図書館コミック

一条真也です。

いま、コミックの世界では「図書館コミック」というジャンルが生まれつつあります。
ブログ『鞄図書館』で紹介したコミックもそうですが、その他にもあります。
その代表作ともいえる名作が、『夜明けの図書館』埜納タオ著(双葉社)です。


ほんのりあったか、図書館コミックの誕生



帯には「その疑問、新米司書がお手伝いします。」と大きく書かれ、続いて「利用者の調べものをサポートする『レファレンス・サービス』。難問・奇問の裏に隠された真実とは・・・!?」とあります。
そう、本書は市立図書館で働く新米司書・ひなこの物語です。
日々、ひなこは利用者からはいろんな質問を投げかけられます。
それも、「ある写真を探している」「光る影の正体が知りたい」などの難問ばかりでした。
こうした疑問に対し、適切な資料を紹介するのも図書館員の仕事なのです。
ひなこは、迷宮入りしそうな利用者の疑問に敢然と立ち向かっていくのでした。
まさに、新感覚の「ライブラリー・コミック」の誕生と言えるでしょう。



本書には、次の4つのエピソードが収められています。
第1話「記憶の町・わたしの町」
第2話「父の恋文(ラブレター)」
第3話「虹色のひかり・・・」
第4話「今も昔も・・・」



いずれのエピソードも、読者の知的好奇心を刺激し、最後はじんわりと感動させてくれるハート・ウォーミングな話ばかりです。そして、そこには少しのヒントでも見逃さずに、なんとか利用者の力になりたいという主人公ひなこのプロ根性があります。
わたしは、ひなこの情熱に「ホスピタリティ」を強く感じました。
そう、ホスピタリティとはけっしてホテルや飲食業だけのものではありません。
お客様のいる仕事なら、どんな仕事にだって求められるものなのです。
若い女性をはじめ、いろんな仕事に就いている人がいるでしょうが、本書を読めばきっと自分の仕事に前向きになれるのではないでしょうか。



本書のアマゾン・レビューの中に、こんな意見がありました。
「こんなに一生懸命になって、本を探してくれる司書がいたら、本を探してもらった人は、どんなにうれしいと思うだろう・・・。この作者さんの描き出す繊細な絵も、紡ぎだす言葉も、一つ一つの人生も、どれもが美しく、この本が好きになりました。『図書館に行きたいな』そう思ってしまう、暖かい物語でした」
わたしも、このレビュアーの方にまったく同感です。
こんなに読後爽やかな気分になったコミックは久しぶりです。
著者には、ぜひ続編を書いていただきたいと思います。


「児童書のソムリエ」の物語



次に紹介する図書館コミックは、『図書館の主』1・2巻、篠原ウミハル著(芳文社)。
ある私立の児童図書館に勤める名物司書・御子柴の物語です。
彼は地味なメガネをかけた無愛想な男ですが、仕事は一流です。
図書館を舞台に「児童書のソムリエ」が活躍します。



この漫画には、「うた時計」「宝島」「幸福の王子」「少年探偵団」「ニルスのふしぎな旅」「貝の火」「クリスマス・キャロル」などの児童書が続々と登場します。
どれもが子どもの頃に夢中になって読んだ本ばかりで、とても懐かしかったです。
子どもの頃、本は魔法のじゅうたんでした。本を開けば、どんな場所にだって、どんな時代にだって、自由自在に飛んでいけました。
本書には翔太という少年が登場します。最初は本などに興味を示さなかった翔太ですが、御子柴のすすめで『宝島』を読み始めます。その面白さのとりこになった彼が「なんか全部読んでしまうのがもったいねーんだよなー」と言う場面があります。
その言葉、涙が出るほど、よくわかりますね。
でも、御子柴は「安心しろ」とひとこと言います。
そして、「『宝島』を読み終わったら、また新しい本を借りに来ればいい。ここには、こんなにお前を待ってる本があるんだ」と言うのです。いやあ、素晴らしいセリフですね。



本書の主人公である御子柴は「児童書のソムリエ」ですが、じつはわたしも「本のソムリエ」と呼ばれることがあります。というのも、新聞や雑誌で「ハートフル・ブックス」および「一条真也の読書塾」といった読書案内を連載しているからです。
これまで、じつに多種多様な本を毎月紹介してきました。時々、北九州の飲食店をはじめ、理髪店とか立体駐車場などに行くと、「この前紹介されていた本を読みました。とても面白かったです!」などと言われることがあるのですが、本当に嬉しいですね。その方の心の養分をプレゼントしたような気分になってきます。



もちろん、わたしが紹介する本の中には児童書も含まれています。
児童書といえば「童話」が思い浮かびますが、わたしには『涙は世界で一番小さな海』(三五館)という著書があります。この本では、アンデルセンの「人魚姫」「マッチ売りの少女」、メーテルリンクの「青い鳥」、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」、そしてサン=テグジュぺリの「星の王子さま」といった童話の読み方について書きました。
まだ読まれていない方は、どうぞ御一読下さい。


世界で最初の本を読みたい



最後に紹介したいのが、『永遠図書館』1・2巻、赤星治人著(講談社)です。
ちょっと絵柄が萌え系で、正直言って、わたしの趣味ではありません。
しかし、「図書館」がテーマということで読んでみた次第です。第1巻の帯には「世界で最初の本を読みたい。」と大きく書かれ、「少女は幼い頃からの願いを胸に、『永遠図書館』の白道司書(ベルベット)を目指す」と続きます。



アマゾンでは、第1巻の内容を次のように説明しています。
「『宇』とは空。『宙』とは時。そこは宇と宙の狭間に在るコネプルシア図書館。そこには全宇宙の歴史と英知が集まるが故に、通称『永遠図書館』と呼ばれています。そして、本が大好きな少女メシェは、幼い頃からの憧れだったその図書館の『白道司書<ベルベット>』を目指しています。いつか、『世界で最初の本』を読む日を夢見て──」
また、第2巻の内容は次のように説明されています。
「全宇宙の歴史と英知が集まるが故に『永遠図書館』とも呼ばれるコネプルシア図書館。その禁断の中央書庫塔の深奥にあるという『世界で最初の本』を 読む夢を抱く白道司書<ベルベット>メシェは、未だ見習いの身。そんな彼女に、白道司書<ベルベット>として独り立ちできるか否かを決する試練の 時が訪れようとしていました──」



まず、『永遠図書館』というタイトルが素晴らしいですね。
わたしの敬愛する作家であるボルヘスの『バベルの図書館』を連想させます。
また、本書のストーリー自体もボルヘスの世界を彷彿とさせる神話とファンタジーの融合のような幻想的な物語になっています。あまりにも超現実的な世界を描いていて、舞台は図書館というイメージを超越してしまっています。
まるで「図書館星」とでも呼ぶべき惑星の歴史を読んでいるようです。


前代未聞! ワンダーランドのカタログ



わたしの監修書に『よくわかる伝説の「聖地・幻想世界」事典』(廣済堂文庫)という本があるのですが、その本の中に紹介したいような図書館でした。
もともと、本とは「ここではないどこか」に連れていってくれる魔法のじゅうたんであり、その本が集まった図書館とはワンダーランドに他なりませんが、本書のようにここまで図書館という場所をファンタジーにしてしまったのは凄いと思います。


*このブログ記事は、1995本目です。


2012年8月30日 一条真也