商工会議所講演

一条真也です。

昨日、福岡県の大川商工会議所の講演会に招かれ、講師を務めました。
青年部の有志が中心となって企画されたものですが、大川市のみならず、佐賀市鳥栖市久留米市柳川市など、近隣の商工会議所のみなさんも参加されました。
じつに、100名におよぶ多くの方々が大会議場を埋め尽くしました。


                 大勢の方々が集まってくれました


若い経営者の方が多かったので、わたしは以下のような話をしました。
2001年10月に冠婚葬祭会社の社長に就任して以来、経営学ピーター・ドラッカーの全著作を精読し、ドラッカー理論のもとに会社を経営していると自負している。
彼の遺作にして最高傑作である『ネクスト・ソサエティ』(ダイヤモンド社)に感動し、これを私個人に対するドラッカーからの問題提起ととらえ、『ハートフル・ソサエティ』(三五館)というアンサーブックを上梓したくらい彼をリスペクトしている。
また、40歳を直前にして「不惑」たらんとし、その出典である『論語』を40回読んだ。
古今東西の人物のなかでもっとも尊敬する孔子が開いた儒教の「礼」の精神を重んじ、「礼経一致」をもって会社経営にあたっている。


               ハートフル・マネジメントについて話しました


講演のテーマは「ハートフル・マネジメント」でしたので、『孔子とドラッカー』(三五館)の内容をベースに、以下のような話をしました。
「マネジメント」という考え方は、ドラッカーが発明したものとされている。
ドラッカーの大著『マネジメント』(ダイヤモンド社)によれば、まず、マネジメントとは、人に関わるものである。その機能は、人が共同して成果をあげることを可能とし、強みを発揮させ、弱みを無意味なものにすることである。これが組織の目的だ。
また、マネジメントとは、ニーズと機会の変化に応じて、組織とそこに働く者を成長させるべきものである。組織はすべて学習と教育の機関である。あらゆる階層において、自己啓発と訓練と啓発の仕組みを確立しなければならない。
このように、マネジメントとは一般に誤解されているような単なる管理手法などではなく、徹底的に人間に関わってゆく人間臭い営みなのである。


                  孔子からのメッセージを伝えました


今から約2500年前、中国に人類史上最大の人間通が生まれた。
言わずと知れた孔子である。孔子は、「人の道」としての儒教を開いた。
ドラッカーが数多くの経営コンセプトを生んだように、孔子は「仁」「義」「礼」「智」「忠」「信」「孝」「悌」といった人間の心にまつわるコンセプト群の偉大な編集者であった。
孔子の言行録である『論語』は東洋における最大のロングセラーとして多くの人々に愛読された。特に西洋最大のロングセラー『聖書』を欧米のリーダーたちが心の支えとしてきたように、日本をはじめとする東アジア諸国の指導者たちは『論語』を座右の書として繰り返し読み、現実上のさまざまな問題に対処してきたのだ。



そして、孔子ドラッカーの両者の思想における共通点を説明しながら、「会社は社会のもの」「人が主役」「人はかならず心で動く」ことを訴えました。
90分の講演を終えると、質疑応答の時間になり、2つの質問を受けました。
じつは、講演の中で、わが社はかつて270億円を超える借金に苦しんでいたが、孔子ドラッカーに基づく経営を実践したところ、完済することができたと話しました。
みなさん、そのことに驚かれたようで、質問もそこに集中しました。


                      1人目の質問


1人目の質問者は、「膨大な借金を返済した具体的な方法を教えてほしい」と言われました。わたしは、経営戦略としての「選択と集中」を最初にあげました。企業は、限られたヒト、モノ、カネを有効に活用するために事業分野の「選択と集中」を行います。
「選択」とは、今後の自社の方向性を決めたうえで注力したい事業を選び出し、それ以外を縮小もしくは売却、外部委託(アウトソーシング)することです。また「集中」とは、選び出したコア(中核)となるビジネスに自社の持つ経営資源を集中的に投入することです。
わたしが社長に就任した際、最初に実行した経営戦略がこの「選択と集中」でした。本業である冠婚葬祭の事業エリアは北海道の富良野から東京、沖縄の石垣島まで日本全国にまで及んでいましたが、それをシェアが1位の地域だけ残して、残りは撤退しました。
多岐にわたる関連事業についても同様です。そのため、わが社の財務内容は急速に改善され、残した事業の業績もすべて向上したのです。



次に、わたしは「経営理念」の重要性をあげました。
日本の企業は「基本理念」が苦手であると言われますが、「経営の神様」と呼ばれた松下幸之助は「経営理念」を何よりも重んじました。
松下幸之助によれば、それまでの自分の経験から、経営理念さえ確立できれば、まず50点で半分成功がおぼつくといいます。
そして、会社や組織を構成する一人ひとりの個性、発想というものを最大限に生かすことができれば、これはしめたもので80点。
80%成功しているなら、あとの戦略・戦術で20点とれば満点です。しかし、戦略・戦術だけで成功しようとすることは、20点の配点しかないのに100点取ろうとするようなもので、当然うまくはいかないというのです。
経営理念は言葉で表現しなければなりません。
わたしは、社長就任と同時に「S2M」を発表して、毎日全社員で唱和しました。
また、わが社の大ミッションを「人間尊重」、小ミッションを「冠婚葬祭を通じて良い人間関係づくりのお手伝いをする」と定め、ことあるごとに社員のみなさんに訴えたのです。


                      2人目の質問


2人目の質問者は、「社長として業績を回復して膨大な借金を完済されたと聞いて驚いている。その上、たくさんの本も書き、大学の教壇にも立っているが、どういう考えで生きているのか。マイ・クレドのようなものを教えてほしい」と言われました。
これは、正直言って、嬉しい質問でした。「クレド」とは「信条」ということですね。
まず、わたしの信条は、わが社のミッションである「人間尊重」である。社長である以上、会社の理念と違う信条を抱くということはありえません。
そして、「人間尊重」とは「礼」ということ。
わたしは、人間尊重思想を世に広める「天下布礼」をめざしていると述べました。


                  「天下布礼」について説明しました


経営者として冠婚葬祭のサービスをお客様に提供することも、本を執筆することも、日本人でありながら中国人に『論語』の授業をすることも、隣人祭りを開くことも、すべては「人間尊重」という考えを広め、心ゆたかな社会づくりのお手伝いをしたいからです。
最後に、「というわけで、わたしのマイ・クレドは『天下布礼』であります!」と大きな声で述べたところ、ありがたいことに盛大な拍手をいただきました。


                     謝辞を受けました

              「木の気持ち」のバームクーヘンを贈られました 


質疑応答が終了すると、主催者から丁重な謝辞を頂戴し、記念品として大川名物のバームクーヘン「木の気持ち」をプレゼントされました。
イグサ入りのバームクーヘンが本物の木の中に入った商品です。
大川は日本を代表する家具の生産地として有名ですが、近年は中国やタイ・ベトナムをはじめとしたアジア諸国の前に苦戦を強いられています。でも、大川商工会議所の若い方々は、なんとか地元の経済を活性化しようと頑張っておられます。
青年部の原口伸也会長は、ニッカという会社の専務さんですが、ドラッカーの勉強会に参加して『マネジメント』を読み、楽天SHOP、YAHOOオークションショップなどで家具を販売されています。現状に絶望することなく、希望をもって前向きに努力する姿勢が素晴らしいですね。天は必ず、そういう経営者を応援すると思います。
元気一杯の若い経営者の方々にお会いできて、わたしも心にエネルギーを貰いました。
みなさん、いつか、またお会いしましょう!


                    ハートフル・マネジメント


2010年11月23日 一条真也