マーケティングとは

一条真也です。
金沢に来ています。寒いです。
今日は、北陸大学で今年最後の「ドラッカー研究」の講義をしました。
第1回目は、「ドラッカーとは」と題して、ピーター・ドラッカーの生涯と思想を全体的に振り返ってみました。第2回目は「マネジメントとは」の講義です。
そして、今回は「マーケティングとは」の講義でした。
今日も、200名以上の学生たちが大教室に集まりました。


今日も、200名以上が受講しました



ドラッカーは、企業の2つの基本的機能として、マーケティングイノベーションを定めました。また、「顧客の創造」としてのマーケティングと「価値の創造」としてのイノベーションを、マネジメントに不可欠の2つの要素と位置づけてもいます。
今日は、マーケティングについて、学生たちと一緒に考えてみました。


「顧客の創造」としてのマーケティングを語りました



ドラッカーいわく、マーケティングとは「顧客の創造」である。
では、顧客とはいったい誰でしょうか。
ドラッカーは、『マネジメント』(ダイヤモンド社)において次のように述べています。
「顧客は誰かの問いこそ、企業の目的と使命を定義するうえで、最初に考えるべき最も重要な問いである。やさしい問いではない。まして答えのわかりきった問いではない。だが、この問いに対する答えによって、企業が自らをどう定義するかが決まってくる。」(上田惇生訳)
顧客とは、企業にとっては製品やサービスを買ってくれる消費者であり、病院にとっては患者であり、大学にとっては学生です。


「顧客とは誰か」について話しました



ここに、顧客となるべきでありながら顧客になっていない人々が存在します。
しかも、その存在はきわめて重要だと言えます。
すなわち、「ノンカスタマー」と呼ばれる人々がそれで、この概念およびその重要性を明らかにしたのもドラッカーです。
ドラッカーは、変化はノンカスタマーから起こるため、彼らに注意しなかったために衰退していく業種や企業は実に多いと述べています。
彼らへの関心が事業の明日を決すると言ってもよいくらいであると言うのです。
デパートは自身の顧客については十分なデータを持っていました。しかし、そのデータだけでは見えざる多くの消費者たちを満足させることはできませんでした。
たとえば、デパートの営業時間中に買い物に行くことのできない働く女性たちというノンカスタマーを満足させることはできなかったのです。
そして、気づいたときにはもう遅かったのでした。



ドラッカーいわく、マーケティングは顧客からスタートします。すなわち顧客の現実、欲求、価値からスタートするのです。「われわれは何を売りたいか」ではなく、「顧客は何を買いたいか」と問うことが重要なのです。
顧客を満足させることこそ、会社の使命であり、目的です。そして、自社が何の会社であるかを明らかにできるのは顧客のみです。自社がどのような顧客の欲求に対応し、どのような顧客満足に貢献しようとしているのかによって定められるのです。


顧客は何を買っているのか



たとえば、自動車について考えてみます。
最近、100年の歴史を持ちながら破綻したGMは、ドラッカーがそのマネジメント理論を打ち立てる上で深く関わった世界最大の自動車メーカーでした。
GMのシンボルとなる車はキャデラックですが、ドラッカーは『現代の経営』(ダイヤモンド社)で次のように述べています。
「キャデラックを買う者は、交通手段を買っているのか、富のシンボルを買っているのか。
キャデラックは、シボレーやフォードと競争しているのか、ダイヤモンドやミンクのコートと競争しているのか。」(上田惇生訳)
また、化粧品について考えてみますと、かのレブロンを名だたる巨大企業に育てあげた天才的経営者チャールズ・レブソンは、「工場では化粧品を作る。店舗では希望を売る」との名言を残しました。なるほど、女性が化粧品を買うとき、じつは希望を買っているわけです。非常に納得できる考え方ですね。


マーケティング・ミックスについても説明しました



このような考え方は、セオドア・レビットやフィリップ・コトラーといったマーケティング界の巨人たちも共有しています。
化粧品を購入する女性は、本当は「希望」を買っている。この事実は非常に大きな示唆を与えてくれます。同じように考えていけば、消費者が本当に買っているものと、企業が売っていると思いこんでいるものとの間にはズレがあることに気づきます。
歯ブラシを購入する人が本当に欲しいものは「健康な歯」です。洗剤の購入者が本当に欲しいのは「清潔な衣料」です。ドリルを買う人が欲しいのは「穴」です。CDやDVDを買う人は丸い銀板が欲しいわけではなく、音楽や映像、つまりエンターテインメント娯楽を求めているのです。



「当たり前のことではないか」と思うかもしれませんが、意外と企業やその経営者が「自分はこれを売っている」と思い込んでいるものと、実際に顧客が求めているものは違っていることが多いのです。
そのために、ろくに穴が開かないのにデザインだけは費用をかけたドリル、洗浄力が弱いくせに色のきれいな洗剤のようなピント外れの製品が市場に出されることになります。
今日は、そんなことを中心に、マーケティングについて学生たちに語りました。
将来、彼らが企業に入ったとき、今日の授業内容を思い出してくれれば嬉しいです。


2011年12月14日 一条真也