マイケル・サンデル白熱教室

一条真也です。

30日の夕方、学生気分に戻って、素晴らしい授業を受けてきました。
かのハーバード大学の名物教授であるマイケル・サンデル氏の授業です。西南学院創立100周年記念「マイケル・サンデル教授の白熱教室in福岡」に招待されたのです。


会場になった西南学院大学チャペル

白熱教室で受講してきました

サンデル教授の著書販売コーナー



ブログ『これからの「正義」の話をしよう』にも書いたように、ハーバード大学で政治哲学を教えるサンデル教授は、ハーバード大学史上空前の履修者数を記録し続ける、超人気講座「Justice(正義)」を担当しています。
今日は、その出張講座ということで、「若者の希望と幸せの創造」がテーマでした。
会場は、福岡市早良区西新にある西南学院大学のチャペルでした。
わたしは初めて訪れたのですが、とても美しいチャペルでした。
入口前では、サンデル教授の著書が5%OFFで販売されていました。
わたしは2階席の最前列のど真ん中に座り、サンデル教授の授業を聴きました。
会場は800人の聴講者で満員でしたが、受講希望者は8000人近くいたそうです。
なんと10倍の競争を経ての受講ということで、みなさん真剣な表情でした。
なお、会場内は撮影が前面禁止でしたので、授業風景の写真はありません。



サンデル教授は、ハーバード大学で具体的な問いを次々と学生たちに投げかけます。
たとえば、1人を殺せば5人が助かる状況だとしたら、あなたはその1人を殺すべきか?
たとえば、金持ちに高い税金を課し、貧しい人々に再分配することは公正なのか?
たとえば、前の世代が犯した過ちについて、後の世代に償う義務はあるのだろうか?
これらの社会に生きるうえでわたしたちが直面する、正解がないにもかかわらず、決断を迫られるような問題とは、つまるところ「正義」をめぐる哲学の問題です。
著者は、哲学を机上の空論とは見ていません。
わたしたちが今を生き延びるための現実的な思考法なのです。



実際に授業を受けてみると、とにかく聴衆が質問を受けます。
東日本大震災は、みなさんの希望にどういう影響を与えたか。震災の後では悲観的になったか、それとも楽観的になったか」という質問にはじまり、とにかく挙手を求められました。挙手して人の中から発言を許可された者が何か言うと、「では、実例をあげて下さい」と畳み込んできます。サンデル教授自身の発言時間は少なく、ひたすら聴衆に発言させるテクニックが優れています。
なんだか、日本の田原総一郎みのもんたといった人々を連想しました。
サンデル教授は、明らかにテレビの討論番組やバラエティ番組の名司会者に通じる、高い「コーディネーター的資質」を持っていると思います。



まるで「究極の選択」のような極端な二者択一の問題での挙手の要請が多いように感じましたが、サンデル教授の巧みなリードによって、多くの人々が白熱の議論を交わしました。たとえば、「原発事故などの重大情報は、政府の発表と、ブログやツイッターでは、どちらが信用できるか」とか、「日本は移民を受け入れるべきか」といったテーマで激論が交されました。サンデル教授は、いろんな意見があるということを前提に、議論をすることの価値を説き、だからこそ民主主義が活性化するとして、今日の議論が若者の希望の源泉になると述べました。最後に盛大な拍手が起きましたが、サンデル教授自身が観客席に向かって拍手をしているのが印象的でした。



ところで、謝辞を述べた西南学院のコミュニケーション学科の教授が、「いつも、サンデル教授と同じように学生に問いかけているのですが、悲しいことにわたしの学生は答えてくれません」と話していました。いやー、北陸大学でも同じですね。わたしたちの問い方が悪いのか、それともレシーバーの感度に問題があるのか? 
わたしは、サンデル教授とハーバード大学の学生たちの濃密なコミュニケーションが心から羨ましいと思いました。いや、ほんとに。


西南学院バークレー院長の挨拶

拍手の中をサンデル教授が入場!

レセプションで挨拶するサンデル教授

人間味があって、魅力的な方でした

大宰府天満宮から記念品を受け取る



その後、西南学院大学のキャンパスからバスに乗って、グランドハイアット福岡の「グランドボールルーム」に移動し、歓迎レセプションが行われました。
レセプションの冒頭では、西南学院のG.W.バークレー院長による挨拶がありました。
その後、サンデル教授が盛大な拍手の中に入場し、挨拶をされました。
サンデル教授は、非常に人間味があって、魅力的な方でした。今日は、大宰府天満宮を訪れたそうですが、その大宰府から巫女さんが来て、記念品を贈呈しました。
それから、元アサヒビール会長や元NHK会長を務められ、現在は新国立劇場の理事長である福地茂雄氏の音頭で乾杯しました。


高校の大先輩である福地茂雄氏と

RKB毎日放送の永守良孝社長と



じつは福地氏は高校の先輩で、ブログ「小倉高校同窓会」に書いた行事でもお会いしました。今日の「マイケル・サンデル教授の白熱教室in福岡」の司会を務められたRKB毎日放送の納富昌子さんの番組である「元気by福岡」に福地先輩が出演された翌週にわたしが出演したというご縁もあります。
ちなみに今日のイベントは、RKB毎日放送の60周年記念事業でもありました。
今日は福地先輩とゆっくりお話できましたが、「あなたのことはよく知っていますよ」と言っていただき、光栄でした。福地先輩はNHKの元会長であり、会長時代にあの「無縁社会キャンペーン」が展開されました。そこで、わたしは「NHKさんのキャンペーンに刺激を受けまして、わたしは今、有縁社会キャンペーンを推進しているんですよ」と申し上げたら、「それは、それは・・・」と驚かれていました。
また、RKB毎日放送の永守良孝社長ともお話しました。
永守社長は以前、北九州で長く勤務されていたそうです。わたしに向かって、「お父様には大変お世話になりました」と気さくに言って下さいました。


スーパーアイドルのようなサンデル教授

サンデル教授とは、少しだけ話しました



当のサンデル教授は、スーパーアイドルのような扱いで、モミクチャでした。
わたしも少しだけお話させていただきました。サンデル教授は「正義」というテーマを取り上げられますが、わたしは『論語』の「義を見てせざるは勇なきなり」ということで、「勇気」に関心があります。また、「礼儀」にも関心があります。
ということで、もしもわたしが白熱教室を担当するならば、「これからの『勇気』の話をしよう」、あるいは「これからの『礼儀』の話をしよう」というテーマで行きたいと思います。



「礼儀」といえば、サンデル教授自身は非常に礼儀正しいジェントルマンでした。
また、彼の授業スタイルはいわゆる「ディベート」教育になっていると言われます。
実際、ハーバード大学の教え子の中から、何人も「ディベートの達人」が輩出しました。
しかし、サンデル教授が指導するディベートは、日本のどこかの市長のような相手の揚げ足を取って、力づくでねじ伏せるような下品なディベートではありません。
あくまでも相手の意見によく耳を傾け、自分の考えとの違いを明確にして、そこから礼儀正しく建設的な議論を進めていくエレガントで上品なディベートです。
だからこそ、サンデル教授は、議論という営みが民主主義を活性化させると訴えたのでしょう。また、前向きな議論こそが若者の希望の源泉になると述べたのでしょう。
今夜は、西南学院の院長をはじめ、九州大学の総長、福岡大学の学長など、大学関係者がたくさん来られていました。それらの方々とお話しつつ、わたしは「やっぱり、若い人の前で話をしたいなあ!」と痛切に思ったのでありました。
サンデル教授は、明日は韓国に行かれて、出張講座を開かれるそうです。


2012年5月31日 一条真也


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