宇宙という話題

一条真也です。

久々に宇宙関係のビッグニュースです。
小惑星探査機「はやぶさ」が7年間の宇宙の旅を終え、地球に帰還しました。
はやぶさ」は、月以外の天体に着陸して帰還した、人類初の探査機となりました。


今世紀になって、わたしは「まったく、ものすごい時代になったものだ!」と思いました。
それは、ついに宇宙の年齢がわかってしまったからです。
2003年2月、米国NASAの打ち上げた人工衛星WMAPは、生まれてまだ38万年しか経っていない頃の宇宙の地図を描き出しました。それは、現時点で人類が描くことのできる最も昔の姿であり、それを解析することによって、宇宙論研究の究極の課題だった宇宙の年齢が137億年(誤差2億年)と求められたのです。
1980年代末に「宇宙の年齢は何歳ですか」と専門家にたずねたことがあります。
そのとき、「まあ、100億年か200億年ですかね」という答しか返ってきませんでした。
じつに、有効数字が一桁もないような状況だったのです!
それが、いまや「137億年です」という3桁の数字で答えられるようになったわけですから、本当にすごいことです。



宇宙を1冊の古文書として見るならば、その解読作業は劇的に進行しています。
それというのも、20世紀初頭に生まれた量子論と相対論という、現代物理学を支えている2本の柱が作られたからです。さらに、この2つの物理学の根幹をなす法則を駆使することによって、ビッグバンモデルと呼ばれる、宇宙の始まりの瞬間から現在にいたる宇宙進化の物語が読み取られてきました。
宇宙はまず、量子論的に「有」と「無」の間をゆらいでいるような状態からポロッと生まれてきました。これは「無からの宇宙創生論」といわれているものです。
そうして生まれた宇宙は、ただちにインフレーションを起こして急膨張し、インフレーションが終わると超高温、超高密度の火の玉宇宙になりました。
その後は、ゆるやかに膨張を続けます。
その間に、インフレーション中に仕込まれた量子ゆらぎが成長して、星や銀河が生まれ、太陽系ができて、地球ができて、その上に私たち人類が生まれるという、非常にエレガントな一大叙事詩というか宇宙詩とでもいうべきシナリオができ上がったのです。



話は変わりますが、南アフリカでワールドカップが開催されています。
オリンピック同様、人類の平和の祭典ですね。
人類の平和と幸福のためには何が必要でしょうか。
かのダライ・ラマ14世は、「何よりも会話が必要」だと語っています。
そして、わたしは会話には共通の話題が必要だと思います。
世界中の人々に共通する話題など存在するのでしょうか。
たしかにワールドカップも、共通の話題の一つでしょうね。
特に、今夜はそうでしょうね。(笑)



さて、人類共通の話題とは何か。
哲学者の梅原猛氏は、それは「あの世」だといいます。
あの世に関心のない民族はなく、仏教でどうなっているか、キリスト教でどうなっているか、イスラム教やヒンドゥー教ではどうかというのは、まさに大問題です。
神について議論していたら、いろいろ信仰が対立するかもしれませんが、あの世について共通なものと、その違いを探っていくということは、おそらくあらゆる宗教の人々が対立なしに解明できることかもしれないというのです。
そして梅原氏は、「比較あの世学」というものを提唱し、自分には人生の時間があまり残っていないので、若い人にどうかそういう学問をつくってほしいと述べています。
じつは、わたしはかつて『リゾートの博物誌』(日本コンサルタントグループ)という本で、古今東西のありとあらゆる死後の世界のイメージを集めて、その共通点と相違点を徹底的に調べあげたことがあります。
その結果、意外と共通性が高いのに驚き、その最大公約数としての霊界像を「ハートピア・ゼア」と名づけ、わたしたちがこの地上につくるべき平和な心の共同体を「ハートピア・ヒア」と呼んだのです。



さらに、人類共通の話題とは何か。
理論物理学者の佐治晴夫氏は、それは「宇宙」であるといいます。
佐治氏は「人はなぜ戦うのか」というテーマで、『利己的な遺伝子』の著者として有名なイギリスの生物学者リチャード・ドーキンスと対話しました。
そのとき、争う集団と集団がなくなれば、当然、戦争は起こらず、そのためには集団間で風通しよく話し合えるための共通の価値観が必要になることに気づきました。
そして、佐治氏はドーキンスに対して、「そうした共通の価値観といえば、それはやはり、宇宙に対する認識だと私は思います」と言ったそうです。
宇宙のカラクリがはっきりわかれば、宇宙の歴史のなかで、人類がなぜ存在したのか、自分という人間がなぜ生まれてきたのかといったことに思い至ったりするわけですね。
そのような、いわば宇宙的な意識こそが共通認識、共通の価値観になる。単に宗教だけではダメだし、経済問題だけでもダメだし、もっと根本的なパラダイムに気づいていかなければならないと佐治氏は述べています。
今夜、ワールドカップ観戦後は、ぜひ宇宙について語り合ってはいかがでしょうか?


2010年6月14日 一条真也