『心を上手に透視する方法』

一条真也です。

『心を上手に透視する方法』トルステン・ハーフェナー著、福原美穂子訳(サンマーク出版)を読みました。かなり話題になった本で、少し前まで書店で山積み状態でした。
著者は、ドイツで「マインド・リーダー」として活躍する人物だそうです。


日常生活で使える「マインド・リーディング」のテクニック


本書の帯には、「けっして、悪用しないでください。」と大書され、「たとえ一言も話さなくても、相手の考えていることがわかる門外不出の『マインド・リーディング』のテクニックを初公開」「ドイツで爆発的人気のベストセラー待望の邦訳」と書かれています。
ドイツでは35万部を突破し、10か国以上に翻訳されているベストセラーだとか。



本書の「目次」は、次のようになっています。
「はじめに」
第1章:世界は、あなたが考える通りにある
[第一印象は外見がつくる]
[見方を変えれば世界は変わる]
第2章:「身体」を見れば、「心の内」がわかる
     [心が身体に影響を及ぼす]
      1.「目」は心を映す鏡
      2.「口」は無言で語る
      3・「頭と首」の姿勢
      4.「肩と腕」のサイン
      5.「手」で世界を掌握する
      6.「足」は意識の方向を示す手がかり
      7.「身体」の直観の働き
     [身体が心に影響を及ぼす]
第3章:「暗示の力」を使いこなす
     [自己暗示の力]
     [他者による暗示の力]
     [言葉が現実をつくる]
     [いかさまを暴く]
第4章:メンタル・トレーニン
第5章:意識を「今このとき」に集中する
第6章:はかり知れない「可能性」
「おわりに」
「謝辞」「訳者あとがき」



この「目次」を見てもわかるように、本書には心理学の基本的な内容が細かく紹介されています。「第一印象は外見がつくる」とか「見方が変われば世界は変わる」とか「自己暗示の力」などは、その最たるものでしょう。
本書には一貫して、「人を注意深く観察することで、言葉を交わさなくてもその人のことがある程度は理解出来るようになる」というメッセージが述べられています。
それらの内容は、けっして目新しいものではありません。



一例をあげると、著者は次のように述べています。
「たとえば新しい車を買おうとするときだ。ある車種に決めたとたん、その車種が町じゅうを走っていることに突然気がつく。しかし、実際にその車種が増えたわけではない。突然、その車種に興味をもったことで情報のフィルターが変わったのだ。
またほかの町に出かけたときにも、あなたがどんな情報を選択しているかがわかるだろう。つまり、自分の町のナンバープレートばかりが目立って見えるはずだ。
同じような現象は、周囲の人との関わりの中でも起きている。
パーティーで少しの間、1人きりになったとする。ざわざわとした音は聞こえても、誰か特定の人の声が聞こえてくるわけではない。ところが突然、誰かがあなたの名前を言ったとする。周りで数多くの言葉が発せられている中で、あなたはほぼ100パーセント、すぐに自分の名前を聞き取るだろう。自分の名前に反応することが身体にしみついているからだ。こんなときも、あらゆる情報のうち、わずかな情報だけを選んで受け取ろうとする。あるいは、わずかな情報しか受け取れず、ある特定の情報についてしか反応できない、と言ってもよいだろう」
わたしも、確かにその通りであると思います。
でも、このような内容はすでに多くの心理学の本で語られてきたことです。


 
「第一印象は外見がつくる」という事実を論証するために、著者は次のように述べます。
「ある調査によると、私たちはある特定の性格や特徴と、特定の外見を結びつけているそうだ。たとえばふっくらした人というと、心が優しい、好感がもてる、穏やかな性格だというイメージをもちやすい。筋肉質の人物は、痩せた人よりも冒険心があり、意志が強く、節度があると思われやすい。このように、第一印象は、外見によって決まってしまう」
また、「つくり笑い」かどうかを見分ける方法は、次の通りだそうです。
「注意してほしいのは、通常、心からの微笑みは、つくり笑いよりも持続時間が長いことだ。本物の微笑と違い、つくった微笑みは不意に終わる。本物の笑みは、自然と消えていく。つくり笑いは唇だけで行われるが、心底からの笑いや、正直で心のこもった微笑みの場合は、目も一緒に微笑んでいる。これは目じりの小さなしわでわかる。
本当に笑うときは、両側の眉が軽く下がる。一方、つくった微笑みは、顔のどちらか半分がやや引きつっている。だからゆがんだ微笑は、たいてい不正直な微笑だ。そもそも笑いというのは多くの側面をもち、笑いを観察することで、重要なヒントが得られる」



面白かったのは、「握手をすると、嘘をつく人が半分に減る!?」というくだりでした。
著者は、次のように述べています。
「握手をするという儀式は、私たちが思っている以上に強い印象を与える。私たちは、握手は、使い古した大した影響のない動作だと思ってあっさり片づけてしまっているだろう。これに関して心理学者ピーター・コレットは、著書『うなづく人ほど、うわの空――しぐさで本音があばかれる』(邦訳:ソニーマガジンズ刊)の中で、アレン・コノパツキが行った実験について書いている。
コノパツキは、電話ボックスにわざと25セント硬貨を忘れていき、彼の次に電話ボックスを利用した人たちを観察した。すると全員がこの硬貨を自分の通話に使用した。
彼らが電話ボックスから出ると、1人の学生が話しかけ、『25セント玉を忘れたのですが見ませんでしたか』と尋ねる。半数以上が嘘をつき、硬貨を見ていないと答えた。
実験の第2段階で、学生は電話ボックスから出てきた人とまず握手をし、それから同じ質問をした。今度は、嘘をついたのは24パーセントだけだった。
つまり、嘘をついた人が半分に減ったのだ!」
このことから、握手をすることには大きな効果があることがわかりました。
おそらく、握手をすることで、互いの心に一種の責任感が生まれるのでしょう。



また、簡単なことですが、感心した部分がありました。
たいていの場合、名前を呼ぶことで相手の心を開かせ、相手との距離を縮めることができますが、これに関する最も重要で簡単なアドバイスは以下の通りです。
「それは、たった今から、誰かと知り合いになるときには、初めて会ったその場で名前を覚えてしまうと決意すること。それだけだ。
お互い自己紹介するときに、もっと注意を払って、新しく知った名前をずっと記憶に留めようと努力する。そのことに100パーセント注意を払い、頭の中で名前をもう一度おさらいすれば、きっとその名前を記憶に留められるだろう。この簡単な方法なら、きっとあなたもうまくできるだろう」



本書の最後で、著者は「科学的に説明できないことの存在」について語っています。
それは、次のような非常に興味深い内容でした。
「魔女が火あぶりにされた暗黒の中性の時代に、次のようなことが試された。
魔女とされた女性が腕や足を縛られ、橋の上から川へと突き落とされた。女性が水に沈んだら、彼女は魔女ではないとされた。水に浮いたら、その女性は悪魔ルシフェルと関係があるとされ、火あぶりにされた。
しかしスペインから来たある宗教裁判官は、このやり方にまだ慣れておらず、違う方法を思いついた。中身が見えない袋に、黒い球を6つと、白い球を1つ入れておき、魔女だと訴えられた女性は目隠しをされて、片手で袋の中から球を1つ取り出す。そこで黒い球を取り出したら火あぶりにされた。白い球を取り出したら、釈放された。
この魔女裁判の論理的一貫性について疑問をもたれても、僕に聞かないでほしい。
本来なら、球の色を逆にすべきだ。しかし当時はきっと、理にかなっているかどうかなど関係なく、ましてや誰かが魔女だとされても、それが真実なのかどうかも重視されなかったのだろう。もし今が中世ならきっと、あなたは今読んでいるこの本を持っているというだけの理由で、訴えられてしまっただろう。
あの時代に、僕のような考え方をしていたらどうなるか、想像したくもない。
ところが、訴えられた女性のうち4人に3人が、白い球を取り出したそうだ!
なぜそうなったのかは、誰にもわからない」


わが書斎の「魔女」関連書コーナー



うーん、これは興味深いですね。わたしもオカルトには関心が深く、「魔女狩り」や「魔女裁判」に関する本もかなり読んできたつもりですが、この白い球のエピソードは初めて知りました。もっと詳しいことが知りたくなってきました。
それにしても、「心を透視するのに超能力はいらない」というのが本書のメッセージだったはずですが、最後に「超能力」の臭いをプンプン感じてしまいました。


2012年3月16日 一条真也