『ヒミズ』

一条真也です。

ヒミズ』全4巻、古谷実著(講談社)を読みました。
ブログ『シガテラ』で紹介したマンガの1つ前に描かれた作品です。
そのハンパではないヘビーな内容に、『シガテラ』を超える衝撃を受けました。


            「普通じゃない」世界に引きずり込まれていく恐怖 
                 

じつは8月の終わり頃にアマゾンで注文したのですが、なぜか1・2・4巻の3冊しか配達されませんでした。「そのうちに3巻も届くだろう」と思って、先に1・2巻だけを読みました。ところが10月の半ばになっても届かないので、シビレを切らして3巻だけは古書で求めました。こんなことなら、最初から全4巻を古書で購入すれば良かったです。
そのほうが価格も安いし、何よりも途中で中断しないで一気に読めました。
揃いで届けられなかった責任が版元の講談社、アマゾンのいずれにあるかは知りませんが、今後こういった事態は避けてほしいものです。
それにしても、人生は思い通りに運ばないものですね。
そして、そのことこそが『ヒミズ』の最大のテーマでした。



この物語は、じつに読んでいて辛い内容です。
「普通の人生」を望む男子中学生が、ある事件を契機に心に闇を抱えます。
そのため想定外の出来事が連続し、「普通」とは程遠い人生を歩んでいきます。
まったく、こんな暗くて重い話は久しぶりに読みました。とにかく救いがありません。それでも、この作品は「人間の心の奥に潜む暗い部分をえぐり出した残酷なバイオレンス青春物語」として、同作の熱狂的な支持者がいるそうです。



タイトルの「ヒミズ」とは、モグラの一種だそうです。
モグラ科に属するヒミズ類は、モグラ類と同様に眼は皮下に埋まり耳介をまったく欠きますが、モグラ類に比べて体が小さく、尾が長いそうです。
ちなみに、次の作品のタイトルとなる「シガテラ」は、ある種の魚類が持つ毒素、またそれによって引き起こされる食中毒の総称だそうです。
ヒミズ」といい、「シガテラ」といい、ユニークなタイトルをつけるものですね。



著者は1973年生まれで、埼玉県生まれ。
ハリウッド美容専門学校を卒業し、1年間ほど美容院で働いていたそうです。
93年に「週刊ヤングマガジン」誌上の『行け! 稲中卓球部』でデビューしました。この作品は大ヒットし、アニメ化もされています。第20回講談社漫画賞も受賞しました。
その後、著者は『僕といっしょ』『グリーンヒル』など、閉塞的な状況にある思春期の主人公がもがく姿を描いてきました。そして、商業誌連載第4作目が『ヒミズ』で、第5作目が『シガテラ』というわけです。



詳しいストーリーを書くのはネタバレになる恐れがあるので、控えます。
でも、この著者はどこにでもいるフツーの「ダメ人間」を描くのがすごく上手です。
そんなダメ人間の1人である主人公は、ただただ「普通」であることを願います。
不幸な人生でも幸福な人生でもない、平凡で普通に生きることを願います。
しかし、どんどん「普通じゃない」世界に引きずり込まれていく・・・・・。
そんな怖さが、じつによく描かれています。
テーマやプロットからは、ドストエフスキーの『罪と罰』の影響を感じました。
また、肥大した自我の描写や強い厭世観からは、酒鬼薔薇聖斗宅間守、加藤智大といった人々を連想しました。



衝撃的なラストには、きっと賛否両論があるでしょう。
でも、わたしは圧倒的な孤独が淡々と描かれていると思いました。
こんなことを書くと、熱狂的なファンからは野暮だと言われるかもしれませんが、この作品は「死にたい」と考えている中高生に読んでほしいです。
そして、「こんなとき、自分ならどうするか」を想像してみてほしいです。この作品には、少年の生死を左右するほどの影響力という「パワー」があると思いますので・・・・・。


ところで、最近この作品は映画化されました。
主演の染谷将太二階堂ふみの2人が、第68回ヴェネチア国際映画祭で最優秀新人俳優賞(マルチェロ・マストロヤンニ賞)をW受賞しています。日本人初の快挙だとか。
東日本大震災を受けて、ラストシーンのシナリオが書き換えられたそうです。
でも、この物語は絶対に映画向きだと思います。
実際に映画を観るのが今からとても楽しみです。


2011年10月22日 一条真也