司法修習生講演

一条真也です。

今日は、17時から松柏園ホテルで講演を行いました。
マイ・ローヤー」こと辰巳先生が、慶應義塾大学ロースクール出身の司法修習生を対象に開かれているプライベートな勉強会である「辰巳塾」での講演です。


辰巳塾で開講挨拶をされる辰巳先生

「ハートフル・マネジメント」について語りました



わたしは、ここ数年、この辰巳塾で、「礼と法について」という講演を行っています。
講演の最後で、わたしは司法修習生の方々に向けて、「法律的には許されても、人間として許されないことがある」と述べます。これは、辰巳先生の信条でもあります。
酒気帯び検査を切り抜けたからといって、飲酒運転は絶対に許されません。
相手が泣き寝入りしようが、セクハラを許してはなりません。
いくら証拠がなくても、ウソを言って人を騙してはなりません。
結局は、法律とは別に「人の道」としての倫理があり、それこそが「礼」なのです。
現実世界における法律の影響力は絶大です。
しかし、大切なのは「礼」と「法」のバランス感覚なのです。
最後は、次の短歌を詠んで若き法曹の徒に贈ります。
「よく学び法を修めし人なれば 礼も修めて鬼に金棒」
しかし、今日は「礼と法について」の話はしませんでした。
その内容を記したブログ「司法修習生への講演」を修習生のみなさんがすでに読んでいるので、他の内容の話をしてほしいとのリクエストがあったのです。
それで、今日は「ハートフル・マネジメント〜孔子ドラッカー」の話をしました。



このたびの孔子文化賞受賞を辰巳先生は大変喜んで下さいました。
5月18日(金)に松柏園ホテルで祝賀会を開いていただく運びになったのですが、その発起人にもなって下さいました。
さらには、辰巳塾の塾生のみなさん用に『世界一わかりやすい「論語」の授業』(PHP文庫)を大量購入して下さったのです。高校の先輩にしてわが社の顧問弁護士である辰巳先生のお心遣いに、ひたすら感謝するばかりです。


孔子ドラッカー」について話しました

みなさん、真剣に聴いて下さいました



講演のテーマは「ハートフル・マネジメント」でしたので、『孔子とドラッカー』(三五館)の内容をベースに、以下のような話をしました。
「マネジメント」という考え方は、ドラッカーが発明したものとされている。
ドラッカーの大著『マネジメント』(ダイヤモンド社)によれば、まず、マネジメントとは、人に関わるものである。その機能は、人が共同して成果をあげることを可能とし、強みを発揮させ、弱みを無意味なものにすることである。これが組織の目的だ。
また、マネジメントとは、ニーズと機会の変化に応じて、組織とそこに働く者を成長させるべきものである。組織はすべて学習と教育の機関である。あらゆる階層において、自己啓発と訓練と啓発の仕組みを確立しなければならない。
このように、マネジメントとは一般に誤解されているような単なる管理手法などではなく、徹底的に人間に関わってゆく人間臭い営みなのである。



2001年10月に冠婚葬祭会社の社長に就任して以来、経営学ピーター・ドラッカーの全著作を精読し、ドラッカー理論のもとに会社を経営していると自負しています。
彼の遺作にして最高傑作『ネクスト・ソサエティ』(ダイヤモンド社)に感動し、同書の内容をわたし個人に対するドラッカーからの問題提起ととらえ、『ハートフル・ソサエティ』(三五館)というアンサーブックを上梓したくらい彼をリスペクトしています。
また、40歳を直前にして「不惑」たらんとし、その出典の『論語』を40回読みました。
古今東西の人物のなかでもっとも尊敬する孔子が開いた儒教の「礼」の精神を重んじ、「礼経一致」をもって会社経営にあたっています。


真剣に聴講する司法修習生のみなさん



今から約2500年前、中国に人類史上最大の人間通が生まれました。
言わずと知れた孔子である。孔子は、「人の道」としての儒教を開きました。
ドラッカーが数多くの経営コンセプトを生んだように、孔子は「仁」「義」「礼」「智」「忠」「信」「孝」「悌」といった人間の心にまつわるコンセプト群の偉大な編集者でした。
孔子の言行録である『論語』は東洋における最大のロングセラーとして多くの人々に愛読されました。特に西洋最大のロングセラー『聖書』を欧米のリーダーたちが心の支えとしてきたように、日本をはじめとする東アジア諸国の指導者たちは『論語』を座右の書として繰り返し読み、現実上のさまざまな問題に対処してきたのです。
そして、孔子ドラッカーの両者の思想における共通点を説明しながら、「会社は社会のもの」「人が主役」「人はかならず心で動く」ことを訴えました。


「事業の定義」について話しました


事前に辰巳先生から「今日は、ぜひドラッカー思考のエッセンスを話してほしい」と言われていました。そこで、ドラッカーにおける「マーケティング」思考について触れたところ、みなさん非常に関心を持たれたようでした。
ドラッカーいわく、マーケティングは顧客からスタートします。
すなわち顧客の現実、欲求、価値からスタートするのです。「われわれは何を売りたいか」ではなく、「顧客は何を買いたいか」と問うことが重要なのです。
顧客を満足させることこそ、会社の使命であり、目的です。そして、自社が何の会社であるかを明らかにできるのは顧客のみです。自社がどのような顧客の欲求に対応し、どのような顧客満足に貢献しようとしているのかによって定められるのです。
たとえば、化粧品について考えてみますと、かのレブロンを名だたる巨大企業に育てあげた天才的経営者チャールズ・レブソンは、「工場では化粧品を作る。店舗では希望を売る」との名言を残しました。なるほど、女性が化粧品を買うとき、じつは希望を買っているわけです。非常に納得できる考え方ですね。


全員に「弁護士は顧客に何を提供しているか」を聞きました

辰巳先生、弁護士さんは何を提供してくれるのですか?!



この「事業の定義」についての考え方は、セオドア・レビットやフィリップ・コトラーといったマーケティング界の巨人たちも共有しています。
化粧品を購入する女性は、本当は「希望」を買っている。この事実は非常に大きな示唆を与えてくれます。同じように考えていけば、消費者が本当に買っているものと、企業が売っていると思いこんでいるものとの間にはズレがあることに気づきます。
歯ブラシを購入する人が本当に欲しいものは「健康な歯」です。洗剤の購入者が本当に欲しいのは「清潔な衣料」です。ドリルを買う人が欲しいのは「穴」です。CDやDVDを買う人は丸い銀板が欲しいわけではなく、音楽や映像、つまりエンターテインメント娯楽を求めているのです。「当たり前のことではないか」と思うかもしれませんが、意外と企業やその経営者が「自分はこれを売っている」と思い込んでいるものと、実際に顧客が求めているものは違っていることが多いのです。
そのために、ろくに穴が開かないのにデザインだけは費用をかけたドリル、洗浄力が弱いくせに色のきれいな洗剤のようなピント外れの製品が市場に出されることになります。



その後、わたしは司法修習生のみなさんに質問しました。
「弁護士がクライアントに提供しているものは何だと思いますか?」と。
その答えは「正義」「安心」「平穏」「日常性の回復」など千差万別でした。将来、みなさんが弁護士や検事になっても、今日の問いと答えを記憶してほしいと思います。
それは、きっとみなさんのプロフェッショナルとしての生き方の基本になると信じます。
最後に、誠に不遜ながら辰巳先生に「弁護士の提供するもの」について意見をお聞きしたところ、先生は「灯りのようなもの」と言われました。うーん、さすがです!


質疑応答もガチンコで受けました

まるで被告人席にいるようでした(ウソ)

記念品のイチゴを贈呈されました



その後、わたしも質疑応答コーナーで「弁護士とは、どのような存在だと思われますか」との質問を受け、「道先案内人のような存在だと思います」とお答えしました。実際、わたしは何度も、顧問弁護士である辰巳先生から正しい道を教えていただきました。
その他にも、質疑応答コーナーでは活発な質問が相次ぎました。
わたしは、これほど質問の波状攻撃に遭った経験はありません。
それも、どれもこれも、わたしの生き方を問うようなガチンコの質問ばかりでした。
もちろん、わたしも正直にガチンコでお答えしました。司法修習生から質問攻めに遭っているさまは、まるで法廷の被告人席にいるようでした。ウソです(笑)。わたしは、こんなに知的好奇心に溢れた方々に囲まれていることに至福に近い喜びを感じました。
また、みなさん全員がハートフル・ブログを愛読されていることを知り、感激しました。
最後に、司法修習生の代表の女性から記念品を贈呈されました。それがイチゴだったので、わたしは思わず「一期(イチゴ)一会ですね」とオヤジギャグをぶちかましましたが、声が小さくて気づかなかったのか誰も反応してくれず、非常にロンリーでした(涙)。


庭園の桜をバックに記念撮影しました

シャンパンで乾杯しました

大いに語り合いました



講演終了後は、みなさんと松柏園の庭で記念撮影しました。
ちょうど桜が咲いていて、きれいでした。
それから、みんなで一緒に会食しました。
辰巳先生の差し入れで美味しいワインを頂きました。
最初に飲んだシャンパンがよく冷えていて、火照った喉に気持ち良かったです。
食事の席でも、議論が盛り上がり、大いに語り合った一夜となりました。


しばし夜桜を眺めました



食事会が終了した後、わたしは酔いを醒ますために庭に出て、ライトアップされた夜桜を見上げました。桜が咲いて、いよいよ春が来ました。
今日で3月も終わりです。そう、明日からは4月です。
わたしは、これまでの慌しい日々を振り返りながら、しばし夜桜を眺めていました。


2012年3月31日 一条真也