ファンタジー講座

一条真也です。

今夜、「よみうりFBS文化センター」の特別講座を行いました。
同センターは読売新聞とFBS福岡放送の文化事業です。
わたしの講座名は、「一条真也の平成心塾〜ハートフル社会を生きる、創る」です。



               「平成心塾」の第2回講座を開きました


ブログ「人間関係が良くなる講座」に書いたように、第1回目のテーマは「人間関係を良くする魔法」でした。おかげさまで、多くの方々にご参集いただきました。第2回目となる今回は、「『幸福』と『死』を考える〜大人のための童話の読み方」がテーマでした。
そうです、『涙は世界で一番小さな海』(三五館)の内容に基づいた講座です。
アンデルセンの『人魚姫』と『マッチ売りの少女』、メーテルリンクの『青い鳥』、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』、サン=テグジュぺリの『星の王子さま』といった名作ファンタジーがじつは連続した1つの物語であったことを解き明かし、そこから人間にとって最大のテーマである「死」の秘密と「幸福」を本質を探ってゆくという内容です。
わたしは、この4つの作品を「ハートフル・ファンタジー」と呼んでいます。これらの作品は、やさしく「死」や「死後」について語ってくれるばかりか、この地上で生きる道も親切に教えてくれます。さらには、「幸福」というものの正体さえ垣間見せてくれるのです。



               メルヘンとファンタジーについて話しました


ある意味で、メルヘンとは子どもへのメッセージだと言えます。
そして、ハートフル・ファンタジーは老人へのメッセージです。
天上界を忘れて地上で生きていくための物語がメルヘンならば、これからもう一度、天上界へと戻っていく人々のための物語がハートフル・ファンタジーではないでしょうか。
「死」の本質を説き、本当の「幸福」について考えさせてくれるハートフル・ファンタジー
それは、読む者すべてに「老いる覚悟」と「死ぬ覚悟」を自然に与えてくれます。
わたしたちは、どこから来て、どこに行くのでしょうか。
そして、この世で、わたしたちは何をなし、どう生きるべきなのでしょうか。そのようなもっとも大切なことを教えてくれる物語がハートフル・ファンタジーなのです。 



これまで数え切れないほど多くの宗教家や哲学者が「死」について考え、芸術家たちは死後の世界を表現してきました。医学や生理学を中心とする科学者たちも「死」の正体をつきとめようとして努力してきました。
それでも、今でも人間は死につづけています。死の正体もよくわかっていません。
実際に死を体験することは一度しかできないわけです。
ですから、人間にとって死が永遠の謎であることは当然だといえるでしょう。
まさに死こそは、人類最大のミステリーであり、全人類にとって共通の大問題です。
その謎を説明できるのはハートフル・ファンタジーしかないと思います。

              
               ハートフル・ファンタジーについて語りました


少し前に、「私のお墓の前で泣かないでください」という歌詞ではじまる「千の風になって」が大ヒットしました。現実の葬儀の場面でも、この不思議な歌を流してほしいというリクエストが現在も多いです。喪失の悲しみを癒す物語をこの歌が与えてくれることに多くの人々が気づき、求めたわけです。なぜ、自分の愛する者が突如としてこの世界から消えるのか、そしてこの自分さえ消えなければならないのか。
これほど不条理で受け容れがたい話はありません。その不条理を受け容れて、心のバランスを保つためには、物語の力ほど効果があるものはないのです。
どんなに理路整然とした論理よりも、物語のほうが人の心に残るものです。
そして、もっとも人の心の奥底にまで残る物語とはハートフル・ファンタジーにほかなりません。それは、人類最大のミステリーである「死」や「死後」についての説明をし、さらには人間の心に深い癒しを与えてくれるのです。



今回は、特に『銀河鉄道の夜』について詳しく話しました。ブログ『銀河鉄道の夜』にも書いたように、このふしぎな物語は「臨死体験」を描いた物語です。
仏教では多くの人々を救う教えを大きな乗り物にたとえて「大乗」といいますが、銀河鉄道こそは大乗のシンボルとして描かれているのです。
そして、他の乗客に救命ボートを譲ったキリスト教徒の青年も、友人の命を救ったカムパネルラも、ともに「犠牲の愛」を実行して命を落としました。
しかし、青年たちは「サザンクロス」で降りましたが、カムパネルラはもっと先のおそらくは銀河鉄道の終着駅である「天上の野原」まで行きます。ここの部分には、キリスト教の犠牲的精神に強い共感を示しながらも、「たったひとりの本当の神様」という考え方にはどうしても賛同できなかった賢治の信仰上の本音が出ているように思います。



「死」について語るとき、多くの人は「宗教」を思い、次に「哲学」や「科学」を思います。
しかし、その他にもう1つ、「物語」という方法があるのです。
「死んだら星になる」とか「海の彼方の国に住む」とか「千の風になる」とかのファンタジーの世界があるのです。そのことを『銀河鉄道の夜』はやさしく教えてくれます。
3月11日、日本に未曾有の大災害が起こりました。東日本大震災です。
じつに、1万5000人を超える方々が亡くなりました。
この大量死を前にして、日本人はぜひ、壊滅的な被害を受けた岩手県が生んだ宮沢賢治の名作『銀河鉄道の夜』を読むべきであると思います。わたしは、『銀河鉄道の夜』とは宇宙的視点から地球をながめ、「人類愛」を訴えた奇跡のような物語だと思います。 


                  ご清聴、ありがとうございました!


「死」について語るとき、「宗教」や「哲学」や「科学」の他に「物語」という方法があることを教えてくれます。涙は世界で一番小さな海です。
あの大津波によって多くの人命を奪った三陸の海と、愛する人を亡くした悲しみであなたが流した涙とはつながっているのです。
そして、あなたが流した涙と、他の多くの方々が流した涙もつながっているのです。
涙でかすむ風景の向こうに、幻の銀河鉄道の姿が浮かび上がってきます。
わたしは、東日本大震災で亡くなった方々が東北発の銀河鉄道に乗って、「ほんとうの幸福」が待つ場所へと向かわれ、無事に目的地に着かれることを心より祈っています。
講座終了後は、盛大な拍手を頂戴しました。
最後まで熱心にお聴き下さったみなさん、本当にありがとうございました。


             「幸福」と「死」を考える、大人の童話の読み方


2011年9月29日 一条真也