北朝鮮と「天声人語」

一条真也です。

東京に来ています。
昨日は全互連の理事会、今日は全互協の理事会が開催されるのです。
さて、昨日はサッカーの日本代表が22年ぶりに平壌北朝鮮と相まみえましたね。


             


わたしも全互連の理事会終了後、途中からテレビ観戦しましたが、「完全アウェー」とは言っても意外と北朝鮮サポーターは礼儀正しい印象を受けました。
ところが、夜のニュースで「日の丸」の演奏中の大ブーイングなどの場面を見て、「ああ、やっぱり北朝鮮だなあ」と納得しました。



相手国の国家演奏を妨害するなどとんでもない「非礼」「無礼」「失礼」であり、スポーツマンシップの欠片もない行為ですが、「北朝鮮だから仕方ないか」と思った人が多かったのではないでしょうか。わたしも、その1人でした。
もちろん腹は立ちますが、ある意味では想定内の出来事でした。
あれだけのマスゲームを繰り広げ、組織立った応援を成立させるだけの力が将軍様にはまだ残っているようですが、競技場の外はどうなっているかわかりませんね。
それにしても、日本から行った150人のサポーターは勇気のある人々でした。


わたしは、今朝の「朝日新聞」がどのような報道やコメントをしているかに興味があり、同紙を開いてみました。目立った記事や論説はありませんでしたが、「天声人語」の内容に目が止まりました。その全文を読みたい方は、こちらをクリックして下さい
「満員の金日成競技場は、赤くうねる人民の海。日本から駆けつけた150人の青い小船は、凍えたように動かない」
この一文は見事だと思いました。コラムが文学になっています。
そして、次のようにも書かれていました。
「選ばれし民が暮らす平壌でも、観戦できるのは特権階級と聞く。観衆が大写しになるたび、ある女性の面影がよぎった。少女期までの写真はいくつも見た。長じて後は、優しい微笑みしか知らない。47歳の顔は風雪の跡をとどめ、愁いに包まれていようか」
これを読んで、わたしは昨日が横田めぐみさんが北朝鮮に拉致された日だったことを知りました。あれから、もう34年も経ったのです。それにしても、めぐみさんが拉致された日に日本代表が平壌で戦うとは、なんという奇遇!
「観戦ツアーの日本人が味わった短い不自由の、何万倍もの孤独と疎外。国交がなく、政府間で話ができない国はそれほど遠いのに、2時間もの生中継はこんなに近い。拉致被害者のご家族は、歯がゆく見ただろう」
そして、最後に以下の一文で「天声人語」は結ばれていました。
「北国から、平年より遅い初雪の便りが続いている。同じシベリア気団に覆われる平壌の冬はひときわ厳しいそうだ。せめて、暖かい高層アパートの一室にいるその人を想像したい。遠いご両親を思う姿を」
わたしも新聞や雑誌などにコラムを書いていますが、今日の「天声人語」の完成度の高さには感銘を受けました。これを書いた人の筆力はただごとではありません。
朝日新聞といえば、2002年に北朝鮮拉致問題を認めた際、朝鮮半島の植民地支配を踏まえ拉致問題は棚上げし、日朝国交正常化を進めるよう政治部長名で提言したこともありました。昨日の北朝鮮サポーターの振る舞いについて少しでも擁護などしていたら、もう二度と朝日は読まず、広告も一切出さない覚悟で今朝の同紙を開きました。
表だった北朝鮮への批判はなく「スルー」した感もありますが、それを補って余りあるほど今日の「天声人語」は素晴らしかったと思いました。
いつの日か必ず、横田めぐみさんが元気な姿で帰国されることを信じています。


2011年11月16日 一条真也