「異界百物語」

一条真也です。

11日の午後、ネットで非常に興味深い動画を観ました。
このブログを毎日読んでいる長女が、「パパは最近、幽霊や怪談のことを調べているみたいだね。ネットでこんなのを見つけたよ」とメールで教えてくれたのです。
いつもの「YouTube」ではなく、中国の動画共有サイト「YouKu」の動画でした。


異界百物語〜Jホラーの秘密を探る〜」より


NHKのBSハイビジョン特集フロンティア「異界百物語〜Jホラーの秘密を探る〜」という番組でした。2008年4月24日の夜に放映されたそうですが、2年間もの歳月を経て制作されたというだけあって非常に凝った作りで、見応えのある内容でした。
ブログ『なぜ怪談は百年ごとに流行るのか』で紹介した本とも関係の深い内容でした。
NHKオンラインHP「異界百物語 国際版〜Jホラーの秘密を探る〜」には、次のような内容紹介があります。
「呪いのビデオ、家に棲みついた霊、水道から溢れる髪の毛・・・・・。
ここ数年、日本のホラー映画=Jホラーの恐怖が世界を駆け巡っている。
きっかけは『リング』のリメイク作品。世界で100億円を超える興行収入を上げた。
さらに、オリジナルを撮った日本人監督を起用した『呪怨』ハリウッド版も大ヒット、ブームを決定付けた。Jホラーはなぜ世界を魅了するのか?
その秘密を解明しようと、アメリカの映画関係者や研究者は分析を続ける。
背景には、『理屈を超えた怪異』『不滅の怨霊』『湿気の中の恐怖』など、日本人独特の文化があると指摘する。日本人は古代から異界を語ってきた。夜、ロウソクの火を囲んで幽霊の話を語り、怪談を書き残し、次世代へ伝えてきた。
そして、異界を題材にした能や歌舞伎の作品が創作され、妖怪や幽霊が描かれ、怪談映画や漫画、そして、Jホラーが生み出されたのである。
『異界百物語』は、Jホラーが西洋の観客をひきつける要因を取材、その背後に広がる日本の異界を描き出し、日本人が千年以上に渡って引き継いできた素晴らしい文化を、百物語スタイルで伝えていく知的エンターテインメントだ」



108分にわたる映像でしたが、わたしは夢中になって一気に観ました。
「リング」呪怨」をはじめとして、ハリウッドを魅了したジャパニーズホラーの原点を探り、日本文化の底流を流れる異界の魅力に迫っています。
番組内では、ラフカディオ・ハーン小泉八雲)と節子の夫妻も再現ドラマに登場します。
そこで、ハーンが「日本では人間の世界と死者の世界は共存していた。日本人は皆、霊的な世界を信じている」と語った言葉が印象的でした。
また、この番組にはハーンが最も好きだった怪談である「飴屋の幽霊」が映像化されており、興味深かったです。死んだ母親の幽霊が、飴で赤ん坊を墓場で育てるこの物語は、まさに「グリーフケアとしての怪談」そのものだと感じました。



歌舞伎・能・小説・浮世絵・・・・・日本人が千年以上育ててきた独特の文化がふんだんに紹介されており、大変興味深かったです。そして、「死者との交流」こそが日本文化の核心ではないかという気さえしてきます。いや、おそらく日本だけではなく、人類の文化そのものが「死者との交流」に根ざしているのだと思います。
なにしろ、葬儀という行為から人類の文化は始まったのですから。



この番組には、映画監督の清水祟・高橋洋落合正幸中田秀夫・鶴田法男の各氏、作家の瀬戸内寂聴京極夏彦の各氏、民俗学者小松和彦氏などが次々に登場し、日本文化における「死者との交流」について語ります。また、三遊亭円朝の「怪談乳房榎」を桂歌丸が披露し、竹中直人氏が陰陽師安倍晴明を演じるという豪華版です。
さらには、三大怪談映画として「雨月物語」「地獄」「怪談」という国際的にも高い評価を受けた日本映画も紹介されています。じつに盛りだくさんの贅沢な内容で、嬉しくなってしまいますね。これは、もう単なる映画のドキュメンタリー番組などというより、映像による優れた日本文化論であると言えるでしょう。


それにしても、お盆を前にして、この動画を観ることができて良かったです。
構想中の新作『唯葬論』(仮題)のイメージも膨らんできました。
父親の仕事を少しでもサポートしたいと気を遣ってくれる長女に感謝です。
またNHKへのお願いですが、ぜひこの素晴らしい番組を再放送、オンデマンド、DVD発売のいずれかで多くの日本人が観賞できるようにしていただきたいです。


2012年8月11日 一条真也