『エリア51』

一条真也です。

『エリア51』アニー・ジェイコブセン著、田口俊樹訳(太田出版)を読みました。
「世界でもっとも有名な秘密基地の真実」というサブタイトルがついています。
著者のアニー・ジェイコブセンは、アメリカの調査報道ジャーナリストです。
「ロサンゼルス・タイムズ・マガジン」の編集などに携わっているそうです。


世界でもっとも有名な秘密基地の真実



本書の帯には、「全米に衝撃を与えたベストセラー。100人を超える関係者に徹底取材。禁断の秘密基地の全貌が遂に明らかに。核実験、ロズウェル事件、知られざる人体実験―米政府がいまだ存在を認めない軍事施設の驚愕の歴史」と書かれています。
また、カバーの折り返しには次のような内容紹介があります。
ネヴァダ州の砂漠地帯に位置する軍事施設エリア51。
UFO墜落・宇宙人の遺体回収で知られる『ロズウェル事件』の舞台として世界的に有名であるにもかかわらず、現在も当局によってその存在は伏せられている。
調査報道ジャーナリストの著者は、極秘の開発計画に携わっていた物理学者への取材をきっかけに、エリア51に住み、勤務した30人以上から貴重な証言を得ることに成功。その結果、冷戦下の軍事秘史が初めて明らかになった。大統領さえも除外される厳重な管理体制のもと、いったい何が行なわれてきたのか? 100人以上の関係者証言をもとに、大きな謎に包まれた秘密基地エリア51の内部に初めて踏み込む!
超音速爆撃機の開発をめぐるソ連との攻防、ロズウェル事件の真相、核および人体実験の知られざる驚愕の事実など、アメリ軍事史の闇の迫る渾身のノンフィクション」



本書の「目次」は、以下のようになっています。
プロローグ:秘密都市
第1章:エリア51の謎
第2章:架空の宇宙戦争
第3章:秘密基地
第4章:陰謀の種子
第5章:情報適格性
第6章:原子力事故
第7章:ゴーストタウンからブームタウンへ
第8章:転落するネコとネズミ
第9章:基地の再構築
第10章:科学、テクノロジー、仲介の達人たち
第11章:どんな飛行機?
第12章:さらなる隠蔽
第13章:汚くて退屈で危険な任務は無人偵察機
第14章:砂漠のドラマ
第15章:究極の男社会
第16章:ブラックシールド作戦とプエブロ号事件の知られざる歴史
第17章:エリア51のミグ
第18章:メルトダウン
第19章:月面着陸捏造説と、エリア51にまつわるその他の伝説
第20章:空軍の支配――カメラ室から爆弾倉まで――
第21章:驚くべき真実
エピローグ
訳者あとがき
取材協力者と参考文献



第1章「エリア51の謎」の冒頭には、次のように書かれています。
「エリア51はまさしく謎である。誰もがその正体を知りたがっているのに、そこでおこなわれていることを完全に把握している者はごくわずかしかおらず、多くの人がこう考えている――エリア51というのは最先端の諜報活動および戦闘システムに関連した秘密基地だと。なかにはこんなふうに考えている者もいる――エイリアンや捕獲したUFOの存在する闇の世界だと。実際のところどうかと言えば、エリア51というのは、どの国より迅速に軍事科学技術を発展させる目的でつくられた連邦政府の秘密施設だ。それがなぜネヴァダ州南部の高地砂漠――周囲を山でぐるりと囲まれた、世の中から隔絶された場所――にこっそりとつくられたのか。それこそエリア51最大の謎だ」


500ページ以上のボリュームの本書では、その「エリア51の謎」の謎について書き尽くしています。エリア51というと、やはりUFOやエイリアンの死体のことをまず連想しますが、わたしはUFOについての考えをブログ「UFOについて」に書きました。
UFOが最も頻繁に目撃されたのは冷戦時代のアメリカです。
冷戦時代に対立したアメリカとソ連の両大国は絶対に正面衝突できませんでした。
なぜなら、両大国は大量の核兵器を所有していたからです。そのために両者が戦争すれば、人類社会いや地球そのものの存続が危機に瀕するからです。
そこで、第二次大戦後には、米ソ共通の外敵が必要とされました。
その必要が、UFOや異星人(エイリアン)の神話を生んだのではないかと思います。
いわゆる「空飛ぶ円盤」神話が誕生したのは、アメリカの実業家ケネス・アーノルドが謎の飛行物体を目撃した1947年です。第二次大戦から2年を経過し、3月には事実上の冷戦の宣戦布告であるトルーマン・ドクトリンが打ち出されています。
東西冷戦がまさに始まったその年に、最初のUFOがアメリカ上空に出現したのです。


かつて米ソ共通の最大の敵といえばナチス・ドイツでしたが、その後任として、宇宙からの侵略者に白羽の矢が立てられたとは言えないでしょうか。
「UFOはナチスが開発していた」とか「ヒトラーは地球の裏側で生きていた」などというオカルティックな俗説が流行するのは、新旧の悪役が合体したイメージに他なりません。
本書『エリア51』に書かれているUFOの正体は、わたしの考えとほぼ合致したので非常に納得できました。しかし、最後に明かされるロズウェル事件で実在したというUFOの搭乗員の死体、いわゆるエイリアンの死体の正体だけは突拍子もない説が述べられます。これならば、いっそ地球外生命としての宇宙人が正体であったというほうが理解しやすいぐらいです。


本書はノンフィクションですが、その核心部分(UFOとエイリアンの正体)についてはネタバレになるように思われるので、あえてここでは明かしません。
興味がある方は、ぜひ本書を通読されてみて下さい。
ちなみに、本書にはアポロが月に行かなかったという「月面着陸捏造説」に関する話題も登場します。UFOに対する関心だけでなく、軍事問題に関心のある方には途方もなく面白い本であることを保証します。一言でいうと、本書の最大のテーマは「米ソ冷戦」であり、その優れたノンフィクションとなっています。


そして、もう1つの大きなテーマは「核」であり、「放射能」です。
エリア51は、ずばり、ネヴァダ州の核実験エリアのど真ん中に位置していました。
「訳者あとがき」には、次のように書かれています。
「現在わが国が抱えている大きな問題、放射能汚染に関する記述にも驚かされる。米ソのあいだで部分的禁止条約が締結され、地上での実験が中止されるまで、1950年代から60年代初頭にかけて、ネヴァダ核実験場でおこなわれた核実験管理のなんと杜撰だったことか。コスト削減というだけのために核爆弾を気球に吊るして爆発させたり(その気球が風で吹き飛ばされ、ラスヴェガス方面に流されるという事故が現に起きている)オゾン層が破壊されてもそんなものはすぐに修復されるなどと真面目に論じられていたり、核実験の除染がまったくおこなわれていなかったりと、これまた今なら誰もが怖気立つような事実だ。さらに、条約締結後も162回という核実験が地下でおこなわれ、その半数近くで大気圏への『偶発的な放射漏れ』が発生しているという。それらの放射能はどこに飛散し、今どこに蓄積されているのか。半世紀もまえのことではないかと言うなかれ。プルトニウム半減期は2万年を超えるのである」



そう、人類を滅亡させることが可能なのは宇宙人の攻撃ではなく、地球上で生まれた放射能なのです。ブログ「『こころの再生』シンポジウム」に書いたように、7月11日の夜、京都の百万遍で作家の玄侑宗久さんや宗教学者島薗進さんたちと飲みました。
そのとき、玄侑さんと島薗さんのあいだには放射能の人体影響についての認識の違いがあり、激論が交されました。ちょうど、玄侑さんがアメリカの陰謀について話をされたので、わたしは読了したばかりの本書の内容を簡単に説明しました。玄侑さんは、「アメリカという国なら、そういうことも有り得るでしょうね」と言われたのが印象的でした。


プルトニウム半減期は、じつに2万年を超えるといいます。
それにもかかわらず、アメリカは1945年の世界初の「トリニティ実験」から1992年のアメリカ最後の「ジュリアン作戦」まで、数えきれないほどの核実験を行ってきました。
この事実を受けて、訳者の田口俊樹氏はアメリカについて次のように述べます。
「核爆弾の威力だけでなく、放射能が生物に及ぼす影響に関しても膨大なデータを持っていても不思議ではない。しかし、今回のわが国の原発事故に関して、チェルノブイリやスリーマイルはよく引き合いに出されても、『米軍の資料によれば』といった報道は訳者の知るかぎりまったくなされていない。それはこうしたデータもまた『機密事項』だからなのだろうか。軍事機密には軍の最高司令官である大統領さえ知ることのできない情報があるというからには、そんな勘繰りもしたくなる」
さらに、訳者の次の一文を読んだとき、わたしは戦慄しました。
放射能汚染について本書では、もうひとつ興味深い指摘がされている。ミミズが移動させる土壌の量が半端ではないというのだ。そうしたミミズはどこにでも飛んでいる鳥に食べられ、鳥はどこにでも糞をする。言われてみればもっともなことで、これが事実とすれば、今の日本でいったいどんな対策が取れるのか。いささか不安になる」
放射能問題について考えている人にも、本書をお勧めします。


最後に、エリア51から発着していた「ドラゴンレディ」の愛称で知られる「U−2」偵察機が多くの人々によって空飛ぶ円盤に誤認されたと本書には書かれています。
U−2機は長い翼を持ち、地上から見上げるとまさに未知の飛行物体でした。それが当時の常識を遥かに超えた高さをこれまた常識外れの速さで飛行したのです。そのため、エリア51周辺の人々をはじめとした多くの「UFO目撃者」を生んだというわけです。
U−2の後継機である「オックスカート」ことA−12、「ブラックバード」ことSR−71といった超高速・高高度偵察機もしばしばUFOとして目撃されることになります。
この事実を初めて知ったわたしは非常に驚くとともに、話題の「オスプレイ」こと「V−22」軍用機のことを連想しました。言わずと知れた垂直離着陸輸送機ですが、あの動きなどはまさにUFOを思わせるのですが・・・・・


2012年8月24日 一条真也