荒木町

一条真也です。

自殺フォーラムに「出版寅さん」こと内海準二さんが来てくれました。
フォーラムの後は内海さんと今後のプロジェクトについて打ち合わせし、いったん別れ、夜になって新宿区の荒木町で待ち合わせしました。
現在の内海さんのオフィスは荒木町の近くにあります。
なんでも、わたしをぜひ連れて行きたい店が荒木町にあるとか。


                  BAR「ピガール」の店内で


まずは立ち食い寿司屋で腹ごしらえをして、「ピガール」というBARに向いました。
ここは、ファッション評論家だった故・石津謙介先生が愛した店だそうです。
石津先生は、伝説のVANの創設者であり、日本のファッション史における巨人です。
ファーストリテイリング柳井正氏も、最初は小郡でVANを販売されていました。
つまり、ユニクロにもVANの遺伝子が受け継がれているのです。
わたしは広告代理店のサラリーマン時代に石津先生に大変お世話になりました。
雑誌だか単行本だかの企画でVANの倉庫の整理にも立ち合わせていただきましたし、そのとき石津先生からニューヨーク・ヤンキースのスタジャンなども頂戴しました。
当時すでに、かなりのプレミア品ではなかったかと思います。
現在は青山フラワーマーケットを経営している井上英明君と一緒に、石津先生から寿司を御馳走になったこともあります。そのとき、いただいたトロが強烈においしかったことを憶えています。わたしは、あんなに旨いトロを食べたことがありません。
石津先生の秘書だった高田国博さんとも親しくお付き合いさせていただきました。
石津先生のことは、拙著『遊びの神話』(PHP文庫)にも書いています。


               ファッションの神様が愛したジン・トニック


「ピガール」は健啖家だった石津先生が必ず最後に立ち寄ったという店です。
それで、テレビ東京の「アド街ック天国」にも取り上げられました。
ご自宅が近かったこともあるでしょうが、どんなに酔っていても必ずこの店に立ち寄り、ジン・トニックを2杯飲まれたそうです。
内海さんとわたしも、石津先生を偲んで、ジン・トニックを飲みました。
「ピガール」は落ち着いた内装の大人の店で、コースターのデザインもオシャレでした。
さすが、「ファッションの神様」石津謙介が愛した店です。ママの内山真美さんとそのお母さんの美人母娘から、なつかしい石津先生の思い出をたっぷりお聴きしました。



それから、荒木町の「グレース」というスナックに行きました。
ここは、東陽片岡著『レッツゴー!! おスナック』(青林工藝舎)というコミックに登場する店なのです。この本、全国に遍在する「スナック」という日本独自の飲食店いや社交場をテーマとした天下の奇書です。また、「カラオケ」という日本発のオリジナル文化が、いかにスナックと不可分の関係にあるかということを見事に語っています。


             天下の奇書『レッツゴー!! おスナック


わたしが愛読するこの本を内海さんにお貸ししたところ、アイドル出身の美人ママがいるという荒木町の「グレース」に一緒に行こうと誘われた次第です。
実際にお会いしたママの田村悦子さんは、なるほど華のある綺麗な方でした。
なんと、伝説の歌謡番組「スター誕生」から3番目にデビューした元アイドルそうです。
「コスモス」という女性2人のグループでした。ちなみに、「スター誕生」から最初にデビューしたのが森昌子で、桜田淳子は7番目、山口百恵は10番目です。
また、田村悦子ママのお子さんは「ZERO」の阿久津健太郎さん、阿久津愛さんです。
珍しい兄妹のデュオということで、「和製カーペンターズ」と呼ばれたとか。


                スナック「グレース」のアートな看板


店に入ると、まず壁の到る所に歌手や野球選手の写真が飾られています。
さすがに元・芸能人のママが経営する“おスナック”だけのことはあります。
その質と量は、すさまじいものでした。もう、たみゃらん!(笑)
この「たみゃらん」というセリフですが、時々このブログでも使っていることにお気づきでしょうか。じつは、『レッツゴー!! おスナック』に出てくる言葉なのです。(笑)
この本を読んで店を知ったことを内海さんがママに告げると、ママは、「あら、東陽先生はすぐ近くに住んでいるから呼びましょうね」といって電話をかけたものですから、驚きました。電話の後、「先生とは仲良しなのよ。でも、変な仲じゃないのよ」とママが言っていたのが印象的でした。(笑)
「グレース」の看板はとてもアート的なのですが、東陽先生が絵を描かれたそうです。
しばらくして、やってきました、東陽片岡先生!!


                  素晴らしき東陽片岡ワールド


マンガに掲載されている写真そのままのお姿でした。(笑)名刺を交換すると、厚紙の名刺には「漫画・挿絵業 東陽片岡」と書かれていました。なんか、いいな〜。
わたしが東陽先生に、「おスナック」というネーミングのセンスが素晴らしいと言うと、先生は「ボクは何にでも『お』を付けるんですよ。『お風俗』とか『おセックス』とかね」と、淡々と言われていました。(笑)
また、『レッツゴー!! おスナック』には、「スナック 寝たきり」というものすごい店が出てきます。高齢のママがカウンターに布団を敷いて寝たままサービスする店です。
本の中でも最大級のインパクトを持っているのですが、わたしが「あの店は実在するんですか?」と尋ねたところ、東陽先生は「本当にあれば楽しいですね」とイタズラ小僧のように笑われました。もう、たみゃりゃ〜ん!(笑)


                     東陽片岡さんと
                 

東陽先生にマイクを渡してカラオケをお願いすると、増位山太志郎「そんな夕子にほれました」、敏いとう&ハッピー・アンド・ブルー「わたし祈ってます」を歌われました。
2曲とも、まさに「おスナック」で歌うべき曲です。その選曲センスの良さに脱帽しました。
さらには、東陽先生の歌の上手さに仰天しました。わたしも「カラオケ・プリンス」とまで呼ばれた存在ですが(笑)、あいやー、この人はレベルが違う!ほとんどプロの演歌歌手ですわ! もう、たみゃらん!(笑)
本の中に「サザンといえば、サザンオールスターズではなく、森雄二とサザンクロス」というくだりがあるのでリクエストすると、先生は「足手まとい」を歌って下さいました。
あれ〜、この歌、先日の北陸社員旅行の草津の宴会で、マリエールオークパイン小松の伊藤支配人が歌っていた曲じゃないですか!
そういえば歌う前に、「これからも、社長の足手まといにならないように、この歌を歌いま〜す!」などと、歯の浮くようなことを言っていました。(苦笑)
そう、伊藤支配人の立派すぎる歯が浮くようなことを。(笑)


内海さんも郷ひろみよろしく哀愁」、堺正章「さらば恋人」の2大持ち歌(笑)を歌い上げ、わたしも平田隆夫とセルスターズ「悪魔がにくい」、ビリー・バンバン「さよならをするために」、そして今夜も「死ね死ね団のテーマ」を歌っちまいました!(笑)
死ね死ね団のテーマ」には、さすがのポーカーフェイスの東陽先生も仰天されてました。
「こんな歌を川内康範が作っていたとは!」と言われていました。
でも、わたしとしては、「もう、たみゃら〜ん!」と言って欲しかったですね。(笑)
そんなこんなで、荒木町の夜は更けていきました。
「ピガール」も「グレース」も本当に楽しかった!
わたしは、荒木町が大好きになりました。
内海さん、素敵な夜をありがとうございました。


                    荒木町の夢の残り香


2010年11月6日 一条真也