「こころ」と「かたち」

一条真也です。

アサヒグループホールディングスの福地相談役が、今朝の「産経新聞」に寄稿されました。福地相談役は、前NHK会長で、現在は新国立劇場の理事長という方です。
そして、わたしの高校の大先輩でもあります。ブログ「マイケル・サンデル白熱教室」で書いたサンデル教授の歓迎レセプションでお会いしました。


産経新聞」6月20日朝刊



福地相談役の寄稿は、「『こころ』と『かたち』」と題されています。
また、「『うちの会社は別』ではない」とも大きく書かれています。
その冒頭で、福地相談役は「日本経済を牽引してきた家電メーカーが巨額の赤字を計上した。創造性あふれるモノをつくり出し、世界を席巻した日の丸家電メーカーも、海外勢の台頭に加え、急激な円高や高額なインフラコストなどにより苦戦を強いられている」と書かれ、ジェームズ・C・コリンズ著『ビジョナリー・カンパニー3 衰退の五段階』という本を紹介しています。一時代を築いた企業が苦しんでいる様子をみて、同書を再読されたそうです。そこには、企業は「成功から生まれる傲慢」からはじまる5段階を経て衰退していくと書かれていました。



そこで福地相談役は、このように考えられたそうです。
他の企業が業績不振にあえぐ姿を見て「うちの会社は別だ」と思ったならば、その時点で既にその企業は転落への序章がはじまっているのではないだろうか、と。
そして、次のように書かれています。
「私がNHKの会長に就任したとき、不祥事のあとの危機の真っただ中であり、改革は待ったなしであった。2冊の本を携えて幹部職員への就任あいさつに臨んだ。1冊は1998年に発売された『アンダーセン発展の秘密』。世界の五大会計事務所の一角を占めていたアーサーアンダーセンがいかに発展していったかという軌跡を描いている。そして、もう1冊はそのわずか5年後、2003年に発売になった『名門アーサーアンダーセン消滅の軌跡』。アーサーアンダーセンは、米エンロン社の粉飾決算に端を発した問題で、あっという間に消滅したのだ」



福地相談役によれば、 「うちの会社は別」ではないということです。
沈まない船はありません。タイタニック号は絶対に沈まないとされていましたが、船の設計者は「鉄でできている以上、沈みます」と言っていたのです。
さらに福地相談役は、次のように述べます。
「『ビジョナリー・カンパニー』には、「規律なき拡大路線」が衰退の第2段階であると記されている。企業として拡大路線を取ることは決して間違っていない。チャレンジをしない組織は活力を失うからだ。とはいえ、やみくもに拡大路線を取ってはいけない。そこには規律が必要なのだ。規律とは、自らの事業領域をはみ出した事業には手を出さないということだ。そして撤退基準を定め、兵力の逐次投入は避けなければならない。道に迷ったときは原点回帰に尽きる」
ちなみに、ブログ『ビジョナリー・カンパニー』にも書きましたが、ジェームズ・C・コリンズの『ビジョナリー・カンパニー』シリーズは、わたしの愛読書でもあります。



では、衰退した企業は全て復活しないままなのでしょうか。
福地相談役は「決してそうではない」と断言します。
スーパードライ」発売前のアサヒビールも非常に厳しい時期がありました。
一時は企業存亡の危機にも立たされたそうですが、最高のタイミングでスーパードライを発売し、窮地を脱することができました。
福地相談役は、「天の時・地の利・人の和が理想的にかみ合い、スーパードライは成功した。どれが欠けても、ここまではうまくいかなかった」として、述べます。
「『運が良かった』とも言えるが、神様は運とツキを公平に与えている。それをつかめるか、逃すのかが問題だ。運とツキをつかむためには、やるべきことをしっかりやること、そして謙虚な姿勢であり続けることだ。運が良かったことを否定して、自分の実力だけで成し遂げたと勘違いしてはいけない。それは『成功から生まれる傲慢』である」


これを読んで、わたしはしみじみと企業経営について考えさせられました。
財界きっての「読書の達人」である福地相談役の真骨頂というべき内容ですが、先日、拙著「礼を求めて」をお送りさせていただいたところ、丁重な礼状を頂戴し、恐縮いたしました。その礼状には、「私は常々、『こころ』と『かたち』についてお話しています。想いと儀式は相乗効果で人を豊かな心に導くと思っております。佐久間社長様のご著書を拝読して、改めて感じ入った次第でございます」
わたしは、この手紙を読んで、本当に心の底から感動しました。
「想いと儀式は相乗効果で人を豊かな心に導く」という素晴らしい言葉は、大先輩からのエールであり、心のプレゼントだと思っています。



じつは昨日、互助会保証(株)の藤島社長がわが社に来社されました。
藤島社長は経産省のOBで、パナマ大使も務められた方です。
さらには、総合商社の双日の副社長も歴任されています。
それほどの方が、「互助会業界ほど素晴らしい業界はない」と断言されました。
それを聞いて、わたしは心強く思うとともに、とても感激しました。
ところが、藤島社長の見方はその先がありました。たしかに、あと5年は業界はさらに発展します。けれども、5年後にはピークを迎え、大転換期に入るというのです。
5年後といえば、ちょうどわが社の創立50周年の年です。
5年後、業界で生き残り、さらなる発展を続けたいものです。


尊敬する福地先輩と



論語』には、「五十にして天命を知る」とあります。ぜひ、50周年のときには「ミッション」という天命を知る「ミッショナリー・カンパニー」を目指したいものです。
「ビジョナリー・カンパニー」から「ミッショナリー・カンパニー」へ・・・・・。
わが社は、その天命を果たし、「天下布礼」を実現したいと願っています。そして、そのためには「相乗効果で人を豊かな心に導く」ような想いと儀式が求められます。
福地先輩のお言葉通り、これからも「こころ」と「かたち」を大切にしたいと思います。
福地先輩、素晴らしいメッセージをありがとうございました。


2012年6月20日 一条真也