親子の絆

一条真也です。

久々に心が洗われるニュースがありました。
俳優の香川照之さんが、父親である歌舞伎俳優の市川猿之助さんと歴史的和解を果たしたのです。香川さんは、9代目市川中車を襲名し、来年6月に東京・新橋演舞場で行われる「六月大歌舞伎」の舞台に立つそうです。


                  「スポーツ報知」9月28日朝刊


香川さんが1歳の時に、猿之助さんと母で女優の浜木綿子さんが離婚しました。
香川さんは、両親の離婚後、女優の母・浜木綿子のもとで猿之助さんと離れて暮らしました。そのため、父とは断絶状態となり、ずっと歌舞伎とは無縁でした。
その香川さんは、「今年の春から父とともに3世代で同居している」と明かしました。
猿之助さんの再婚相手で女優の故・藤間紫さんが親子の復縁に熱心だったそうです。



会見場には、父・猿之助さんも登場しました。
2003年に脳梗塞を患って以降、言語が不自由な猿之助さんですが、「浜さんありがとう、恩讐の彼方にありがとう」と声を振り絞って言い、香川さんも目に涙を浮かべて「お母さん、本当にありがとう」と頭を下げました。
わたしは、浜木綿子さんも偉いし、亡くなった藤間紫さんも偉かったと思いました。
2人の女性の広い心によって、1組の父と息子が和解できたのです。
猿之助さんが口にした「恩讐の彼方に」とは、かの菊池寛の名作の題名です。
そういえば、菊池寛には「父帰る」という作品もありました。



また、もう1組の父・息子のドラマもありました。香川さんの長男である7歳の正明くんが市川團子を襲名し、父とともに「六月大歌舞伎」の舞台を踏むことになったのです。
2004年に正明くんが誕生したとき、香川さんは父・猿之助、祖父の3代目市川段四郎、曾祖父である初代市川猿翁の本名にある「政」の文字を長男につけました。
そこには、父との絆を切りたくないという香川さんの強い想いがあったのです。



儒教では、親への愛としての「孝」をとても重視します。
もともと、この世で一番親しい人間だから「親」と呼ぶのです。
猿之助さんと香川さん、香川さんと正明くん・・・・・父と息子は基本的にライバルであり、対立するものと世界中の神話は示していますが、やはり親子の絆は強いものです。
神話といえば、日本神話の『古事記』に登場するヤマトタケルの物語はスーパー歌舞伎の最大の演目です。わたしは、もともと大の猿之助ファンでしたが、いつか、香川照之さんの演じるヤマトタケルを見てみたいです。
NHK大河ドラマ龍馬伝」で岩崎弥太郎を、NHK大河ドラマスペシャル「坂の上の雲」で正岡子規を演じた以上の迫力で悲劇の皇子を演じる香川さんを見てみたい!



それにしても会見場で並んだ猿之助さんと香川さんの風貌はよく似ていました。
「やはり、血は争えないなあ」と多くの人が思ったのではないでしょうか。
わたしも、よく父に似てきたと多くの方々から言われます。
東日本大震災以降、「家族」というものが見直されています。
今回の朗報でも、血縁の大切さをしみじみと考えさせられました。
会見で、「この船に乗らないわけにはいかない」と香川さんは言いました。
正しい船に乗った者は、必ず正しい目的地に着くのではないでしょうか。


2011年9月28日 一条真也