礼なき国々

一条真也です。

尖閣諸島魚釣島に自称中国籍の活動家が上陸し、入管難民法違反容疑で男14人が逮捕されました。先日は、日本政府の中止要請を無視して、韓国の李明博大統領が竹島に上陸しました。言うまでもなく尖閣諸島および竹島は、歴史的事実に照らしても、かつ 国際法上も明らかに日本固有の領土です。


朝日新聞」8月16日朝刊



それにしても、平和の祭典であるオリンピックが終わったと思ったら、それと同時に領土問題が深刻化するとは、本当に嫌な世の中です。
サロンの達人」こと佐藤修さんが「竹島問題」というブログ記事で、「土地を私的所有するという発想になじめない私としては、領土問題もまた、なかなか理解できません。すべての土地は、地球からの借り物であり、所有地といえども所有者の勝手にはできないと私は思っています」と書かれていますが、わたしも同感です。
しかし、それはそれとして、他国の領土に勝手に足を踏み入れる行為は許されません。
消費増税法の成立、原発再稼動なども重要な問題かもしれませんが、自国の領土に勝手に上陸されることは一大事です。中国の外務省は、丹羽宇一郎大使を呼び出して「即時の無条件釈放」を要求したといいます。まさに、言語道断です。


逮捕された人々は「法」に反したわけですが、それ以前に「礼」に反しています。
韓国大統領の一連の発言も、明らかに「礼」を欠いています。
ブログ「礼とは何か」にも書いたように、「礼」とは、2500年前の中国の春秋戦国時代において、他国の領土を侵さないという規範として生まれたものだとされています。
その「礼」の思想を強く打ち出した人物こそ孔子です。
そして、逆に「礼」を強く否定した人物こそ秦の始皇帝でした。
それは、始皇帝は自ら他国の領土を侵して中国を統一する野望を抱いていたからです。
彼は『論語』をはじめとする儒教書を焼き払い、多くの儒者を生き埋めにしました。
世に言う「焚書坑儒」です。人類史上に残る愚行とされています。
しかし、始皇帝が築いた秦帝国はわずか14年間しか続きませんでした。
しょせんは「人の道」を踏み外した人間の作った国など、長続きしなかったのです。



残念ながら現代の中国には「礼」のかけらもありません。
それを痛感したのが、2004年のサッカー・アジア杯における日本戦での中国人サポーターたちの態度です。相手国の国歌斉唱時の際にブーイングをしたり、国旗を焼くなどの傍若無人のふるまいは、「非礼」「失礼」「無礼」千万でした。
また、ブログ「非礼にも程がある」に書いたように、2011年9月に韓国・全州で行われたACL準々決勝・全北現代モータースセレッソ大阪戦では、全北サポーターが「日本の大地震をお祝いします」と日本語で書かれた横断幕を掲げ、東日本大震災で被災した日本を侮辱しました。信じられない暴挙と言えるでしょう。


本来、韓国という国は世界で最も儒教が生きている国です。
孔子孟子を生んだ中国などよりも、ずっと儒教思想が根づいています。
つまり、世界で最も「礼」を重んじる国のはずなのに、本当に残念です。
儒教は中国で生まれ、朝鮮半島を経て、日本へと伝わりました。
現在、わたしは大学の客員教授として「孔子研究」の授業を担当しています。
大勢の学生の中には、中国や韓国からの留学生もたくさんいます。日本人のわたしが、中国人や韓国人である彼らに「礼」を説いているわけです。そのことの意義の重大さを改めて痛感しました。わたしが教えた留学生たちが、中国や韓国に帰って「礼」の思想を広めてくれる。これこそ、「天下布礼」そのものであると思っています。


金澤小蘭「天下布礼



ブログ『2022年――これから10年、活躍できる人の条件』で紹介した本の中で、著者の神田昌典氏は日本・韓国・中国を含めた東アジア全体が、これから10年は大きく成長していくと訴えました。神田氏は、東アジアの国々には「儒教国」という共通点があるとして、次のように述べています。
儒教とは、キリストに先立つこと500年前に生まれた、孔子を始祖とする思想体系。
儒教には四大書籍があるが、孔子の言葉を集めた『論語』は最も知られている。
この論語を生活の規範として、共通に持っている国々が東アジア地域に集まっている。
マクロヒストリーを専門とするローレンス・トーブ氏は著書『3つの原理』(邦訳・ダイヤモンド社)で、この儒教を共通に持つ東アジアの国々が、儒教経済圏を形成し、21世紀前半における世界のリーダーになるだろうと予想している。この儒教経済圏は、日本、中国、朝鮮で構成される。『中国』には、中国、台湾、香港、マカオ、『朝鮮』は韓国と北朝鮮を含むと定義されている。これらの国々は、仲が悪いように見えて、実は、世界から見れば、似たもの同士。文化的にも人種的にも思想的にも、ほとんど区別できない」



ローレンス・トーブの『3つの原理』は、わたしも読みました。
著者が監修をした本ですが、「儒教経済圏」という考え方が非常に新鮮でした。
たしか、この本は内田樹氏も注目していましたね。
さて、著者は「儒教経済圏」について次のように述べています。
「この儒教経済圏が求心力となり、東南アジア諸国を含めた市場が拡大していくから、おそらく2025年頃、遅くとも2033年頃までには、EUと似たような経済圏を、実質的に形成していくだろう。私は、この経済圏を、アジア・ユニティ(AU)と呼んでいる。総人口は20億人を超える。しかも世界で最も成長率が高い国々が連携をとるわけだから、おそらく、その時点で世界は、アジアを中心に再編成されると言ってもいい。なんといってもEUの人口は約5億人。アメリカは3億人しかいないのだから」
たしかにAUが成立して力を持てば、その人口数や経済成長性からいっても世界最大の勢力となるでしょう。そして、その根底には儒教があり、孔子がいて、『論語』がある。
ローレンス・トーブゆずりの神田氏のこの予言には、わたしは全面的に賛成でした。
しかし、ここ最近の国際情勢を見ると、そんなに楽観的にもなれません。


中国人にも韓国人にも「礼」の心があるはず



礼を求めて』(三五館)で、わたしはさまざまな角度から「礼」について書きました。
もともと、中国人や韓国人には「礼」の心があるはずです。しかし、現在の中国や韓国は「礼なき国々」と呼ばれても仕方がありません。それでも、中国人や韓国人の「こころ」に儒教的思想のDNAがあるなら、何とかならないものか。


さらなる「天下布礼」の必要性を感じます



社団法人・世界孔子協会も何らかの役割が果たせないか。
わたしは、いま、そのようなことを考えています。
今年、孔子文化賞を授与された者として、真剣に考えています。
旧約聖書』という同じ啓典を心のよりどころにしながらも、憎み合い、殺し合うようになったユダヤ教キリスト教イスラム教の信徒の歴史を考えると、『論語』を心のよりどころにする中国人・韓国人・日本人が同じ道をたどらないように祈るばかりです。
論語』が再び三国の人々の「こころ」をひとつにしてくれますように・・・・・。
わたしは、さらなる「天下布礼」の必要性を感じています。


2012年8月16日 一条真也