義を見てせざるは・・・

一条真也です。

ヤフー・ニュースに、「電車内で中国人男性殴られ、頭の骨折る大けが」という記事が出ていました。読売が配信した記事とのことで、「読売新聞」の朝刊・夕刊ともに開いてみましたが、九州版ではどこにも見当たりませんでした。


                  「YOMIURI ONLINE」より


記事によると、昨日午後11時40分頃、愛知県安城市名古屋鉄道西尾線の電車内で暴行事件が発生したとの通報がありました。車内で男が男性に暴行を加えているのを目撃した他の乗客が110番したのです。県警安城署員が駆けつけ、30日未明に同市の桜井駅で降りた男を発見し、傷害容疑で緊急逮捕しました。
警察の発表によると、男は職業不詳の42歳の男性で、中国籍の会社員である賈杰宏(かけっこう)さん(41)の顔を数回殴るなどの暴行を加えてけがを負わせたといいます。
賈さんは病院に運ばれたが頭の骨を折る大けがでした。容疑者は調べに対し、「電車には乗ったが、殴ってはいない」と容疑を否認しているそうです。



容疑者は泥酔しており、同じ車内に居合わせた同県西尾市の大学生の女性(20)にしつこく声をかけていたそうです。それを見かねた賈さんが注意をしました。
すると、容疑者は逆上して殴りかかったというのです。
まったく、言語同断というか、とんでもない話です!
わたしは、ブログ「孔子の思想」で紹介したように、大学の授業で「義」について話したことを思い出しました。「義」とは正義のことです。
論語』為政篇には、「義を見てせざるは勇なきなり」という言葉が出てきます。
ここで、孔子は「勇」を「正義を実行すること」の意味で使っています。


                 「義」について授業で語りました


今回の事件から、わたしは「サンダーバード事件」を連想しました。
ブログ「サンダーバード」にも書きましたが、2006年、JR北陸線の富山発大阪行きの特急サンダーバードの車内で、当時21歳の女性を乱暴した男が逮捕されました。
当時36歳だった犯人は女性客の隣に座って「声を出すな、殺すぞ」などと脅して体を触り、さらに女性をトイレに連れ込んで暴行したのです。 
当時、泣きながら連れて行かれる女性の異変に気づいた客もいましたが、犯人が「何を見とるんじゃ」などとすごんだために、何もできなかったといいます。しかし、犯行が行われた当時、40人ほどの乗客が乗車していたのです。
自ら犯人に注意しなくても、せめて車掌を呼んだり、携帯電話で警察に通報するなどの行為はできたはずです。なぜ、それができなかったのでしょうか。
サンダーバード車内での蛮行を見て見ぬふりをした彼らは、「勇なき」人々でした。
この事件のことを知ったとき、わたしは「日本人も堕ちたものだ」と思いました。



一方、日本人の中にも「勇」のあった人々もいました。
2008年6月、東京でいわゆる「秋葉原事件」が発生しました。
加藤智大の凶行により、7人が死亡、10人が重軽傷を負いました。多くの人々が事件発生時に被害者の救助に協力し、警視庁は72人に感謝状を贈りました。
救護中に容疑者に刺されて負傷した3人には、警視総監から感謝状が贈られました。
わたしは感謝状を贈られた方々を心から尊敬し、同じ日本人として誇りに思いました。
中には、被害者の救護中に刺されたため命を落とした方もいました。
まったく痛ましい限りですが、この方々は本当の意味で「勇気」のあった人々でした。


            「サンダーバード事件」と「秋葉原事件」をめぐって


秋葉原事件では、わたしは孟子のことも連想しました。
孔子の思想を継承し、発展させた孟子は「性善説」で知られます。
その孟子は、人間誰しも憐れみの心を持っていると述べました。
孟子はいいます。幼い子どもがヨチヨチと井戸に近づいて行くのを見かけたとする。誰でもハッとして、井戸に落ちたらかわいそうだと思う。それは別に、子どもを救った縁でその親と近づきになりたいと思ったためではない。周囲の人にほめてもらうためでもない。また、救わなければ非難されることが怖いためでもない。
してみると、かわいそうだと思う心は、人間誰しも備えているものだ。さらに、悪を恥じ憎む心、譲り合いの心、善悪を判断する心も、人間なら誰にも備わっている。
かわいそうだと思う心は「仁」の芽生えである。悪を恥じ憎む心は「義」の芽生えである。譲り合いの心は「礼」の芽生えである。善悪を判断する心は「智」の芽生えである。人間は生まれながら手足を4本持っているように、この4つの心を備えているのだ。



秋葉原事件で、被害者の救護をした人々も、何かの見返りが欲しいとか、ほめられたいとか、非難されるのが怖いとかの理由で行動したのではないはずです。彼らは、多くの傍観者がいる中、迷うことなく救護に当りました。その偉大な行動を知って、わたしは孟子の「性善説」を思い出すとともに、「日本人も、まだまだ捨てたものじゃない」と思いました。しかし、昨夜、殴られて頭を骨折した賈さんは中国の方です。
賈さんは、容疑者にからまれて嫌がっている若い女性を救おうとしたのでした。日本人のみならず、中国人にも「義を見てせざるは勇なきなり」の精神は生きていたのです!
わたしは、日本人学生と中国人留学生の両方に孔子の思想を教えています。
ですから、今回の事件には深く考えさせられました。



わたしは、変に正義感が強いというか、無鉄砲なところがあって、昔から車内暴力や性的嫌がらせなどに対しては強い口調で注意したり、実力阻止をしたりしてきました。
そのため、ずいぶんと危険な目にも遭ってきました。
特に、地元の北九州にはデンジャラスな人も少なくありませんので・・・・・。
もちろん、わたしも家族や社員のみなさんのことを考えて軽はずみな行動は避けるべきだとは思っていますが、目の前にいる高齢者とか女性とか子どもが危なかった場合は、やはり体を張って守るべきだと思います。
社員のみなさんにも、いつも「けっして傍観者にならずに、目の前に困っている人がいたら、ぜひ助けてあげてください」とお願いしています。そのような勇気ある行動を取られた社員には、警察から表彰される前に、社長のわたしが表彰させていただきます。
わが社の経営理念である「S2M」には、「サポート・トゥー・モラル〜倫理・道徳実践の支援」が入っています。社会で生きている以上、わたしたちは「義を見てせざるは勇なきなり」という人の道を絶対に忘れてはならないと思います。
わたしは、賈杰宏さんの勇気ある行動に深く敬意を表します。
それとともに、1日も早いご回復を心よりお祈りいたします。
それから、賈さんが勤務しておられる会社の社長さんにお願いがございます。
ぜひ素晴らしい社員がおられることを誇りにされて下さい。そして、社内表彰などを検討されるとともに、さまざまな形で賈さんの治療をサポートしていただきたいと思います。


    世も末とはかなむ前に心せよ 義を見てせざるは勇なきなりと  (庸軒)



2011年6月30日 一条真也