アシモフやクラーク、ディックといったSF作家たちが多くの作品を残してきました。彼らは、これまで宇宙人襲来、未知のウィルス、人工知能の反乱核戦争、そして人類滅亡といった、ありとあらゆる極限状況をも描いてきたのです。今こそ、わたしたち日本人は、SFにおける想像力を「人類の叡智」として使う時期だと思います。
「そして、日本には小松左京がいます」と、わたしは書きました。


小松氏は、両親の関東大震災の体験をヒントに『日本沈没』を書いたそうです。
その後、著者自身が阪神淡路大震災に遭遇し、「あの震災は本当にショックだった。あれだけ地震地殻変動について調べているのに、阪神間にあんな地震が来るとは思ってもみなかった」と述べています。その直後、うつ状態になられたということを知って、「いま、小松左京は何を思っているのか?」と非常に気になっていました。
それをNHKプロデューサーで、「クローズアップ現代」や「プロフェッショナル 仕事の流儀」などを手掛けられた河瀬大作さんにお話ししたところ、河瀬さんも興味を持たれたようで、「ぜひ、小松さんの話を聞きましょう!」と言われていました。
「きっと近いうちに、東日本大震災についての小松左京氏のインタビュートがNHKで観られる」と楽しみにしていたのですが・・・・・。


ブログ『小松左京自伝』でも紹介しましたが、小松氏は次の発言を遺されています。
「人類が滅んでもデータファイルが残って、別の宇宙生物に読み取られるとしようか。コンピュータや宇宙言語でインデックスを書いておいたらドラマが再開されたり、彼ら宇宙人がロボットに再現させるかもしれない。そうすると、宇宙にとって文学とは何かという問題になるんだね」
「文学の中では単なる荒唐無稽じゃなくて、いわゆるファンタジー、イマジネーションをまじえて宇宙の果て、宇宙の終末を書ける。それがSFなんだね。だから文学は逆に科学も豊かにしてくれる。でも、本当はこれからSFはどうなるか。僕はとても答えきれないけど、後輩たちがやってくれるんじゃないかという気がするんだな」



これを読んで、小松氏にとってのSFとは「志」の器なのだと、わたしは思いました。
「志」はよく「夢」と混同されますが、両者は違います。
夢は一代で叶えることができても、志は一代に限らないからです。
志とは己の身が朽ち果てた後に次世代に託すということもあるからです。
幕末の吉田松陰坂本龍馬は志に生きる者、すなわち「志士」と呼ばれましたが、彼らが心の底から願った新社会は彼らの死後に「明治維新」として実現しました。
松陰や龍馬の志は、その死後に同志によって果たされたのです。
それと同じで、著者にとっての志は、後輩たちが果たしてくれるでしょう。
そして、その志の内容とは、著者がその生涯を捧げたSFが文学のみならず科学をも豊かにし、さらには宇宙までをも進化させるという途方もないものです。それにしても、これまで「宇宙にとって文学とは何か」などと考えた日本人が存在したでしょうか? 
「SF界の巨星」は、間違いなく現代日本最高の「知の巨人」でもありました。


                  「朝日新聞」7月29日朝刊


朝日新聞」7月29日朝刊の記事によれば、小松氏が死の直前に東日本大震災に心を痛め、「今は大変な時期かもしれないけれど、危機は必ず乗り越えられる。この先、日本は必ずユートピアを実現できると思う。日本と日本人を信じている」とのメッセージを残されたそうです。小松左京氏の御冥福を心よりお祈りいたします。合掌。


2011年7月28日 一条真也