「ハートカクテル」

一条真也です。

春になると気分が浮かれてきます。
そして、人生で一番浮かれていた学生時代を思い出します。
あの頃の世界は、面白いもの、楽しいもの、感動するもので溢れていました。そんな中に、「ハートカクテル」がありました。わたせせいぞう原作のオールカラー・ショート・コミックです。雑誌「コミック・モーニング」に連載されていました。


                     カラフル&ハートフル


たしか、大学の同級生だった三浦公輝君(現在は、野村證券の福岡支店長)に教えられて、一発ではまった記憶があります。三浦君は仙台出身の伊達男で、オシャレなものや、トレンディなものについての情報に詳しかったのです。「ハートカクテル」は、とにかくオシャレでセンチメンタルな話だらけでした。講談社から出た大型のコミック本も揃えましたが、アニメ化もされて日本テレビで深夜に放映されていました。日本たばこがスポンサーでした。たとえば、「ガラスの靴」という話は、JR東海の一連の「シンデレラ・エキスプレス」の原型となったストーリーです。



わたしが一番好きなのは、「思い出ワンクッション」という話です。ホットな時期の恋人たちが、他愛もないジョークを交わします。
女「もし、もし、仮にヨ、別れちゃった後、町で会ったらどうする?」
男「もちろん知らない顔ですれ違うだけサ。君は?」
女「そうネ。じゃア、私もそうするワ」
ところが、その後、二人は本当に別れてしまい、あるレストランで偶然出会うのです。
さてさて、どうなることでしょう?


いやあ、いい話ですよねぇ。こういう話、大好きですねぇ。
わたしは、1988年に上梓したデビュー作『ハートフルに遊ぶ』(東急エージェンシー)で、「ハートカクテル」について書きました。
そこで、「ハートカクテル」は男のセンチメンタリズムのようなものを描いており、女のセンチメンタリズムを描いている代表はユーミンの曲だと述べています。
ハートカクテル」の作者、わたせせいぞうサンは北九州の出身で、小倉高校から早稲田大学と、わたしの完全な先輩に当たります。故郷である北九州に関係する仕事も多く、現在は門司港に「わたせせいぞうギャラリー」があります。
ハートカクテル」の舞台は、一見するとアメリカの街並みのようですが、よく見ると、北九州を連想させる光景がよく出ていたのを記憶しています。
とにかく、学生時代のわたしは、「ハートカクテル」が好きでした。
ハートカクテル」には多くの「ハート」たちが登場します。そのイメージから、わたしは「ハートフル」というキーワードを思いつき、『ハートフルに遊ぶ』を書いたのでした。
いま、北九州市は「ハートフル・北九州」というコピーを打ち出しています。
わたせサンに憧れていた身としては、なんだか憧れの先輩と自分が「ハート」というキーワードでつながったようで、不思議な気分ですね。


               「ハート」化時代のやわらかな卒論


2010年3月30日 一条真也