『心眼力』

一条真也です。

『3つの真実』に続いて、野口嘉則さんの『心眼力』を読みました。
古今東西の名著から多くの名言が引用され、たいへん興味深かったです。
わたしも読んで影響を受けた本がほとんどで、年齢だけでなく読書傾向も野口さんと同じことに気づきました。
論語』とか『孟子』とか『菜根譚』などの言葉が紹介されるたびに嬉しくなりました。
読書術についても、歴史上の偉人の伝記を読むとか、著者と対話するという気構えで読むとか、わたしの読書と共通する点が多々ありました。


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さて、タイトルにもなっている「心眼力」ですが、これは見えないものを見る、つまり心の目を開くということです。
松下幸之助は、「経営において一番大事なのは人間観である」との言葉を残しました。
つまり、人間をどのように見るかということを重視したのです。
また、松下幸之助は、どんな社員であっても、「ああ、この人は素晴らしい存在なんや、偉大な力を持った人なんや」という見方をしたそうです。
野口さんは、この見方にならって、夫婦や親子といった家族関係においても、「素晴らしい存在、偉大な力をもった人」と考えることを薦めています。
鏡の法則」とは自分の心の中が現実世界に反映することであり、心の底から相手を認めれば、人間関係は必ず好転するというのです。



わたしも、つねづね、「見えないもの」を見ることの大切さを痛感していました。
なぜなら、ホテル業や冠婚葬祭業といった本業において大きな意味を持つからです。
サン=テグジュぺリの名作『星の王子さま』に一貫して流れているテーマは、「本当に大切なものは目に見えない」というものです。
まさに、サービス業の価値はここにあります。
思いやり、感謝、感動、癒し、夢、希望など、この世には目には見えないけれども存在する大切なものがたくさんある。
逆に本当に大切なものは目に見えない。
そして、その本当に大切なものを売る仕事がサービス業なのですね。
製造業はモノを残す仕事です。建設業は地図に残る仕事です。
ならば、サービス業こそは心に残る仕事に他なりません。
愛用している自動車やパソコン、またビルや橋を見ても、それに関わった人たちの顔は浮かんできません。
でも、サービス業は違います。それは、サービスしてくれた人の顔が浮かんでくる仕事です。お客様の心に自分の顔が浮かんでくる仕事、こんな贅沢なことはありませんね。まさに「こころの仕事」です。
星の王子さま』には、「大切なものは、心で見ない限り、目には見えない」という言葉も出てきます。
見えないものを心で見るとは、どういうことでしょうか?
それは、「感じる」ということです。
「心で見る」とは「感じる」と同じ意味だと思います。
そして、大事なのは、「同感」ではなく「共感」ではないでしょうか。
ホテルや冠婚葬祭に携わるサービススタッフは、「共感」する感性を研ぎすませることでお客様が考えていること、求めていることを瞬時にキャッチできるようになります。
サービススタッフは、お客様とまったく同じ立場にはなれません。
しかし、それぞれの立場を想像し、限りなくその心情に近づいてことはできます。
そして、「共感」とともに「気づき」というものが大事です。
「心で見る」というのは「気づく」ということでもあります。
気づく人というのは、人が困っていたりするのが見えるわけですから、すぐにサポートしてあげることができます。
また、気づく人は人が喜んでいるときにもそれに気づくので、一緒に喜んであげることができます。気づかない人というのはサービススタッフとして失格なのですね。
もともと、「気づき」をはじめ、「気配り」「気働き」「気遣い」という言葉があるように、「サービス」とは「気」に通じます。
わたしは昔から、サービス業とはお客様に元気、陽気、勇気といったプラスの気を提供する「気業」であると言い続けてきました。
ですから、「心眼力」には「共感力」と「気づき力」が欠かせないのです。



それから、本書では「感謝」と「志」の大切さが情熱をもって述べられています。
わたしの著書にも、「感謝」と「志」がよく登場します。
野口さんと初対面を果たした「いのちを考えるゼミ」では、「法則の法則」について話させていただきましたが、最後に、「幸せは親に感謝し 成功は志から これぞ法則」という短歌を詠みました。
またしても後悔です。
当日、「志」についても活発な議論が交わされたのです。
これほど野口さんが「志」のスペシャリストなら、わたしのほうから質問させていただくべきでした。
でも、野口さんも、わたしと同じく吉田松陰から「志」の大切さを学んだことを知り、嬉しくなりました。なんだか、二人とも遅れて生まれてきた松下村塾生であり、志を同じくする「同志」ではないかと思えてきました。
同志から送られた素晴らしい本を2冊も読めて、今日は幸せな一日でした。
野口さん、本当にありがとうございました!


2010年2月25日 一条真也