タイムマシンは作れるか?

一条真也です。

いやあ、今日の「読売新聞」朝刊の一面には驚きましたね。
「光より速い素粒子」という大見出しで、ニュートリノが光よりも速いという衝撃的な実験結果を名古屋大などの国際研究グループが発表したというのです!
光よりも速い物体が存在することになれば、アインシュタイン相対性理論で実現不可能とされた「タイムマシン」も可能になるかもしれません。


                  「読売新聞」9月24日朝刊


質量のある物体の速度が光の速度に近づくと、その物体の時間の進み方は遅くなり、光速に達すると時間は止まってしまう。
これが、アインシュタイン特殊相対性理論です。
光速で動く物体が時間が止まった状態だとすると、それよりも速いニュートリノは時間をさかのぼっているのかもしれません。すると、過去へのタイムトラベルも現実味を帯びてきます。時間の概念すら変更を余儀なくされる可能性もある。
これはもう、はっきり言って、人類史に残る大事件ですよ!
これまでの物理学の常識を超えた結果に直面した専門家からは驚きとともに、徹底した検証を求める声があがっているそうです。

 
                  「読売新聞」9月24日朝刊


わたしは、かつて『ハートフル・ソサエティ』(三五館)の「神化するサイエンス」において、タイムマシン発明の可能性について書いたことがあります。
現代物理学を支える量子論によると、あらゆるものはすべて「波」としての性質を持っています。ただし、わたしたちが知っている波とは違う、特殊な波、見えない波です。
それで、この波をどう理解するかという点で解釈の仕方がいくつかあります。
その1つが、いわゆる「多世界解釈」というものです。
SFでは「パラレルワールド」とか「もう1人の自分」といったアイディアはおなじみですが、わたしたちが何らかの行動をとったり、この世界で何かが起こるたびに、世界は可能性のある確率を持った宇宙に分離していくわけです。


                  「読売新聞」9月24日朝刊


量子論においては、いわゆる「コペンハーゲン解釈」が主流となっていますが、この多世界解釈こそが量子論という最も基本的な物理法則を真に理解するうえで、一番明快な解釈のように思えます。そして、世界が複数に分かれていくという、一見すると非現実的に思えるこの多世界解釈という考え方が、実は物質世界が本当にどういうものであるかを認識するうえで、非常に本質的なものを抱えているのではないでしょうか。
多世界解釈は、特にタイムマシンの問題を考えてみたときに非常に興味深いと言えます。時間や空間の物理学である一般相対性理論においては、タイムマシンの製造は可能とされます。何ら理論的に不可能とされていません。つまり、私たちは時間をある一方向にまっすぐ進んでいるように思っていますが、それがグルッと回って過去につながっていても何の矛盾もないのです。ちょうど、地球の上をまっすぐ歩いていったら、グルッと回って元の場所に戻ってくるようなものですね。
一般相対性理論は一切それを禁止していないばかりか、基本となるアインシュタイン方程式を解いてみると、ある場合には、時間がループをなすような解答が存在します。
ですから、それだけを見ると、相対性理論はタイムマシンの存在を否定していません。
むしろ存在してもいい、存在するという解すらあるということになっているのです。



しかし、やはりタイムマシンが存在すると不都合が起こるのです。
たとえば、タイムマシンで過去の世界に行って、自分を生む前の母親を殺してしまうと、自分が生まれるはずがありません。
生まれるはずのない自分が、なぜ過去にさかのぼって母親を殺せるのかという自己矛盾が起きてしまいます。有名な「親殺しのパラドックス」ですね。
だから、タイムマシンは何らかの手段で禁止されないといけません。
そこでスティーブン・ホーキングたちは、物理学を支えるもう1つの柱である量子論がタイムマシンを禁止するはずだと言いました。
現代物理学の体系は、相対性理論量子論という2つの土台の上につくられてきたわけだから、一方が肯定していることをもう一方が否定することで、物理学の体系がうまくでき上がっているという理解です。
具体的には、タイムマシンをつくって過去の時間に戻ろうとすると、量子論が予言するさまざまな効果が働くために、過去の時間に戻ろうとする経路が縮まってしまって通行不可能になるというのがホーキング仮説です。「時間順序保護仮説」というもので、時間の順序は、過去から未来へ連続的に保護されるというわけです。
しかし、これはあくまで仮説であり、数学的な証明ができているわけではありません。
いずれにせよ、相対性理論がタイムマシンをつくろうとすると、量子論が邪魔をするというのがホーキングの主張です。



ところが、量子論を用いた「量子コンピュータ」の理論などで活躍しているドイチェによれば、量子論は何も邪魔などせず、タイムマシンをつくることはいくらでも可能であるといいます。ただし「親殺しのパラドックス」が起こると困るので、ドイチェは、各出来事が起こるたびに無限に宇宙は分離していくと考えるのです。
つまり、タイムマシンに乗って過去に戻って、自分の母親を殺したとしても、それは別の宇宙に行って、別の世界にいる母親を殺しただけなのです。
その宇宙ではその後、違ったシナリオがどんどん進行していくかもしれません。
でも、自分の存在する宇宙の母親には何の影響もないのです。
だから、タイムマシンができて過去へ行ったとしても、別の宇宙の過去の歴史は変わってしまうが、自分の宇宙の歴史は変わるわけではないという、非常に興味深く、かつ説得力のあるアイディアなのです。そもそも相対性理論がまったく否定せず、その存在を認めているタイムマシンを量子論に邪魔させるというのは、いくら天才ホーキングの理論とはいえ、やはり無理があるでしょう。
ここはポジティブにタイムマシンは実現可能なのだと信じて、かつ、相対性理論量子論を矛盾が生じないように組み合わせようとすると、多世界解釈という考え方が何よりも論理的で、つじつまが合うのですね。


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わたしは、もちろん物理学の専門家でも何もない一介の冠婚葬祭業者ですが、将来的にタイムマシンの製作は可能ではないかと思っています。
なぜなら、人間が「こんなこといいな、できたらいいな」と想像するアイデアは必ず実現可能であると信じているからです。
“If you can drea it,you can do it.”
この言葉は、かのウォルト・ディズニーによるもので、わたしの座右の銘の1つです。
人間が夢見ることで、不可能なことなど1つもないのです。
逆に言うなら、本当に実現できないことは、人間は初めから夢を見れないようになっているのでしょう。話題の「下町ロケット」に出てくる町工場のような「下町タイムマシン」工場が出現すると面白いですね。
それにしても、わたしが生きている間に、タイムマシンが完成するといいなあ!


2011年9月24日 一条真也