『暗黒童話』

一条真也です。

『暗黒童話』乙一著(集英社文庫)を読みました。
デビューから10年を経た著者が初めて書いた長編小説です。
内容は、死者の眼球をめぐるグロテスクなホラーです。
ブログ「アイズ」で紹介した映画の世界にも通じるものがありました。


               眼球にまつわる戦慄の長編ホラー小説


本書のカバー裏には、次のように内容が紹介がされています。
「突然の事故で記憶と左眼を失ってしまった女子高生の『私』。臓器移植手術で死者の眼球の提供を受けたのだが、やがてその左眼は様々な映像を脳裏に再生し始める。
それは、眼が見てきた風景の『記憶』だった・・・。私は、その眼球の記憶に導かれて、提供者が生前に住んでいた町をめざして旅に出る。悪夢のような事件が待ちかまえていることも知らずに・・・。乙一の長編ホラー小説がついに文庫化」



作中に「アイのメモリー」という題名で、鴉が死者の眼球を少女のために運んでくるというダーク・ファンタジー(暗黒童話)が登場します。
これは、何だかオスカー・ワイルドの「幸福の王子」を連想しました。
本書のテーマ自体も、あまり目新しさは感じません。
ただ、ラストで明らかになった真犯人には驚かされました。
処女作である「夏と花火と私の死体」以来、どうやら、ラストでの驚愕のどんでん返しは著者の得意技になっているようです。



不気味なエピソードや猟奇的な殺人描写なども描かれていますが、本書は「ホラー」というよりも「ミステリー」として捉えたほうがより愉しめるかもしれません。
いずれにせよ、著者が稀代のストーリーテラーであることだけは間違いないでしょう。
この作品で初めて長編に挑んだ著者は、この後、『死にぞこないの青』や『暗いところで待ち合わせ』などの傑作長編を立て続けに書くことになります。


2011年8月23日 一条真也