名前は世界最小の文芸作品

一条真也です。

ブログ「本のタイトル」を読んだ方からメールをいただきました。
そこには、「名前は本当に大切ですよね」という言葉の後に、「一条真也という名前はどうして付けられたのですか?」という質問が記されていました。


                   本名も筆名も宝物です


一条真也」はペンネームです。
わたしの本名は、「佐久間庸和(さくまつねかず)」といいます。
「庸和」の「庸」は、四書五経の『中庸』に由来します。
「和」は、聖徳太子の「和をもって貴しと為す」が有名ですが、これは『論語』に出てくる「有子曰く、礼の用は和を貴しと為す」に由来します。
つまり、「庸和」という名前は非常に儒教的なのです。
一方、「一条真也」という名前はどうか。
この名前のルーツは梶原一騎原作の『柔道一直線』です。少年時代に、テレビドラマに夢中になりましたが、桜木健一が演じた主人公の名前が「一条直也」だったのです。
もともと父が大学時代、柔道の選手で、東京オリンピック金メダリストの猪熊功選手と対戦したこともありました。
父は、現在、講道館の7段教士です。
大学卒業後、自ら事業を起こしてからも「天動塾」という町道場を開いて、近所の子供どもたちに柔道を教えていました。
わたしもそこで学び、物心ついたときから柔道に親しんでいました。
高校時代には2段を取得しました。
なお、劇画『柔道一直線』の舞台が最初は九州・小倉であったことから、わたしは主人公の一条直也に強い親近感を抱いていました。

処女作『ハートフルに遊ぶ』(東急エージェンシー出版事業部)を当初は本名の佐久間庸和の名で上梓するはずでしたが、版元である東急エージェンシーの新入社員であったことから、直前にペンネームを考えるようにとの指示が会社からありました。そこで、少年時代からのヒーローであった「一条直也」を一字だけ変えた「一条真也」という名前を思いついたのです。
ちなみに、大阪には「一条真也」というホストがいるようです。ネット検索で知りました。



当然ながら、名前のない人はいません。
すべての人には名前があります。
そして、その名前には何らかの意味があります。
わたしは、名前とは世界最小の文芸作品ではないかと思っています。
日本では短歌や俳句が浸透していますね。短歌ならば31字、俳句だと17字の詩歌の「かたち」を国民が共有しているというのは、すごいことです。
でも、名前で17字もある日本人はいません。つまり、名前は俳句よりさらに短いわけです。命名の苦労は、文芸における創作の苦労とまったく変わりません。


誰でも、わが子に納得のゆく名前をつけようとします。
先祖や親の名前や生まれた季節にちなんだり、たとえば「真」「善」「美」といったキーワードを入れようとしたり、語感で飾ろうとしたりするわけです。すなわち、名前とは親が「このような人間に成長してほしい」という願いを込めた文芸作品だといえるでしょう。
詩には志が宿るといいますが、名前には親の願いが宿るのです。 
そんな名前は、すべての人にとっての宝物。
だから、わたしは、人を呼ぶときは必ず名前で呼ぶことを心がけています。
それが「礼」すなわち「人間尊重」の基本だと思います。


2010年2月23日 一条真也