「太陽を盗んだ男」

一条真也です。

今日は、13日の金曜日ですね。
今日の未明から、ついに浜岡原発が停止しました。
また、福島第一原発の1号機に穴が開いていたことが判明しました。
一連の原発事故の収束は、さらに遅れる見込みとなったわけです。
日本人の誰もが、放射能というものを意識しながら、日々生きています。
そんな折、日本映画「太陽を盗んだ男」をDVDで観ました。


この映画は、カルト・ムービーとして非常に名高い作品です。
伝説の監督・長谷川和彦による反体制的ピカレスク・ロマンで、日本映画史上の最高の1本に挙げる人も多いとか。『ワケあり映画館』沢辺有司著(彩図社)という本に紹介されており、どうしても観たくなってDVDを求めました。もちろん、わたしも題名と大体のストーリーぐらいは知っていましたが、きちんと観賞するのは初めてです。
いやあ、観終わってブッ飛びました! これは、正真正銘の大傑作です。
いわゆるトンデモ系の怪作という見方もできますが、とにかく観る者を映画に強く惹きつけ、そのまま一気に147分を観せてしまうパワーを持っています。


                   「太陽を盗んだ男」のDVD


物語は、日常に退屈している中学の物理教師が、自らの手で原爆を作り上げるという荒唐無稽なものです。彼は東海村原子力発電所からプルトニウムを盗み出して原爆を完成させ、原爆所有の8カ国に次ぐ存在という意味から「9」と名乗ります。そして、その原爆を東京で爆発させると国家を脅して、さまざまな要求を突きつけてゆくのです。
犯人役の沢田研二、彼を追う警部役の菅原文太
この2人の演技がムチャクチャ凄い! そして、カッコいい!
スリムなジュリーは、本当に「美しい」の一言です。
また、名作「仁義なき戦い」の面影を強く残す文太アニィは渋すぎます。
とにかく、2人とも、日本映画の歴史に残る前代未聞の怪演を繰り広げています。
はっきり言って、内容にはアラが多く、突っ込み所は満載です。特に、警察から一度奪われた原爆をジュリーがターザンばりに奪還する場面、無数のパトカーの追跡を振り切って逃走する場面などは、思わず、「ありえねえだろ〜」とつぶやいてしまいます。
いくら銃を撃ち込んでも死なない文太も、ありえない!
ターミネーター以上の不死身さで、もはやジェイソンの領域に入っています。
難を言えば、2人の男に絡む女性DJを演じた池上季実子が、まだ経験不足のせいか大根ぶりが目立つことです。個人的には、ここは桃井かおり秋吉久美子といった個性派の女優を使ったほうが良かったと思います。



特に、わたしが見入ってしまったのは、映画の前半に出てくる原爆製造の場面です。
いつもフーセンガムをふくらませている物憂げな犯人が、安アパートの自室にこもる。
彼は、そこで盗み出したプルトニウムから、たった一人で原爆を作る。
部屋には各種の実験用具なども揃っていて非常にリアルです。
映画では随時、物理的知識に関する解説が入ります。
この解説が、原子力を理解するのに実にわかりやすいのです。正直、最近のテレビでやっている原発事故のニュース解説などより、はるかに理解できます。
わたしは、大変な事実に気づいてしまいました。
原発事故の処理方法を説明するよりも、原爆の作り方を説明するほうが、ずっと「原子力」に対して興味が持てるのだということを!
それから、ガイガーカウンターをマイクに見立ててジュリーが歌ったり、サッカーボールのように完成した原爆で遊ぶシーンは、あまりにもシュールな名場面でした。



見事に原爆の製作に成功した犯人は、国家に対して要求を始めます。
その最初の内容は「TVのナイター中継を最後まで見せろ」というものでした。
この映画が作られた1979年当時は、放映時間が定められていたのです。
ちなみに、ジュリーが演じる犯人はタイガースのファンではなく(笑)、ジャイアンツ・ファンでした。当時のジャイアンツは長嶋茂雄監督で、4番バッターは王貞治です。
また、次の要求内容は「ローリングストーンズを日本に呼べ」というものでした。
当時、ストーンズのメンバーは麻薬所持のせいで日本に入国できなかったのですが、これは池上季実子演じる「ゼロ」という名のラジオDJの発案でした。
彼女は、ラジオを通じて、「あなただったら何をしたい」とリスナーに広く呼び掛けます。
幼い子どもが「お菓子とハンバーグの家がほしい」と言い、若いサラリーマンが「みんなを自分に従わせてみたい」などと言います。
中には、「朝日新聞の1面に、猪木・馬場戦の詳報を掲載させたい」といった意見もあり、これにはわたしも大いに納得してしまいました(笑)。
それにしても、長嶋とか王とか猪木とか馬場とか、果てはローリングストーンズ・・・・・。
いやはや、何とも時代の空気を感じさせてくれますね。
最後に、この映画では「被爆」も大きなテーマとなっています。
日本人の多くが放射能の被害に怯える今、この物凄い映画をぜひ観るべきでしょう。
それにしても、「13日の金曜日」よりもはるかに怖い映画を観てしまいました。


2011年5月13日 一条真也