事業承継フォーラム

一条真也です。

今日は、「事業承継フォーラムin九州」でパネリストを務めました。
主催は日本経済新聞社と独立法人・中小企業基盤整備機構で、後援が経済産業省ニュービジネス協議会でした。
会場はアクロス福岡のイベントホールで、多くの方々が参加して下さいました。
150名の定員だったそうですが、なんと200名を超える方々が集まって下さいました。

                  企業のDNAを未来へ


最初に、オムロンの立石信雄相談役の基調講演がありました。
演題が「理念を基軸とした企業経営」ということで、たいへん勉強になりました。
パネルディスカッションのモデレータは、ソフィアバンク副代表の藤沢久美さん。
ソフィアバンクは、田坂広志さんが代表を務めるシンクタンクですね。映画「ガイア・シンフォニー」シリーズの監督である龍村仁さんも、ソフィアバンクの役員だそうです。

藤沢さんは、とても美しく聡明な方でした。

あと、弁護士や公認会計士の先生などがパネリストで、実際に事業承継を行った当事者としては、英進館株式会社の筒井俊英社長とわたしの二人でした。
英進館さんは九州でナンバーワンの予備校で、わたしの長女も通っていました。
なんでも、英進館さんとわが社が九州で順調に事業承継された代表的会社として選ばれたということで、非常に光栄でした。
40歳で情熱あふれる筒井社長のお話は、まるでドラマか映画みたいな波乱万丈の物語で、とてもエキサイティングでした。

わたしも自身の事業承継についてお話しました。
早いもので創業者である父から社長のバトンを渡されて、もう9年目です。
当初は不安な点も多かったのですが、なんとか今日まで順風満帆にやってこれたことは、会長である父のアドバイス、社員のみなさんの理解と協力、取引会社のみなさん、お客様のご支援のおかげです。心より感謝しています。


             事業承継について、思いのたけを語りました


「事業承継」について、わたしは孔子ドラッカーの考え方を紹介しながら、自分の想いをそのままお伝えしました。まず、孔子は「孝」という考え方を重視しました。
日本における儒教研究の第一人者である大阪大学名誉教授の加地伸行先生によれば、先祖から子孫へ、親から子へ、「孝」というコンセプトは、DNAにも通じる壮大な「生命の連続」ということです。また加地先生によれば、「遺体」という言葉の元来の意味は、死んだ体ではなくて、文字通り「遺した体」であるそうです。つまり本当の遺体とは、自分がこの世に遺していった身体、すなわち子なのです。
儒教を開いた孔子は、明らかにこのことに気づいていたと思います。



一方、ドラッカーには『会社という概念』(『企業とは何か』の題名で新訳が出ています)という初期の名著がありますが、まさにこの「会社」という概念も「生命の連続」に通じます。世界中のエクセレント・カンパニー、ビジョナリー・カンパニー、そしてミッショナリー・カンパニーというものには、いずれも創業者の精神が生きています。
創業者の身体はこの世から消滅しても、志や経営理念という彼らの心は会社の中に綿々と生き続けているのです。



重要なのは、会社とは血液ではなく思想で承継すべきものであるということ!
創業者の精神や考え方をよく学んで理解すれば、血のつながりなどなくても後継者になりえます。むしろ創業者の思想を身にしみて理解し、指導者としての能力を持った人間が後継となったとき、その会社も関係者も最も良い状況を迎えられるのでしょう。
逆に言えば、超一流企業とは創業者の思想をいまも培養して保存に成功しているからこそ、繁栄し続け、名声を得ているのではないでしょうか。
「孝」も「会社」も、人間が本当の意味で死なないために、その心を残す器として発明されたものではなかったかと思います。
ここで、孔子ドラッカーはくっきりと一本の糸でつながってきます。
陽明学者の安岡正篤も、このことに気づいていました。
安岡はドラッカーの“The age of discontinuity”という書物が『断絶の時代』のタイトルで翻訳出版されたとき、「断絶」という訳語はおかしい、本当は「疎隔」と訳すべきであるけれども、強調すれば「断絶」と言っても仕方ないような現代であると述べています。
そして安岡は、その疎隔・断絶とは正反対の連続・統一を表わす文字こそ「孝」であると明言しているのです。
「老」すなわち先輩・長者と、「子」すなわち後進の若い者とが断絶することなく、連続して一つに結ぶ。そこから「孝」という字ができ上がったというのです。




老 + 子 = 孝 




これは、企業繁栄のためには「継続」と「革新」の両方が必要であるといったドラッカーの考え方と完全に一致します。
ベテランと若いスタッフが一緒に協力する。これに尽きるわけですね。
そして何よりも大事なのは、先代の思想を継いで、新しい器に入れるということです。
「なぜ、この会社が生まれたのか」「なぜ、この事業をやるのか」という使命感や志、いわば会社の思想的DNAをうまくつないでいくことが承継の本質ではないでしょうか。
今日のパネルディスカッションでは、事業承継にはM&Aがつきものといった話が出ましたが、わたしもM&Aが必要だと思います。もっとも、わたしのいうM&Aとは「Mission & Ambition」、すなわち「使命感と志」ですが。
持ち株比率とか、そんなことよりも、思想の承継のほうがずっと大切だと思います。


また、「世襲」についてもお話しました。
よく世襲は悪だとか言われますが、承継すべきはその会社の理念を一番良く理解している人なのです。先代と一緒に暮らしてきた子どもが、最も先代の考え方を理解し、承継する確率が非常に高いわけです。親族だから承継したのではなく、企業の理念を一番理解しているのが親族だったから承継する。それが承継の大前提であるべきです。



以上のようなお話をさせていただきました。
時間が足りなくて、はしょった部分もありましたけど。
でも、9年前の社長就任の頃を思い出し、わたし自身がわが社の経営理念を再確認する良い機会となりました。
関係者のみなさん、聴講していただいたみなさん、本当にありがとうございました。



2010年3月8日 一条真也