桑田佳祐の祈り

一条真也です。

最近、桑田佳祐のニュー・アルバム「MUSICMAN」ばかり聴いています。
食道がんの手術を経て復帰した桑田さんの渾身の歌声が胸に沁みます。
やはり、日本を代表する天才ミュージシャンだと思います。
昨夜も、iPodで彼の歌を聴きながら、暗い東京の街を歩きました。


                      「MUSICMAN」


東京といえば、昨日、新橋で開催された冠婚葬祭互助会業界の緊急会議に出席しました。そこで、東日本大震災の被害の大きさ、悲惨さを改めて痛感しました。
東北の太平洋岸には今も多数の水死体が残されています。
亡くなられた方々の「人間の尊厳」を守ることが急務です。
地震も大きかったですが、今回の災害では津波の脅威を日本人は思い知りました。


じつは、3月11日以来ずっと気になっていたことがあります。
日本の音楽シーンからサザンオールスターズの名曲「TSUNAMI」が消されるというか、封印されるのではないかということです。
もちろん、曲を作り、自ら歌った桑田さんには何の責任もないわけですが、一部の人々の間には「TSUNAMI」をタブー視する気配があります。
カラオケ・スナックなどでも、完全に禁じられた歌になっているとか。
YouTubeに「05takechan」という方の次のようなコメントを見つけました。



「TSUNAMIはいい曲。それは揺るがない真実。
そしてこの曲が日本で一番売れたシングルCDだってのも事実。
おそらく当分の間TVやラジオではこの曲は聞けなくなってしまうと思います。
スマトラ地震の時も各局が自粛という形でこの曲を放送するのを止めていました。
でもこの曲はすっごくいい曲で、それぞれのサザンファンやそうでない方にもこの曲の思い出とか、あるんじゃないかなと思います。
不謹慎と思う方もいると思う。それはそれぞれの取り方だからどうすることもできないんじゃないかなとも思う。
だからといって被災もしてない外野が『不謹慎だ!!』と騒ぎ立てたり、そこから喧嘩みたいになるのはなんの解決にもならない。
被災者にもこの曲が好きだって人はいるだろうし、最初にも書いたけどこの曲が誰もが知っている名曲なのは事実」(05takechan)



この方の言っていることは、まったく正しいと思います。
「TSUNAMI」という歌と現実の「津波」とは無関係です。歌詞を聴けばよくわかりますが、耐え切れないほどの「わびしさ」という負の感情を津波に例えているだけです。
この歌が本当にタブーにされてしまう前に、わたしたちは、この歌の歌詞をもう一度よく聴く必要があると思います。災害と無関係の歌を封印してしまうのは、「言葉狩り」であり、「魔女狩り」です。絶対に、それだけは避けなければなりません。
何より、一番心を痛めているのは桑田さん自身だと思います。


誰が何と言おうと、桑田佳祐は天才です。
桑田さんは一種の宗教的才能を持っている人だと思います。それは宮沢賢治がそうであったように、目に見えないものを感じて言語化するというシャーマン的才能です。
桑田さんの歌には、明らかに「言霊」があります。そして、「祈り」があります。
ブログ「明日晴れるかな」にも、「桑田佳祐の歌は祈りである」と書きました。
その最も新しい「かたち」が、新曲「月光の聖者達〜ミスター・ムーンライト」でしょう。
「MUSICMAN」の最後に収められている曲です。
三井住友銀行のCMソングとして使用され、有名になりました。
わたしは、この歌からまるでグレゴリオ聖歌のような強い「祈り」のパワーを感じます。



昨夜、四谷の暗い夜道を歩いていたとき、iPodからこの曲が流れてきました。
すると、知らずにわたしの目には涙が溢れていました。
この歌を聴きながら、大津波に飲み込まれて亡くなった東北の方々の姿が心に浮かんできたのです。「この歌は鎮魂の歌だ!」と、そのとき思いました。
桑田さんは、「月光の聖者達(ミスター・ムーンライト)」を東日本大震災の犠牲者への鎮魂の歌として作ったような気がしてなりません。
もちろん、この歌は昨年作られており、大震災のはるか以前から存在しています。
でも、桑田さんは今回の悲劇を無意識のうちに予知し、無意識のうちに「月光の聖者達(ミスター・ムーンライト)」を作ったように思えてなりません。
だから、彼はシャーマンであり、宗教的天才なのです。



実際、この歌の歌詞には今回の悲劇を暗示するようなフレーズがいくつも出てきます。
たとえば、「知らずに済めば良かった 聴かずにおけば良かった 『人生(ショー)はまだ始まったばかりだ!!』って胸が張り裂けた」
たとえば、「この日本(くに)も変わったよ 知らぬ間に」
そして、「現在(いま)がどんなにやるせなくても 明日は今日より素晴らしい」



明日は今日より素晴らしい!!
これほどシンプルでパーフェクトな祈りの言葉が他にあるでしょうか?
わたしには、どうしても「月光の聖者達」が鎮魂歌に思えてならないのです。
最後に、あえて誤解を怖れずに言えば、「TSUNAMI」も鎮魂歌であると思います。
大震災の犠牲者の方々の魂が安らかに眠られることを心よりお祈りいたします。


2011年3月23日 一条真也