「吾亦紅」

一条真也です。

富澤一誠著『あの素晴らしい曲をもう一度』(新潮新書)の「おわりに」に、「今ほど家族というものを強く意識させられる時代はありません」という一文があります。
たしかに、において「家族」の絆はドロドロに溶けてしまっている観があります。
そんな日本人の心に沁みる歌が、すぎもとまさと「吾亦紅(われもこう)」です。
吾亦紅は、線香と一緒に仏前に捧げる花ですね。
すぎもとまさとは、この曲で2007年の「NHK紅白歌合戦」に初出場しました。
58歳での初出場は、初出場歌手としては大泉逸郎と並ぶ最年長タイ記録でした。


Jポップ評論の第一人者である富澤一誠氏は、次のように述べています。
「親が子を傷つけ、子が親に刃を向けるような悲惨な出来事が相次ぎ、なんで私たちはこうなってしまったんだろうかと考え込んでしまうほど、本来あるべき親子関係は崩壊しつつあります。
今こそ、家族とその絆について真剣に考えるべき時なのです。そして、家族をテーマにした歌が必要とされているのです。その代表がすぎもとまさとの『吾亦紅』です」
富澤氏によれば、いい歌はたくさんあっても、「すごい!」と思わせる歌はそうざらにあるものではないそうです。では、すごい歌とはどんな歌でしょうか。
それは、現実を超えている歌だそうです。わたしたちが無意識に思っていること、自分では気づかない本音を歌にしてみせてくれるというのです。
そんな歌を聴いたとき、わたしたちは強い共感を覚えて、感動するというのです。
すぎもとが亡くなった自分の母親のことを歌った曲が「吾亦紅」です。
中に、こんなフレーズが出てきます。


  「あなたに あなたに 威張ってみたい
  来月で俺 離婚するんだよ そう、はじめて 自分を生きる」


すごいですね!何がすごいって、結婚することを威張るんじゃなくて、離婚することを威張るということが。そこには、他人にはけっして窺い知れないような濃厚な人生のドラマがあるのです。富澤氏は、特にこのフレーズを「口に出しては言えない男の本音が凝縮された家族愛の歌」と絶賛し、次のように述べます。
「だからこそ、『吾亦紅』は九ヵ月間かけて自力でヒット・チャートを上がってきたのです。第二の『千の風になって』と言っていいでしょう。歌は世につれ、世は歌につれ、と言うように、歌の持つ本当の力を時代が今必要としているのです」
わたしは、第二の「千の風になって」をめざして、「また会えるから」を作詞したわけですが、今度は「家族」そのものをテーマにした歌を作りたくなってきました。
「家族」のみならず、「先祖」や「隣人」などのテーマも歌にしてみたいです。
現代日本人の「こころ」に必要な歌を書いてみたいと心底思いました。


2010年7月1日 一条真也