冠婚葬祭業からの挑戦

一条真也です。

「I.B」の2012年新春特別号が送られてきました。
福岡に本社を置く(株)データマックスが発行する企業情報誌です。
わたしのインタビュー記事が4ページにわたって掲載されています。
インタビューのタイトルは、「『有縁社会』の旗手たらん 冠婚葬祭業からの挑戦」。
聞き手は、同社の北九州山口統括本部長である浜崎裕治氏でした。


「I.B」2012年新春特別号



記事の冒頭には、「街のあちこちで見かける『紫雲閣』の建物。運営するのは、北九州市に本社を構えて冠婚葬祭業を営む(株)サンレーだ。東日本大震災を契機に人や家族の『絆』が見直されつつある昨今、作家『一条真也』としても知られる同社代表取締役佐久間庸和(さくまつねかず)氏にお話をうかがった」と書かれています。
そして、最近のわが社の取り組みに対するわたしの発言が紹介されています。



さまざまなテーマについてお話しましたが、特に「葬儀業界はグリーフケアの時代へ」ということを強調しました。以下に、インタビューの一部を紹介いたします。
――震災を機に、ご葬儀の必要性も再認識されたようですが、産業としての葬儀業界をどのようにとらえていらっしゃいますか。
「今が“過渡期”であることは間違いありません。これまでの葬儀業界は、ハード重視の『箱物産業』のような傾向がありました。しかし、全国の至るところに葬祭会館ができてしまった今、これまでのように次々と葬祭会館をつくるのは難しいでしょう。
また、それ以上に業界が制度疲労を起こしているとも考えています」
――制度疲労とは。
「ご存知のように、葬儀業界のメジャーと言えば冠婚葬祭互助会ですが、互助会の原点は戦後の焼け野原にありました。すべてが失われたなかで親の葬式があげられるかという不安や、あるいは家族を亡くした方々の心のケアが互助会の原点だったのです。
しかし、“箱物重視”のなかで、業界はその原点を見失いかけていたのではないでしょうか。たしかに、葬儀においてもハードとソフトの両面が必要です。ハード面の葬儀場に偏りすぎたこれまでを振り返り、制度疲労を修復して初期設定に帰すには、ソフト面である心のケアを重視した互助会制度の原点に帰る必要があるのです」
――残された方の心のケアに対する、御社の対応をお聞かせください。
「死は万人に平等にやってくるものですし、どのような死に方をしても家族は悲しいものです。悲しみにくれる家族の心をケアするため、私たちサンレーは、人材教育に力を入れてきました。たとえば、一級葬祭ディレクターの有資格者を全国トップクラスの約200名抱えています。加えて、今年は『上級心理カウンセラー』に社員3名が合格しました」
――より専門的な資格ですね。
「高度なカウンセリングスキルが、このような時代には求められます。私は3年以内に100名の上級心理カウンセラーを社内に置きたいと考えています。すべての企業のなかで、日本一多くの上級心理カウンセラーを抱えた企業になること、それが心のお世話をしていくサンレーには必要だと考えたからです。
実は、先日『人は死なない』を書かれた東大医学部附属病院・集中治療部部長の矢作直樹先生が、私の著書『愛する人を亡くした人へ』を東大病院の先生方に配っているとのお話をいただきました。先生方も、患者への末期宣告や遺族に声をかけることの難しさに悩んでおられるそうです。
残された方の心の傷を癒すことを、専門的には『グリーフケア』と言いますが、東大病院の先生方が同じ悩みに取り組んでおられることに感動しましたし、医療界や宗教界を含めて、今後、最も重要なテーマになることを改めて確信しました」


「I.B」の2012年新春特別号



そして、ブログ「全互協・賀詞交歓会」ブログ「全互連・賀詞交歓会」に書いた先日の業界の会合において同業者の方々から質問攻めにされた「隣人館」事業についても、そのフィロソフィー、コンセプト、システムを説明しました。それは、「介護事業に大きな需要を見出しているのですね」という質問から以下のようにスタートしました。
「大きな需要があることは間違いありません。ただ、前原大臣も社会保障の削減問題を言われているように、日本のお年寄りはどうなるのかという不安もあります。独居老人の大半は、身寄りのない“孤独死予備軍”です。幸せな老後を送ってもらうためには、老人介護施設が欠かせませんが、これまでは2つの大きな問題がありました。
1つは、民間の介護施設は費用が高額で、限られた人しか入居できないという問題です。もう1つは、公的な老人介護施設は低額な費用で済みますが、数が少なくて何年も入居を待たされるという問題です。
“ホスピタリティ・カンパニー”として、我々がどのようなサービスを提供できるかと考えたとき、新しいタイプの老人介護事業に進出することを決意しました」
――2つの問題を解決できるのでしょうか。
「解決するためには、民間の安い施設を大量につくる必要があります。費用の点ですが、2012年3月に飯塚市で1号館がスタートする『隣人館』では、住居費・食費・光熱費・雑費のすべてを含めて7万8,000円しかかかりませんし、いずれは6万円台にしたいと思っています。全国一安い価格設定は、『公的年金の範囲内ですべて賄う』という制度設計によるものです。量の面でも、ワンユニット16名、個室1部屋あたり18㎡の建物を、3年をメドにして、全国100カ所に展開していきたいですね」
――広いスペースや費用を考えると、本当に可能なのかとさえ思えますが。
「実は、私どものような冠婚葬祭互助会は、葬祭会館用に確保しながら遊休地にしている土地を多く所有していますし、互助会メンバーとして入居対象となる高齢者の会員様を多数抱えています。そこに伊藤忠商事の協力を得たことで、これだけの低価格と量を確保できたわけです。つまり、我々にしかできない制度設計であり、今後の日本を良くするために、我々こそがやらなくてはならない事業だと考えています」



最後に、「今後の意気込み」について質問を受け、わたしは次のように述べました。
「結婚式にしても葬儀にしても、皆に対する『ありがとう』を伝える場所ですので、私は『ありがとう産業』と呼んでいます。
そこに身を置く我々は、世の中の得(徳)になることを考えること自体が仕事に直接結びついてくるという意味で、とてもありがたい仕事に就いているのだと思います。
今回の震災に見られるように、極限の状況では電力と水、そしてご葬儀が切実な問題として取り上げられました。私は、震災を機に国民が事業仕分けを行ない、ご葬儀の重要性を再認識されたのではないかと感じています。
冠婚葬祭業は“心のインフラ”です。弊社はおかげさまで昨年45周年を迎えましたが、今後はグリーフケアに力を注ぐことで他社との差別化を図りつつ、もう1つはビジネスを超えて人さまのお役に立っていきたいと考えています」
グリーフケアの普及、介護事業のイノベーション、そして「有縁社会」の再生をめざした、冠婚葬祭業からの挑戦に今後ともご期待下さい!


2012年1月21日 一条真也