『少年探偵』シリーズ

一条真也です。

アマゾンに注文していた、ポプラ文庫クラシックのセットが届きました。
江戸川乱歩 少年探偵』シリーズ全26巻です。
豪華な化粧箱に入っており、中には、懐かしい装丁の本がずらりと並んでいます。
思わず、わたしは「おおっ!」と叫びました。


                日本中の誰もが読んだ大ベストセラー


『原色 聖書物語』のことも書きましたが、子ども時代に読んだ本というのは、その後の人生にも大きな影響を与えるものです。
わたしは、この『少年探偵』シリーズにも多大な影響を受けました。
このシリーズは昭和39年(1964年)から刊行がスタートしています。
わたしが生まれた翌年であり、東京オリンピックの年でもあります。
物心ついた頃の町の書店の児童書コーナーには、このシリーズが不動の位置を占めていました。まさに、日本中の誰もが読んだ大ベストセラーです。
他には、『名探偵ホームズ』や『怪盗ルパン』のシリーズもありました。
でも、この『少年探偵』シリーズは、ひときわ怪奇的かつ猟奇的な香りをプンプン放っていました。そのせいか、『ホームズ』や『ルパン』は小学校の図書室に置いてあっても、『少年探偵』は絶対に置いていませんでした。ですから、それを読むためには、ひたすら小遣いを貯めて、1冊づつ本屋さんで買うしかなかったのです。
一度、小学生の頃に両親と本屋さんに行ったとき、このシリーズを買ってくれとねだったことがありました。すると、父は「こんなものを読んではダメだ!」と言って、取り合ってくれません。でも、母が助け舟を出してくれました。
母いわく、作家の石原慎太郎が「子どもは、怖い本を読みたがる。それは想像力を育てるために必要な読書であり、それを禁じてはならない」という内容の発言をしたとのこと。
母はその石原発言をテレビで観たようですが、それを聞いた父は黙り込みました。
そして、わたしは晴れて『少年探偵』の2冊をゲットしたのでした。
まことに、石原慎太郎都知事閣下のおかげであります!


                   最初に買った2冊


たしか、その2冊は『魔法博士』と『悪魔人形』だったと思います。
2冊とも、表紙画と挿絵が印象的で、わたしは強烈な幻想性を感じました。
その後、たくさん、このシリーズを読みましたが、考えてみると、探偵小説あるいはミステリーというより、怪奇幻想小説といったジャンルだったように思います。
その証拠に、今回の復刻文庫を収めた化粧箱のイラストには、吸血コウモリ、タコのような火星人、少女をさらう有翼怪獣など、もう、これでもかとばかりの怪奇テイストが炸裂しています。各巻のタイトルを見ても、『妖怪博士』『青銅の魔人』『サーカスの怪人』『地底の魔術王』『透明怪人』『宇宙怪人』『灰色の巨人』『夜光人間』『仮面の恐怖王』『黄金の怪獣』などなど、オドロオドロしいこと、この上なし!
また、各巻の表紙画と挿絵も同様で、これらの絵をながめているだけで、いくらでも御飯が食べられるじゃなくて、いくらでも想像が膨らんでいきます。
さらに、各巻の巻末には、当代流行作家による解説文や漫画が掲載されており、これがまた面白い。たとえば『妖怪博士』の解説は、ミステリー作家の綾辻行人氏が書かれています。
その中に、次のような一文がありました。
「二十面相が繰り出すさまざまな魔術=トリックの、すこぶるアナログで非現実的でありつつも、どこかしら心地好い存在感を持った味わい。対して現代における、最新のデジタル技術によって日常化した『ヴァーチャル』で『サイバー』な諸々の、どうにも希薄で胡散臭いリアリティ・・・・・。」
わたしは、この一文に大いに共感してしまいました。
また、『悪魔人形』の解説は、漫画家の松苗あけみ氏が書かれています。
松苗氏は、昭和30年代に子ども時代を送った世代の人ならば、乱歩の小説に描写されている街々の風景に懐かしさを覚えるはずとして、次のように述べています。
「ひしめく小さな住宅や商店街もその裏には小さな庭や鬱蒼とした樹々のスペースを共有しており、夕闇迫る頃ともなれば路上の遊びに興じていた子供たちもその濃い闇の奥に“怪人二十面相”の面影を感じ取るかのように家路を急いだものでした。」
そう、この『少年探偵』シリーズに描かれている東京の街並みは、ちょうど西岸良平の『三丁目の夕日』と同じ街並みなのですね。
なるほど、昭和の少年たちには、たまらなく懐かしいはずです。



少年時代、夢中になって読み耽った江戸川乱歩の『少年探偵』シリーズ。
自分でもよく、少年が主人公の怪奇幻想物語を書いたものでした。この復刻文庫を手に取って、ページを繰っていると、いろんな記憶が蘇ってくるような気がします。
できることなら、全巻を一気読みしたい!
そんな衝動に駆られますが、もちろんそんな時間はありません。
せめて、手元に置いておいて、いつでも少年時代に戻れる準備をしておきたいです。
そう、本というものの本質はタイムマシンなのですね。
これで老後の楽しみが一つ増えました。(笑)


2010年6月13日 一条真也