「汽車はふたたび故郷へ」

一条真也です。

東京に来ています。
昨日の昼食も夕食も、それぞれ凄い方から御馳走になりました。
その方々の名前を明かせば、みなさんが驚かれるような大物です。
ヒントは、ランチが日本橋で鰻、ディナーが新宿で中華料理でした。
今日も午前中に、日本人なら誰でも知っている有名企業の社長さんにお会いしました。その人も名を明かせばブログのアクセス数は大いにアップするでしょう。
しかし、それはあえて明かしません。わたしも、すべての行動を公表するわけにはいきません。ましてや、お会いした相手の方の個人情報となると尚更です。


さて、昨夕のわずかな時間を使って神保町の「岩波ホール」で映画を観ました。
ここでしか観賞できない作品で、「汽車はふたたび故郷へ」というタイトルです。
オタール・イオセリアーニ監督の自伝的要素を含む人生賛歌です。イオセリアーニ監督といえば、「ここに幸あり」や「月曜日に乾杯!」などの名作で知られます。
旧ソ連時代のグルジアから、自由を求めてフランスに移り住んだ巨匠です。
しかし、フランスでも映画界の商業主義と闘わざるを得ませんでした。
この映画では、そんな監督の若き苦難の日々をユーモラスに描いています。
主役を演じるのは、監督の孫であるダト・タリエラシュヴィリです。
亡命してまでも、自分らしい映画を作ることを諦めなかった主人公の人生に共感する一方で、「少しは他人と協調することも必要だろう」と思ってしまう部分もありました。


この映画は、いわゆる「映画の舞台裏を描いた映画」です。というと、かのフェリー二の「8 1/2」、あるいはトリュフォーの「アメリカの夜」といった作品が思い浮かびます。
いずれも映画への愛情に溢れた名作ですが、そういった内容を期待していたわたしには、「汽車はふたたび故郷へ」はちょっと物足りないというか、暗い印象が残りました。
もちろん旧ソ連という社会主義国で映画を作ることの難しさ、苦悩はわかりますが、それにしてももう少し映画への愛情を示せないものかと思いました。映画評論家の高崎俊夫氏も「映画.com」で、「自らの実人生を映画作りを通して再現するという<入れ子風>の構造を採用し、数多の戯画化された自伝的エピソードをちりばめながらも、ここには『8 1/2』の深刻さも、『アメリカの夜』の歓喜もない」と書いています。



ラストシーンでは、河畔でのピクニックで謎の人魚とともに主人公が水中深く消えていきます。あれは、何を意味していたのかはわかりませんが、強く印象に残りました。
あと、この映画を観る直前には「Yahoo!映画」での総合評価が4.0だったのに、観終わった後でもう一度チェックすると3.5になっていました。
なんと、わたしが観賞していた2時間の間に平均0.5も下がるとは驚きました。
わたしは、この映画を観た後、汽車ではなくてスターフライヤーで故郷へ帰りました。


2012年3月28日 一条真也